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薄幸令嬢は吸血鬼を狩る者に愛される  作者: 中西徹


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14.薄幸令嬢と研究所(4)

 心地よい低音で(ささや)かれる言葉に、小夜の内の自分ではない何かが、十夜の言葉を受け入れようとしているのを感じた。


 不知火(しらぬい)十夜という男は、何かおかしい。


 小夜の内の猜疑心が十夜を危険だと判断し、首を振り拒否の姿勢を示した時だった。


 抜き身の剣がカーテンの隙間から差し込まれ、十夜の首筋にピタリと止まる。


「当研究所の患者を惑わすのはやめてもらえますか。不知火(しらぬい)侯爵」


 剣を向けているのは、瑛人(あきと)だった。


「やあ、どこまで僕の魅了に逆らえるのかちょっと試しただけじゃないか。物騒な真似はよしてくれ。香月(かげつ)の坊や」


 カーテンの隙間を縫うように差し出された剣をついと指先で避けた十夜は瑛人(あきと)に向かって朗らかに笑う。


「僕はこれで退散するけれど、考えておいてね。小夜ちゃん」


 瑛人(あきと)の剣から逃れるように体を移動させ、窓辺に座った十夜は、笑顔で手を振りながら窓の外に落ちた。


 闇に溶けるように、真っ黒な蝙蝠が羽ばたき、消えていく。


 窓から十夜が落ちたと思い、小さく悲鳴を上げた小夜だったが、すぐに窓辺に駆け寄った瑛人(あきと)の逃げられた。という呟きに、無事であることを知り、胸をなでおろす。


「どうしたの?」


 病室の騒ぎにランプを手にした(はやて)が顔を出す。


不知火(しらぬい)侯爵がここに来た」


 瑛人(あきと)の言葉に、(はやて)が眉を(しか)めた。


「あの夜以来、夜光の動きが止まっているが、代わりに侯爵が華峰家に接触しているんだ」


「この子の血液検査の結果が影響しているのかしら」


「おそらくは……」


 瑛人(あきと)(はやて)が何の話をしているのか分からなかったが、どうやら自分に関係することらしいと耳をそばだてる。


不知火(しらぬい)家に狙われているのなら、この子も知っておく必要があるんじゃないかしら」


 (はやて)がカーテンを開き、ベッドの上で居住まいを正している小夜に真剣なまなざしを寄せている。


「あなたも知りたいわよね。自分の置かれている状況がどんなものか」


「……はい」


 瑛人(あきと)は迷っているようで、困った顔をしていたが小夜の返事を聞いて、重い口を開き語り始めた。


「君の血は、僕たちにとって特別なものだったんだよ」



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