根比べ
2016年2月 ロシアにて
少数精鋭として世界中の裏社会に名前を轟かせていた、イリイチの所属していた組織、ジォーキルズ。1人1人がジョーカー並の力を持つということでいつの間にかつけられていた名前は、彼らがあの時どれだけの力を持っていたかが分かるだろう。
そんなジョーカーたちはある仕事をきっかけに空中分解を起こした。政府の依頼により行った仕事、旧ソビエト共産党の中でもさらに過激派であるボリシェヴィキの殲滅。奇しくもかつてのソ連の権力を握っていたボリシェヴィキと同じである。度かつくほどの過激派。そんなボリシェヴィキたちは政府よりもより進んだ超能力者研究機関を持っていた。そんなことは梅雨知らずに、滅ぼすためにイリイチとジダーノフは彼らのアジトにたどり着く。
「時代遅れの老人の諸君!マルクスは死んだ。レーニンは死んだ。スターリンは死んだ!今どき共産主義にこだわるお前らも死ぬ!」
「それは困るなぁ。革命が出来なくなるではないか。」
部屋の中は恐ろしいほどの殺気に満ち溢れている。その中で笑顔で笑う、かつてのスターリンのような男は、グルシアワインを呑みながら不遜に笑う。
「革命は素晴らしいものだ。あの時の楽しみを奪われては我々は堪らん。同志諸君。彼らは反革命的だ。射殺しろ。」
指揮者は指を鳴らし、音楽は鳴り始める。イリイチとジダーノフは難なく避けると、相手の頭領のほうに向かって走る。
「何が革命、何が共産主義だ!もうあれから30年以上たっているんだぞ。お前ら馬鹿共の夢の狭間はもうおしまいだ。」
ジダーノフが頭領に向かって吐き捨てる。それでも頭領は眉1つ動かさず余裕を崩さない。
「我々の夢の狭間はまだ終わってはいないぞ。少年たち。」
拳銃を頭に向けられているというのに、どうも落ち着きすぎている。その理由は直ぐにわかった。超能力者がいる。
「おい!こいつら全員超能力者じゃねぇのか!?」
「その中でも別格なやつが今から来るのさ。」
イリイチはいやに落ち着いた感覚であった。その発言の通りに化け物は現れた。
「ジダーノフ。逃げろ。こいつはやばい。」
ジダーノフは空気を察して脱出する。他の党員も部屋から出る。
「遊んでいけよぉ!!」
イリイチの連続勝利はここで途絶えるのであった。
時間は戻り、2017年の東京のとあるビルにて
イリイチの笑い声は止まることを知らない。彼の考えが正しければ、これは復讐戦になる。ジダーノフの復讐にも、そして自らの復讐にも。
「上等だ!空間支配系能力者か!お前があの男かどうかは置いといても、能力自体に対する復讐になるなぁ!」
開放式を自発的に近い形で作動させる。第一号開放式だ。あらゆる攻撃を無差別に相手に喰らわせるシックス・センスの進化系だ。
「さぁ、かかってこいよ。」
近接攻撃とは言っても泥臭い殴り合いだ。そして泥臭くなるのは相手だけだ。自分はダメージを喰らわない。
「見事なものだろぉ!お前が強い攻撃をすればするほど自らのダメージとして換算される神の力だ!」
2倍換算でダメージを受けた相手は、さすがに倒れ込む。
「…そうだな。神の力だ。不条理で理屈なく全てがペテンだ。だがよ…。」
空間と空間をねじ曲げ、地球と宇宙を繋ぎ合わせる。今この空間は無空状態となった。
「神の力は神の力だ。お前は神ではない。いまこの空間は宇宙そのものと同化しつつある。俺も死ぬだろうがお前も死ぬだろうな。人間を超えられない俺たちは結局死ぬんだよ…!」
道ずれ攻撃だ。あらゆる能力を行使しても、宇宙空間という無空空間では何ひとつとして成すすべがない。イリイチの敵、アレキサンダーは改めて笑顔になる。
「まだ負けた訳じゃあない。この空間を作っているのはお前だ。お前が先に死ねば俺の勝ちだからな。根比べだ…!」
ありとあらゆるものが宇宙に向かって吹き飛ばされていく。そんな中でもイリイチとアレキサンダーは意地だけで地球空間に残り続ける。
全てを吹き飛ばさんと重力は宇宙に向かい続ける。彼ら2人の残存酸素はもはや0に近い。意識を切らした方は確実に死ぬ。アレキサンダーからすればこれは自爆攻撃だ。自分の生命と引き換えに不条理の極みである宇宙空間を呼び出したのだ。イリイチはいつもの余裕に溢れた笑顔は消え失せ、少し恐怖すら感じているような面持ちになる。
「…死ぬのは怖いさ。誰だってそうだ。」
「死を恐れるなよ。鬼が恐れるな。鬼はみんなから恐れられてなければいけないんだよ。お前が恐怖を感じてどうするんだ。」
イリイチの弱音をアレキサンダーは返す。この言葉をもって、アレキサンダーの残存酸素は完全になくなる。
「……!俺の勝ちだな…!」
「あぁ、そのようだな。あの世で待ってるぞ。赤鬼…。」
空間の狭間は消えてなくなり、地球空間に戻る。アレキサンダーは息絶え、イリイチは勝利した。
「闘いに負けたが闘争には勝った…。ッハハ。また死ねねぇのか。」
赤鬼は恐れを知らない。いや、知ってはならない。鬼は誰よりも恐ろしくて強くなくては行けないのだから。




