さようなら 最後の盟友。
「東京観光ももう終わりだなぁ。あの馬鹿どもの面も少し拝みたくなってきたし、目的もほぼ果たした。ジダーノフの馬鹿は相も変わらず馬鹿だったなぁ。」
誰が聞いている訳でもない独り言を呟く。東京に来てからおよそ1週間。ジダーノフとの再開は済ませたし、なんだったら仕事までした。彼にとっての東京観光はもう終わっているのだ。
「そういや、報酬がまだだな。あの馬鹿バックレやがったか?連絡するか。」
通話を開始する。政府が通話を盗聴しているなんてことは百も承知なので、当たり障りのない会話から報酬の話に持っていこうというハラだ。
「でねぇな。ジダーノフの気配は…。どこにもねぇな。死んだか?いや、僅かにあるな。そんなに離れてはいない。」
ホテルを出る。朝の気候は上々だ。まだ昼ほどは暑くはない。半袖のシャツに身を包み、下は短パンと夏らしい格好で外に出る。
外に出れば、イリイチの刺青に人々は目を傾ける。誰も口にはしないが明らかに腫れ物を触るかのように扱われて少し不思議な気分になる。
東京の郊外、人気のない場所にたどり着けば、そこにはジダーノフが死にかけていた。
「よぉ、ジダーノフ。おめぇほどの男が死ぬとは思わなかったぜ。」
「よぉ、イリイチ。そうだな。日本で死ぬとは思わなかったぜ。」
ジダーノフは笑顔であった。周りを見渡せば死体が大量に散らばっている。数でも質でも勝る相手を道連れに死んでいくほど楽しいことは無い。
「誰にやられたか分かるか?仲間割引だ。タダで報復してやるよ。」
「多分超能力者だろうな。この前の科学者を攫った時の奴らだろう。つまりは東京本校ってやつだな。報復は頼んだ。あと…。」
まるで前から用意していたかのように手紙を出す。どうも遺書のようだ。
「これを出しといてくれ。嫁さんとガキ5人のための緊急用の口座と暗証番号だ。中身を見てネコババするなよ?」
「しねぇよ。年がら年中ギャンブルで金使い果たしてるお前の財産なんて大したことねぇだろ?」
ジダーノフは血まみれな身体など気にせずに高笑いする。そして、煙草を咥えた。
「天国に1番ちけぇ煙草だ…。俺もようやく死ねるのか…。あの世でみんなが笑ってやがる…。イリイチ…。地獄で待ってるぜ。」
「あぁ、じゃあな。そう遠くないうちにまた会おう。」
まるでまた遊ぶ約束をした子どものように別れの挨拶をする。彼が息絶えたのを確認し、イリイチは去っていく。
「また、ひとりぼっちだ。」
感傷たっぷりに笑うイリイチは昔の仲間を完全に失い、ひとりぼっちで生きていく。それは哀しみなのか、はたまた違うものなのか。シックス・センスを行使しても理解できないものは理解ができないことなのだ。人間というものの深さがまた1つ感じられた。
「また1人、また1人死んでいく。俺の敵も友だちも。昨日の友は今日の肉塊だ。もっとも、それはお前らもだけどなぁ。」
シックス・センスという力は残酷だ。どんなに押さえつけても敵性意思を感知してしまう。彼はまだ地獄に行くことが出来ない。
「さぁ、かかってこいよ。超能力者ども。てめぇの力に溺れてるお前らに、本当の力を見せてやる。」
受信を送信に切り替える。その瞬間で超能力者たちは倒れ込む。その1人1人を綺麗にゴミに変えていく。最期の1人が立ち上がり、超能力が通用せずに、とうとう命乞いを始めたところで興奮は絶頂に達する。
「や、やめてください!お願いします!何でもしますk」
「じゃあ死んでもらおうか。月並みな反応しかできないお前らは月並みな殺され方で死ぬんだよ。」
声を遮り、破裂音が路地裏に響く。いつものように豪快に高笑いするイリイチは、久々の大量殺戮に感動を覚えるのであった。
「笑えてくるなぁ。死ぬ度胸もない癖に、マニュアル通りに人殺し達成して挙句の果てには報復には命乞いをする。泣き叫ぶ害虫たちは俺が弾いた引き金と共にくたばって行く。なんて痛快だ!ジダーノフ!あの世で待ってろよ!この世界に飽きたらそちらに行くからよ!」
盟友に対する最後の言葉を空に向けて放つと、東京観光ももう終わりであると感じる。今日はいい天気だ。帰りにお土産を買って帰ろう。




