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万能の大魔導師~エイリア・ファシネイトのトラベルライフ~  作者: 智慧砂猫


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第82話「最後の大仕事へ」

 エイリアが望んだのは正式な和解だ。ハイディスが力を取り戻したうえで、わざわざ自分の最も大敵となるはずの相手を癒してまで、新しい未来を信じようとしているのだから、彼女も応えてやりたいと思った。


 そのためには王宮で謁見を叶え、彼女ら魔物でも意思疎通を図れる者たちとの共存関係を築きあげる橋渡し役になるつもりだ。


「きっとすんなりは受け入れてもらえないだろうけど、私たちが何もしないままでは関係もへったくれもないしね。やれるだけのことはやってみて、ダメだったらまた次を考えればいいさ」


 ハイディスからの魔力の供給もあって、ポータル石がなくても転移が可能なほどの状態だ。馬車まで戻って、すぐに都市へ帰還する。相変わらず大きな結界に守られていて、少し離れた場所でフラッドが苦い薬を飲まされた。


「……のう、なんでワシだけ飲んでるんじゃ」


 見目に魔物なのはハイディスも同じだ。雪のように白く透き通った肌。露骨な深紅の瞳。喋ったり微笑んだりすると見えるヴァンパイア特有の牙。見るからに『私は魔物です』と自己紹介しているも同然だとフラッドは睨む。


「ふふん。我を誰と心得ている? この身は魔王なれば、姿すら変幻自在なわけだよ。まあ見ていたまえ、ちょいと指で触れれば、これこの通り」


 ちょん。指先で肌に触れれば血色は良く見え、牙に触れればやわに丸みを帯びる。ぱちっと瞬きをすれば瞳の色は青空のように美しい色を宿した。どこからどう見ても人間にしか思えない。


「ちぇっ、現役の魔王はやはり格が違うのう」


 小さくなる角と同じようにがっくりと肩を落とし、不貞腐れて縮こまってしまう。エイリアは二人のやり取りを振り返り、くっくっと笑いながら「結界なんて大した問題じゃないよ」と宥めた。


「強いとはいっても君たちを抑えきれるほどの強力な結界じゃないんだ、いざというときは壊してしまえばいいさ。新しく結界を張り直すなんてのは私ひとりで出来てしまう楽な仕事だからね」


 準備が整ったらまた検問を抜けなければならない。遠目にも分かるローブ姿と、腹立たしい小言の多い魔法師の男の顔を見て、エイリアは苦虫を噛み潰したような気分にさせられる。


 それは魔法師の男もそうだったらしい。彼女がやってくると特大のため息をついて、ぎろっと睨んだ。


「またあなたですか。もう二度と会いたくないくらいですが……」


「こっちのセリフなんだけど? わざわざまた積み荷の確認か?」


「規則ですので。文句があるのなら国王陛下にでも申し上げて下さい」


 チッ、とよく聞こえるように舌打ちで返事をしたら、検問が終わるのを大人しく待った。「またひとり増えてますね」と小突かれるような物言いをされたので「地方の伯爵家のご息女だ、丁重に扱えよ」と嘘をつく。


「ふん、まあいいでしょう。人数は増えていますが積み荷は減っている、まあ当然のことですので、どうぞお通り下さい。そして私の勤務外のときにぜひお通りください。毎回あなたの顔を見ていると眩暈がしてきます」


 男の言葉に、もう何も言い返さなかった。嫌われ者である自覚はあるが、彼ほど態度の悪い人間はいない。過ぎ去ったあと、馬車の中でハイディスが「消してやろうか?」と呟いたのにだけ「それはだめ」と短く答えた。


 王との謁見は報告があると言えばすぐに準備され、フラッドとハイディスは荷台に積んであったローブを着てエイリアの連れとして怪しまれないように同行する。フラッドは興味もなさそうだったが、ハイディスは魔界の命運を握っているとも言えるので、緊張が表情に現れていた。


 居並ぶ護衛騎士たちは堂々としており力強さを感じられる。王はそんな彼らを信頼して穏やかな顔をして、膝をつき挨拶をするエイリアに小さく手を挙げた。


「遅れてすまぬ、エイリア。して報告とは?」


「魔物発生の原因を突き止め、排除いたしました」


 かしこまった物言いはエイリアらしくなく思われたが、それよりも魔物が発生しなくなったと分かって、王は「まことか!?」とたいそう喜んだ声をあげる。聞いた騎士たちもざわざわし始めた。やはり大英雄のひとりか、と。


 彼女はディグ山脈でテュフォンという竜人の魔物に出会ったことや、ブリッツたちがスケルトンと成り果てていたことなどを話したうえで、ロッソのことなどは伏せつつ、自身もまた命の危機に陥ったことを伝える。


「うむ、そうか。しかし生きて戻り、二度も世界を救うとは……エイリア・ファシネイト。そなた()やはり大英雄というわけだな」


 褒め称えられて悪い気のしていなかったエイリアが、妙な言い方をされて怪訝な顔を向けた。


「待って、今なんか引っ掛かる言い方しなかった?」


「だって性格に難が……ごほん。とにかく褒美を取らせよう」


「ちっ、自分だって大概じゃないか。あ、でもその前に」


 エイリアは、もうひとつ話があると立ち上がった。


「信じていただけないかもしませんが、実は私が命の危機に瀕した際、窮地を救ってくれた魔物がいるのです。──その者の名はハイディス。かつて我々が打ち倒し、その巨大な魔力を封印した魔王でした」

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