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第三十一話 先代勇者の噂(中)

恥ずかしながら、三ヶ月以上振りの更新になります。少しでも楽しみにしてくださっていたかたがたには、心からお詫び申しあげます。そして、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます。

「いったいなんの騒ぎ……あら、父上、なにかご用ですか?」


 道場の入り口から声をかけてきたのはにアンネロッテだった。うしろにはフランカさんが控えている。


「おお、アンネロッテ。特に用事というわけではないが、少し身体を動かしたくなってな。アンドロメダ二でも相手をしてもらおうと思ってやってきたのだ」


「わざわざ離宮まで足を運ばずとも、本館にはお父様の配下が何人もいるのでは? 相手には事欠かないでしょう?」


「仕合うまえに身体を温めたかったのだ。全力疾走してきたので、ちょうどいい感じだ。だが、ここに来たら、アンドロメダと勇者殿が仕合っているところだったので、見学していたというわけだ」


 ちなみに、本館から離宮までは地球の単位で五キロほどある。全力疾走?


「そうだ、アンネロッテ様は先代の勇者を知っているの?」


「しばらく前に姿を消してしまいましたが、それまではときどき稽古をつけてもらっていましたよ。教え方もなかなかうまい方でした。本人は、『ゼロから戦い方を覚えたから初心者の気持ちがわかる』と言っていましたから、ずいぶんと手加減してもらっていたのでしょうけどね。父上に挑もうとした方ですから、ムリもないでしょう」


 アンネロッテの件は勇者仕込みだったのか。しかし、武道の経験ゼロからそこまで強くなれるものなのだろうか? ぼくと条件はほとんど変わらないはずなんだけどなぁ。


「いや、彼がいなくなるころには、逆にロッテが手加減しているように見えたのだがな。そもそも彼は、ダーマト殿に土をつけるためにここにとどまったのだろう? わたしが勝ってしまったことで彼が修行の旅に出たことにはなっているが、自分が勝てない相手がふえすぎた、というのが真の原因ではないだろうか」


 あれ、師匠の言葉にちょっと気になることがある。というか、いままで考えることを放棄していたと言ってもいい。ダーマトさまに土をつける?


「ダーマトさま、勇者が息を吹き返したあと、彼はまた人間世界の平和とやらのためにダーマトさまを倒そうとしていたんですか?」


「訂正してください。とやら、ではなく、人間世界の平和と安定のためです」


 およ、突然コンスタンスが復活した。勇者の存在意義にけちをつけられるのはさすがに看過できなかったらしい。でもさ、個人差はあるんだろうけど、勇者として召喚されるのがぼくだぜ? アンネロッテの小間使いはできても、人間世界なんて背負いきれないよなぁ。


「いや、そのあとは単に負けたのが口惜しかったから仕掛けてきただけだったと思うぞ。確かに、初めてあいつがここに来たときは瞳が憎しみに塗りつぶされとったが、蘇生に成功したあとは、生き生きとした目をしていたからな。蘇生魔法は思考にも影響を与えるのだと、それで学んだのだ」


 いや、蘇生魔法じゃないし、脳にはなにも影響はないはずだから、血液不足で脳の一部が死んだ、というのでなければ、変化があるはずがない。可能性があるとすれば、いちど生命活動が止まったことで、それと密接に関連したなにかが消えた……。


「コンスタンス、勇者を送り出すときに、教会はなにか儀式みたいなことをやったりしない?」


「え、いえ、教会はここ何年も勇者をおくりだしていませんので、わたしは存じません」


「それじゃ、聖騎士団を送り出したりするときには?」


「なぜそんなことを答えなければなりませんの?」


「答えてくれないと、またあの感覚がやってくるぞぉ? 今度は、みんなのいる前だよぉ?」


「き、騎士に祝福を与える儀式が行われますわ!」


「祝福って、具体的にはどうするの?」


「聖女様がお言葉を授けて、騎士の頭上で印を切ります。激励のようなものですわ」


「フランカさん、すみませんが、ミステルを呼んできてもらえませんか?」




 ぼくが呼んでいると聞いて、本当にイヤそうな顔をして修練場に入ってきたミステルだったが、そこにいるメンツを見て表情を引きしめた。そして、フランカさんが気を利かせたのか、アルテミス師匠も一緒だ。考えてみれば、彼女にもいてもらった方がいいかもしれない。祝福とやらを解析することになるかもしれないからな。


「なんでしょう、アズマさん?」


「ミステルは、聖騎士の出陣の時の祝福の儀式をやったことはある?」


「わたしが教会にいる間はまだ先代が取り仕切ってましたが、いずれわたしが役目を引き継ぐことにはなっていましたし、段取りは学ばされました」


「もし覚えてたら、それを詳しく教えて欲しい。どこかに、相手に暗示をかけたり、ひょっとしたら洗脳したりする手続きがはいっているかもしれないんだ」


「アズマさんと違って脳味噌は持っていますから、覚えているに決まっているでしょう」


 そう言いながら、彼女は祝福の言葉を口ずさみはじめた。




「神と神に弓を引くものの関係を語っていますね。古代言語で圧縮されていますが、普通の言葉で語れば半時ほどかかる内容です。弓を引くものが途中から魔族にすり替わっていますし、繰り返し悲劇と救いが語られています。言葉に相当量の魔力を込めれば、魔法抵抗の低いものにはそれなりの影響があるでしょう。ただ、魔法抵抗がそこそこあるものにはうまく入っていかないかもしれないので、確実に暗示をかけられる、とは言えません」


 アルテミス師匠が、ミステルが語った内容を解析してみせた。これだけでは効果が薄いとすると、そうすると、あとは最後の「印を切る」がクサいな。


「コンスタンスは祝福の言葉のあとに頭のうえで印を切る、と言っていたけど、どうやるの?」


 ミステルは、星のように互角を指で描いてみせた。


「魔力を指先に込めながら、このような形で印を切ります」


「それは、思いを相手に定着する効果があるでしょうね。やはり確実に、とはいきませんが」


 どちらも確実性はない。だけど、二つの手続きを重ねれば、かなりの成果を見込めるはずだ。


「謎はすべて解……」


 ぼくは言いかけて、あわてて口を押さえた。これはやってはいけないことだ。



お読みいただいた方へ。本当にありがとうございます。


自業自得ですが、まったくリズムがつかめませんでした。何度も行ったり来たり、という感じです。カンを取り戻すにはもう少しかかるかもしれませんが、お付き合いいただければ、これにまさる幸せはありません。

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