再び
「日本という国は無邪気なものだな。超能力者という制御不能な機械がそこら辺にいるというのに、何も考えずに生活してやがる。」
間抜けな科学者、もとい、日本人の科学者でありかつてはロシア政府のお雇外国人であった千畝を拉致して消そうとしている彼らはそう言って笑った。
「だがまぁいい。知らないということは幸せな事だ。それはお前もそうだったはずだがな。Mr.チウネ。」
千畝はどうすることも出来なかった。イリーナを連れて日本に亡命してからおよそ2年。日本政府の保護の元超能力者研究を続けていたが、ここ最近は圧力がかかっていた。ロシアとの外交問題になるのを避けた日本は千畝を差し出そうとしたが、超能力者産業の雄である創成グループが、日本政府から千畝を回収して保護していた。そして安全な場所である東京本校に預けることによって彼と少女の身柄の安全保障をしていたが、その考えは、2人の異常な殺人鬼によって脆くも崩れ去った。学園は直ぐに捜索を開始したが、時すでに遅しと言わんばかりに千畝は処刑されるところまで来ていた。
「最期の言葉でも聞こうか。」
千畝は押し黙った。これ以上の抵抗はまるで無意味なことを悟ったのだ。彼の死はそこまで重要な問題ではないことも。
「やれ。」
目を閉じられ、哀れにも銃殺されるところまで来ている。まるで2年前のことのようだ。あの時も彼は死を覚悟して闘っていた。それは今も変わらない。
銃音は鳴った。だが、それは千畝には当たらなかった。
幼き少女は果たして本当に無邪気で可愛いだけの存在なのか。それに答えるかのように、少女、もとい、イリーナは拳銃を持って扉の前に立っていた。
「んだこのガキはよ。…いや待てよ。こいつは…。」
「せいかーい。イリーナだよ!」
物の見事に頭に命中させる。この場にいるものの大半が頭の中で整理がついてない。ついているのはイリーナだけだ。
「大人が頭並べて、寄って集って大人を虐めるなんていけないよ。」
狭く閉ざされた小部屋は、銃音と共に色鮮やかな部屋に変わる。
「チウネ、大丈夫?」
「あぁ…。どうも大丈夫みたいだ。」
足に何発か喰らってはいるが、それでも何とか立ってはいられる。だが立っているのが限界だ。東京本校に連絡を入れる。
「千畝です。はい、はい。えぇそうです。今まで拉致されていました。気がついた時には気絶していて、目を覚ました時には外国人風な男2人に拘束されていました。はい。足に何発か。えぇ、イリーナが助けてくれました。迎えを寄越してください。イリーナと共に学園に戻ります。では。」
電話を切る。イリーナは何処か幸せそうな表情で語る。
「チウネが死んだらイリーナはとても困るよ。まぁ何度でも助けに行くけどね。家に帰るんでしょ?もう夜の2時だよ。少し眠いや。」
「悪かったな。迎えは直ぐに来るだろうから、少し外で待ってようか。」
血みどろな小部屋から出て、処理は学園に任せることにする。学園は千畝とイリーナ、とくにイリーナの方をかっている。本校外務部によると、横浜校は極秘契約でシックス・センスを持った生徒とシックス・センスに対する特効薬のような生徒と契約したという。本校が分校に負ける訳には行かないのだ。そのためにイリーナには東京本校に入ってもらわないと困る。そのためには保護者である千畝の存在も重要になるという理論だ。
結局眠ってしまったイリーナをおんぶしながら、千畝は迎えを待つ。少女を過酷な運命から救ったはいいが、より惨い運命に合わせてしまう可能性がある。それを防ぐためにイリーナのことはよく見張ってなくてはならない。
「父親ってのはこんな気持ちなのか。」
年の離れ方も親子のようだ。千畝が42歳でイリーナは12歳。彼は結婚をしていないため、子供を持つという感覚が分からないが実際のところこれに近いのだろうと勝手に想像する。
「イリーナは疲れて寝ちゃいましたよ。今回のことは事故として処理しといて下さい。イリーナは人を殺すことに全く躊躇や罪悪感がありません。でも、この子には人並みの幸せを掴んで欲しいんです。頼みますね。」
迎えの車。豪華なセダンの後部席にイリーナを寝かせ、千畝は学園に連絡する。学園にいる限りはイリーナは超能力者として扱われて、人並みな幸せなど掴めやしない。だからこそ学園を利用しなくてはならない。ただただ1人の少女の幸せだけを願って千畝は帰路に着くのであった。




