第八話 盗賊討伐?
壊れた聖女は、大好物です。
「わたしは教会に顔を出してきます。二、三日は戻らないと思いますが、あまり羽目を外さないようにお願いします」
冒険者登録をすませ、ギルド近くの宿に部屋を取ったところでミステルが言った。
「了解だ。何かやっておくことはあるかい?」
アンドロメダ師匠がごくあたりまえに言葉を返す。
「お金はちゃんと置いていって」
アルテミス師匠もいつもどおりだ。不在のあいだ、自分に不便がないかだけを気にしている。
「いやいやいや、ミステルさんも師匠たちもなに落ち着いてるんですか?! 教会でしょ? ミステルさん勝手に仕事ブッちぎって魔族領来ちゃったんでしょ? 出禁とかじゃないんですか!?」
誰も疑問をはさまない状況にぼくのメンタルは半ばパニックになり、思わず叫んでしまった。だが、二人の師匠は不思議なものを見る目でぼくを見るだけだ。そして、ミステルは思い切り顔をしかめている。
「うるさいですね。少しおちついてください。いくら教会にケンカを売ったといっても、末端の人たちがわたしを崇め敬う気持ちは変わりません。そうなるような手ぐらいは打ってから出てきているに決まっているでしょう」
「崇める」とか「敬う」とか、普通はこういう場合に自分に対していわないと思う。それに、それらの言葉と「手を打つ」という言葉は、あまり相性が良いとは思えない。
「つまり、本部にさえ顔を出さなきゃ大丈夫だと?」
「本部でも上に話が行かなければなんとでもなります。それに、もし最高幹部に知られたとしても、見て見ぬフリをするよう脅すネタはいくらでも持っています。ヤツら本当に人間のクズばかりですから。次期聖女をあまり嘗めないでください」
それを「嘗めている」と表現するべきかはわからないが、ここまで言われてしまっては沈黙するしかない。彼女が大丈夫だというのだから大丈夫なのだろう。しかし、彼女を崇め敬っているという末端の人たちは、このように口汚くまくしたてる彼女を知っているのだろうか?
ミステルが宿を出て少しして、アルテミス師匠がぼくの部屋にやってきた。
「ギルドに行くから支度して」
「え? 何かやり残したことあります?」
「魔法の勉強。まずギルドを当たってみる」
なるほど。ぼくが読んだ本でも、ギルドが情報源として機能していたケースは少なくない。魔法関係の資料もあるかもしれない。
「わかりました。すぐ行きます」
ロビーに降りていくと、アンドロメダ師匠もいた。
「わたしも行こう。その前に食事がしたい」
確かに、街に着いてからそこそこの時間が経過して、いい感じにおなかがすいてきている。ここまでの道中ではあまり凝ったものは食べられなかったが、味付け自体は悪くなかった。王都らしく、食もバラエティに富んでいればいいな。
ギルド周辺に出て、いちばん賑わっている店を選んだ。知らない街で隠れた名店を探そうとするのは危険だからね。
行列のうしろに並ぶと、なぜか進みがすごく速い。あっという間に列の先頭になってしまうが、そこでぼくは、列が進んだのではなくてほかの客がぼくたちに前を譲っていたのだということに気づいた。見回すと、まるでモーゼの十戒のように人垣が割れている。
店の中しか見ていないアンドロメダ師匠と何も見ていないアルテミス師匠は、流れに乗ってそのまま着席しようとしたが、メンタルが小市民のぼくは慌ててふたりを止めて列の後ろに戻ろうとした。しかし、みんながそれを許さない。
「姐さんたちをさしおいて自分らが食べるわけにはいきません!」
「ウチらは姐さんたちにここの料理を早く食べてほしいっす!」
「おめえは姐さんたちが気持ちよく食事を終わるように空気だけ読んでりゃそれでいいんだよボケ!」
ぼくだけえらくディスられている気もするが、総合すると先に食べてさっさと出てくれということだ。そういうことならしかたがないので、師匠たちを改めて食卓につかせる。ちなみにこのふたりは、たったいまのこのやりとりを何も認識していない。メニューしか目に入っていないようだ。
店の自慢だという焼き肉料理はうまかった。肉の感じとしては牛に近いが、ぼくはまだよくわからない。香ばしく焼けた厚い肉がドンと皿の真ん中に鎮座する様子は圧巻で、味もすばらしい。ゆっくりと堪能したかったが、ぼくは周囲の無言の懇願に耐えきれず、早々に師匠たちをうながして店を出た。
ギルドに入ると、そこにもモーゼが現れた。さきほど応対してくれたギルド職員のカウンターまで、きれいに人垣に挟まれた道が出来る。師匠たちはそこを堂々と進んでいった。
「なにか不明な点でもありましたでしょうか?」
この職員さんだけは、師匠たちを前にしてもまったく平然としている。あたりはかなりザワついているというのに、先ほどの対応といい、かなり肝が据わった人だ。
「ここで魔法関係の資料は閲覧できたりするだろうか?」
アルテミス師匠もあまりにも普通だ。ちなみにアンドロメダ師匠は天井を見上げてボーッとしている。
「資料はあるにはありますが、閲覧には資格が必要です。冒険者となって五年以上、もしくはランクD以上の方にしか許可できないことになっています」
ちなみに、先ほど登録したばかりのぼくたちはランクFだ。一番上はSだから、Dというのはさほど高いハードルではないが、それでもふたつランクを上げる必要がある。
「なんとかならないだろうか?」
「そうですね、閲覧については担当が違うのでどうにも出来ませんが、ランクについてはご相談に乗れるかと。みなさんがDのレベルをはるかに超えていらっしゃるのは明らかですし、ランクD以上を対象とした仕事をこなしていただければ、みなさんのランクもわたしの裁量でDにして差し上げられます」
うーん、ここは多くのチートあり転生冒険者が序盤でイライラさせられるところのはずだが、この職員のお姉さんは何者だ? まるで優秀なギルド長を相手にしているようなスムーズさだ。
「それでお願いしよう。土地勘があまりないので、そういうのが必要ない仕事があればありがたいな」
「土地勘が必要ないとなると、拠点のわかってる盗賊の討伐などがありますが、さすがにそれはランクC以上指定の高い難易度になっていますし……」
さすがのお姉さんも考えこんでしまった。拠点を探したりする手間がない分、討伐が困難、というわけだ。……盗賊?
「あの、この街に来る前に近場でひとつ盗賊を潰してきたんですが、ギルドでその件、取り扱ってないですか?」
「……潰してきた? 近場?」
ここで初めてお姉さんの表情がこわばった。
「はい。だいたいここからブルネル伯爵領の方角に馬車で二日ほどのところです」
まわりの冒険者たちがざわめいた。
「その方角にここから二日くらいというと、ひとつに絞られます。先日BとCの冒険者が十五人で掛かって全滅しまして、現在はB以上が十五人以上集まるまで動くな、と命じられているのですが……なにか証拠になるようなものは?」
「たまたま返り討ちにしただけなので、特には。親分格が顔に傷のあるヒゲの巨漢だったのですが」
「間違いなさそうですね。これからギルドが確認に向かいます。確認でき次第、昇格について検討しますので、数日お待ちください。宿は……なるほど、三つ首龍亭ですか。こちらから連絡を入れさせていただきます。それでは、失礼します。」
そう言って、お姉さんは奥に走って行ってしまった。周囲は静まりかえっている。どうやら師匠たちはとんでもないことをやらかしたようだ。人間領でいきなりこんなに目立ってしまって、よかったんだろうか?
お読みいただき、ありがとうございます。
虎の威を借る勇者を描くのが楽しみです。




