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第十話 若き枢機卿?

新キャラ登場です。

 無事に冒険者ランクDをもらった翌日、さっそく魔法関連の資料閲覧のためにギルドに行こうとしていたところ、教会に出向いていたミステルが帰ってきた。


「特に変わったことはありませんでしたか?」


 なぜかぼくに向かって尋ねてきたが、「変わったこと」の基準がもっとも彼女に近いのがぼく、ということなのかもしれない。ぼくは、彼女の足もとに転がっている女性が気になってしょうがないのだが、とりあえず訊かれたことに答えることにした。


「ギルドの魔法関係の資料を閲覧しようとしたら、冒険者のランクD以上が必要だといわれてね。途中で潰した盗賊団の話を出したら、結局Dにはしてくれたんだけど、確認に時間をとって、終わったのが昨日」


「証拠もなしによく認めてくれましたね? ふつうは他への波及が、とかいって認めないものだと思いますが」


 ミステルは少し驚いたような顔をした。


「けっこうタチの悪い盗賊団だったみたい。最近出した討伐で、十人ほどの冒険者が全滅したんだって。証拠がないから討伐は認められなかったけど、担当してくれた受付の人が頑張ってくれて、壊滅の確認と報告でランクD昇格を認めさせてくれた。できる人だよ。人間じゃなくて、アンドロメダ師匠の同族みたいだけど」


「人間の世界に根付いている魔族も少なくはないですからね。人間も、ほとんどの場合はそれを気にしません。ただ……」


「ただ?」


「こういうバカがいるから、アンネロッテ様の苦労がなくならないのです」


 ミステルは吐き捨てるように言うと、足もとの女性をつま先で蹴った。ちょっとうめき声を上げたが、意識を取り戻した様子はない。


 女性は、いわゆる聖職服のようなものを身につけているが、ぼくみたいな門外漢が見ても、その生地や装飾から非常に高価なのだろうと言うことがわかる。それだけの地位にいる人だということだろう。教会に行く前に彼女が言っていた「脅すネタ」「人間のクズ」とかのキーワードとあわせて考えると、身体の震えが止まらなくなる。


「で、こちらの方はどなた?」


 おそるおそる訊いてみた。前から彼女は、「自分の後輩を連れてくる」とか言ってはいたが、ただの後輩という雰囲気の人でもない。


「教会の枢機卿です。次期教主と言われていますね」


「そんな人が、なんでこんな有様でここに?」


「教会で魔王討伐の話が持ち上がっているのを耳にしたのです。人間領と魔王領の境界が落ち着いている今、そんな動きが起きるはずがないので少し調べてみたら、このバカが寄付金チョロまかすためにあることないこと吹きまくって煽っていました」


「いや、説明になっていそうで、その人がここにいる理由の説明には全然なってないんだけど?」


「細かいことを気にする人ですね。この女が、アンネロッテ様を的にするようなことをほざいていたからに決まってるでしょう」


「それなら、ここに連れてくるよりは、教会の中で始末した方がまだマシだったのでは?」


聖騎士団長を殺してしまったアンネロッテの例もある。魔族としてタブーということはあるまい。


「こんな女のためにわたしの手を汚すのはゴメンです」


「結局そこなんだね!? じゃあどうするんだよっ?!」


「アズマさんにお任せします。先代教主の孫で、蝶よ花よと育てられた世間知らずのバカ娘ですから、たぶん男なんか知りませんし、ちょっと甘い言葉でよろめかせればあとは思うままですよ。よかったですね」


「よくない! だいたい、なんでそんなことしなきゃいけないの? 不要品を押しつけないでくれるかな! ぼくだっていらないから、責任を持って返してきてよ!」


 いたよ、もとの世界にも、買ってから「いらない」と思ったモノを、なんだかんだ理由をつけて他人に買い取らせようとするヤツが。


「今さら返品できませんよ。それにこれでも聖魔法の使い手ですよ? わたしに比べれば魔力量はたいしたことありませんが、その分チマチマした小細工は得意な子です。傷にあわせて細かく魔力量を調節して傷跡が残らないようにするとか、姑息なマネで人気取りをして、ホントに見るものの神経を逆なでするのです」


