旧友
「そう来なきゃな!最近のガキどもは年上を敬うということを知らねぇ。」
「俺だってお前を敬ったことなんてねぇけどな。」
ジダーノフとイリイチ。年齢でいうとジダーノフのがかなり上だ。年の離れた兄弟と言えるぐらいには離れている。
「お前は実力があるからな。結果出してる分には問題は無いのさ。」
ジダーノフはかなり割り切った性格である。結果を出している人間には別に何も強要しない。その点イリイチはかなりの戦人であるため、相性は悪くは無い。
「俺も自分で組織を持とうと思って、不良のガキどもをスカウトしたわけよ。お前みたいなダイヤの原石があると思ってな。だが何奴も此奴も根性がねぇ。なにが女子供は殺せねぇだよ。なにが友人は殺せねぇだよ。そんな根性で良くもまぁ人殺しで金稼ごうと思ったよな。」
「まぁ、正論ではあるな。世の中舐め切ってやがる。大方、ボンボンが道楽で不良でもやってたんだろう。」
「やっぱ俺たちの組織は奇跡だったな。全員が全員どんな奴でも殺せた。死ぬのを恐れているから、慎重に素早く動けた。主義や思想はボスが上手く纏めてくれた。」
とどのつまり無法者の俺たちは死ぬのが怖いのだ。死ぬこと自体を怖がっている訳ではなく、忘れられるのが怖いのだ。親も兄弟も親戚も友人もなにも持ってはいない社会のゴミたちにとって、殺人はそいつの人生を取り込むための作業だ。怖さを忘れたやつはいつしか死んでいき、次の日にはみんな忘れている。だから怖いのだ。
「他人の死は自分の生を再認識するためのきっかけにすぎない。」
「自分の生を認識できるのは他人が死んだ時だけだ…。ボスも今頃地獄で鬼たちを天国に亡命させているさ。」
ボス。イリイチとほか8名のボス。本名不明。皇帝のような威厳と父親のような親しみを同時に感じるような人。僅か10名の組織は全員がジョーカーのような鬼の集まりだった。国内外問わずに、小規模な暗殺から大規模な大量殺戮まで様々な仕事をこなしたものだ。
「で、ジダーノフ。日本に来た理由は別に俺の勧誘だけでもないのだろう?仕事するなら手伝うぜ。」
「久々にプロと仕事が出来るなんて嬉しいよ。依頼内容を見てくれ。」
1枚の紙を渡される。かなりの暗号が施されている。組織に居なければ確実に読めないだろう。
「間抜けな科学者が超特務秘密を抜き出して日本に極秘亡命。見つけて殺して、特務秘密を守れ。報酬は2百万ドル。使用済みの現金。」
「日本政府が守っているらしいが、まぁ楽勝だろう。」
「楽勝だと思っていると不慮の事故にあうぞ。」
意外なところに落とし穴はあるものだ。今回はイリイチがいるため居場所特定は必要ないが、実際2億円の仕事なのだから、ガードは堅いだろう。
「第六感てのは便利だな。居場所が1秒なく特定出来る。」
東京と絞っているなら簡単だ。間抜けな科学者。外国人。特務秘密。臆病に怯えて護衛に守られている。
「…おいおい、まじか。」
「マジとは何がマジで?」
「創成学園、東京本校。座標はそこだ。6000人を越える超能力者が標的を守っていやがる。」
それは非常に困難な道になると伝えるには十分だった。
「超能力者か。そういやそうだな。日本は超能力者産業が強いんだったな。」
「強いなんてものじゃない。超能力者傭兵のシェア率は日本は9割を越える。独占禁止法に引っかかるレベルだ。」
そしてそれを生み出す学園。その本校。つまりは普通に入っても一瞬で黒焦げになるだろう。ようは…。
「久々に開放式二号が見れるな。青い目が赤くなる瞬間なんて最高にセクシーだぜ!」
ジダーノフは舞い上がっていた。開放式二号、シックス・センスを開放して、無差別に気絶状態を作り上げる魔法だ。だがあまりにも二号式に巻き込まれると、むしろ脳内演算速度が飛躍的に上昇するというらしい。具体的にはシックス・センスを擬似的に使用可能になる。ジダーノフとはよくコンビを組んでいたため、二号式は演算速度を上げるためのきっかけにしか過ぎないのだ。
「脳が慣れるんだよ。あの無双感は堪らねぇな。」
笑顔の絶えない職場。元社員はやはりいつも笑顔であった。




