欲求不満
「なにが望みですか?義経くん。」
「わからない。この状態以外の何かが欲しい。何かが必要だ。それが何かがはわからない。」
「自分の望みが分からないことは人として当たり前のことだ。それに対して焦る必要は無い。日々理想の自分について考えてそれを叶えるために進んでいけばいいのです。」
「そうかい…またな先生。」
学園にはなんでもある。当然病院もある。その中の一つ、心療内科のセラピーを受けながら日々苦悩する生徒がいた。
その生徒は無敵だった。特種な超能力は使えないものの、一通りの超能力はだれよりも使いこなせる。だから無敵だ。敵が無い。
はるか昔の武士、源氏の源義経からとったであろう大層な名前に見合うだけの猛者だ。そんな彼は欲求不満だった。強さは弱さを産む。彼はまた強すぎて弱くなりすぎた典型例だった。
「強いっていうのは罪なものだな。」
「武蔵。誰か俺の欲求不満を抑える奴はいないのか?」
「おれは脳筋だからそんなやつは知らないし知ろうとも思わない。」
武蔵坊弁慶からとったであろう彼の名前はやはりその名前に見合うだけの実力者である。彼は義経に負けたから欲求は抑えられているのであった。
「だが、最近面白いことがあった。内務委員会の崩壊だ。あの腐れライミーは失脚し、内務委員長も責任をとる形で辞任を要請してきた。」
「あの、あのライミーがか?あれを失脚させられるやつがこの学校にいるのか?」
「いるさ。いるとも。学年は2年。順位は公表されていない。だが、2学年1位の高橋美咲よりは遥かに強いだろうな。」
「久々に楽しくなってきたな…」
「イリイチっていう名前はあのレーニンからとった名前か?」
「まぁそうだな。ウラジーミル・イリイチ・レーニン。父性らしいが、俺が前居た組織のボスに付けてもらったのさ。」
「君の組織は共産主義と関係あるのかい?」
「ねぇな。いや、正確に言えば少しある。コミンテルンの過激派たちと仕事したことが何回かあるからな。まぁ、それだけだがな。」
暇潰しの会話を続けるイリイチとリーコン。1週間の拘束により、体調不良と骨がいくつか折れており、入院生活に突入するものの、暇であった。
「正式名称は、いや公式の場ではウラジーミル・イリイチ・ウリヤノフだ。これも結局レーニンからとった名だかな。それに名前なんてどうでもいい。個体選別において名前というものは最も要らないものの一つさ。」
「正論かもな。俺も通名はリーコンだが本名は別にある。そんなものはどうでもいいのさ。どうでもな。」
彼らからしたら本名というものはどうでもいいものだ。イリイチに至っては国籍不明、親不明、兄妹不明と、不明なもののが多い始末である。
このあと久々に大智と合流し、病院を抜け出したのならば、楽しいパーティーか始まる。
「生還記念に乾杯だ。」
呑んで飲んで呑みまくる。ロシア育ちのイリイチは中々酔わずに、2人が撃沈したのを確認し時刻を確認。明け方の4時を回っているのであった。
「やっぱ酔えねぇな。酒は飲んでも飲まれるなってか。いい事じゃあないか。」
久々の酒も久々のタバコも堪能しつくし、彼はまた生還した喜びと1種の虚しさに浸るのだった。
「強さは罪なものだ。弱さがあればもう少し楽だったろうな。」
時刻は4時50分。就寝を始めた。
目覚めは最悪だった。敵性思考をもった超能力者たちが今集結している。
数は3000人ほど。横浜校の生徒の大半を占める。彼らの意思は一つ。イリイチ確保だ。
「さぁ、楽しませてくれたまえ。天才くん。そして欲求を満たしてくれ。」
欲求不満解放のためのゲームが始まった。




