己を支配する感情との出会い―2
阪無の一言で締めくくり、本日の授業も終わりを告げた。
授業中もずっと隣にいる白崎を観察していたが、本当に何の面白みもない奴だ。
真面目に授業に取り組む生徒、とでしか言葉では言い表せない。忘れ物をしました! とかいうドジな性格を見せる筈もなく、消しゴムを落としてそれを俺が拾おうと手を伸ばし、互いの手がぶつかり合う――なんてベタベタなシチュエーションもあり得ないレベルでミスを犯さない。
本当に俺の隣に来た意味はあるのか? ――鞄に教科書類を入れ帰り支度をしている白崎を観察しながら無色透明で見えない白崎の心を探っていた。
「ねえ黒屋。黒屋は何が好きなの?」
と、無機質な表情が不意にこちらを向いた。
「あ? なんだよ急に」
「私にも黒屋がいつも何してるのか教えて欲しい」
昨日自分の事を教えたんだからそっちも教えろや、的な理由だろうか。どうして俺が白崎にそんなこと教えなくちゃいけないんだ、と思ったが、よくよく昨日を思い出してみると無断で白崎の行動を盗み見し、勝手にあとをつけたのは俺の方が先だった。
数秒間たっぷりと考えている間も、白崎はじっと俺を見つめていた。
「……わかった。別に面白いもんでもないけどな。隠すようなもんでもねぇし」
「いい。私は何が面白いかなんて想像もつかないから。黒屋が面白いって思えるものを私に教えて欲しい」
なるほどな。昨日も自分が何が好きなのかわからないっつってたっけ?
白崎は何を考えているのか予測ができない。会話してみてもそれは変わらないが、ちゃんと白崎の心には探求心というものがあって、自分の知りたいと思う気持ちに従順になるくらいの普通の人間らしさは持ち合わせているようだ。
自分の好きな事なんてのもそれと似たようなもんだと思うけどな。
俺はノートを一冊か二冊、鞄の中に放り込み、鞄を肩に担ぎあげ立ちあがった。
「おし。じゃあ行くぞ白崎。俺についてこい」
「おう。黒屋」
「だから何だよその口調は……」
俺と白崎は二人一緒に、他に誰もいない教室を後にした。