 ミステルさんの聖魔法は魔力量にまかせておおざっぱに、ということだ。それにしても、ミステルの説明を聞いていると、じつはこの子はいい子なのではないかという気しかしてこない。目が覚めたら、先入観なしに接してみることにしよう。


「それにしたって、目が覚めたあとどうするの? そんな大物じゃ、うかつに外に出すわけにもいかないじゃない。ミステルさんが教会から誰か調達するって言ってたのは、自分の代わりに街でのぼくらの行動を制御するためじゃなかったっけ? ぼくはてっきり、ミステルさんの言うことなら白も黒、っていうような子を連れてくるんだと思ってたよ」


 ミステルの表情が固まった。彼女がぼくに初めて見せる感情の揺れかもしれない。どうやら一時の勢いでそのあたりを失念していたらしい。


「し、しかたがありませんね。戻るのはいったんやめて、わたしとアンドロメダ様で魔族領に帰るまで監視してあげることにします。早めにアルテミス様と魔法の基礎とやらをものにしちゃってください。か、感謝してくださいね!」


 かなりうろたえている。どこのツンデレさんだよ。




 ギルドにある魔法関係の資料は、思ったよりも充実していた。


 ほとんどの資料は各属性の初歩的な魔法しか取り扱っていないが、それがさまざまなパターンの呪文と対比して説明されている。ぼくは精霊との相性がよいらしく、呪文なしでイメージを精霊に伝えるべく頭で念じれば魔法になってしまうのだが、呪文はそのイメージのしかたを言葉にすればこう、という、いい感じのアシスタント機能を果たしてくれるのだ。それを言ったら、アルテミス師匠に鼻で笑われたけど。


「言葉を使わずに魔法を発動できるきみが、言葉に頼らなきゃいけない理由がさっぱりわからないな」


「師匠みたいに魔法と共に生きてきたわけじゃないんですよ、こっちは! 師匠が言うところの、センスがない人間なんですから! どういう流れをイメージすればいいか、呪文を見れば一目瞭然なんです」


「そういうものかね。まあ、好きにしたまえ。わたしはきみが結果を出してくれればそれでいい」


 くそ、最後にプレッシャーかけてきやがった。




 ほどほどのところで切り上げて宿に戻ると、若く美しい枢機卿さまとのご対面が待っていた。


 よほど乱暴に眠らされたらしく、ぼくと師匠が戻ったときにはまだ昏睡状態のままだった。その点についてミステルに気にしている様子は全くないが、食事が終わってもまだ眠ったままの彼女にれたのか、舌打ちをして彼女の頭に手を当ててなにごとかつぶやいた。ミステルの手がうっすらと光ったと思ったら、彼女が身じろぎをはじめる。やっぱりすげえな、聖魔法。


「こ、ここはどこですの?」


 ぼくはまわりを見回したが、師匠たちはそっぽを向いており、ミステルはぼくに向けてアゴをしゃくった。丸投げかよ……。


「あのですね、ここはピルシェのとある旅館の一室です。ぼくとしても、ことの次第についてはですね、非常に遺憾に思うのですが、あなたはそこのもと聖女さまに拉致されてここにいるのです」


 枢機卿さまがグルリと首を回して、その目が渋い顔をしたミステルをとらえる。


「ミステルさま! お戻りになられたのですか!? ああ、神はわたしたちをお見捨てになりませんでした!」


 枢機卿さまは手を胸の前で組み合わせて、感極まったように涙を浮かべながら叫ぶようにそう言った。あれえ、なにかワケのわからない方向に勘違いしちゃってるぞ? 


お読みいただき、ありがとうございます。


ミステルの説明、それを聞いたアズマのイメージ、そして覚醒後の第一声の印象がすべて異なる、この枢機卿は、いったい何者だ?!

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