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万能の大魔導師~エイリア・ファシネイトのトラベルライフ~  作者: 智慧砂猫


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第77話「景気よく楽しく殺し合おう!」

 聞いてもエイリアは耳に指を突っ込んでどうでも良さそうに、「ふーん」とハイディスの話を流す。


「貴公、真面目に聞いていないだろ! あれは──」

「それだけ強いなら逃げられる相手じゃないでしょ」


 テュフォンがどれほどの力を持っているかは分からなくても、聞いた話をもとに考えれば背を向けるほうが無防備を晒して逆に命を落としかねない。ならいっそ戦ったほうがマシだろう。誰かを楯にしてまで生に執着のないエイリアが選ぶのは正面突破、それだけだった。


「少し前に来た人間といい面白いな。それに比べて取り巻きの魔物どもはなんだ? 実に弱腰で情けない。俺の相手に足るとは考えられない臆病者どもだ」


「でも私も正直、戦いたくて来たわけじゃないんだが」


 あくまで魔物発生の原因究明と根絶が目的であって、戦わずに話し合いをして済むのならそれがいい。怪我をして自分が研究に関わる時間が減るのも嫌だったし、死ぬのはもってのほかだ。できればゆっくり酒でも酌み交わしながら、今後互いが円満に解決できるような糸口を探したいくらいだった。


「……では俺とは戦わない、と?」

「そうだね。私が君と争うことにメリットがない」


 彼女は指をぴんと立ててニコッと笑って。


「でも君の体をバラバラに引き裂いて、その肉体の神秘への道を開拓させてくれるというのなら話は別だ。いますぐに殺して皮を剥ぎ、必要な臓器も瓶詰めにして傷ひとつ付けないよう大事に持ち帰ることを約束するとも。どうだい、魅力的だろ?」


 挑発的な言動にはテュフォンも驚いて目を丸くする。今まで自分を恐れ、警戒する者はいくらでもいたが、彼女ほど狂気を隠し持っている相手に出会う機会はなかった。まるで最初から〝負けることは絶対にありえない〟と確信しているふうにさえ見えるくらい堂々とした態度に、彼は心底嬉しく思う。


「……ハ、ハハ、ナッハッハッ! いいな、新鮮だ。人間の魔導師は変人が多いと聞くが、これほど命知らずの自信家は初めて会う。お前が俺に勝てれば、それも許そう! 死ぬことよりも戦う相手がいないほうが俺にはつらい!」


 ドラゴニュートの多くは〝戦闘狂〟と呼ばれるほどに強さを求めるものだ。テュフォンは自身のライバルか、あるいは自分を超える者に出会いたくてたまらなかった。強くなりすぎてしまったことで同胞さえ殺してなお求め続ける強さへの執着はひとつの狂気であり、エイリアには近いものを感じているのだろう。


「吾輩には理解できん……。なぜ戦うんだ?」

「いやなら君は帰りたまえよ」


 邪魔なものを削ぎ落すようにエイリアが睨む。


「私自身、この旅そのものは半ば道楽的に始めたものだけど、少なくともここに立ってアレと対峙している気持ちに油断や傲慢なんかはないつもりだ」


「だが死ねば同じことだろうに……」

「同じじゃないよ。これは志の問題でもある」


 杖をしっかり握りしめ、テュフォンをギラギラした瞳で見つめる。


「お互い難儀な生き物だよなァ、テュフォン。私は魔導師、君はドラゴニュート。種は違えども目の前の獲物をみすみす野放しに出来るほど頭の出来は良くないらしい。──景気よく殺し合おうじゃないか、お互いのために!」


 魔力が杖に溜まっていく。テュフォンは、そんなエイリアのやる気に満ち溢れた姿に興奮して叫ぶ。


「ああ、人間のなかにこれほど分かり合える奴がいたとは! 殺すのが惜しいのに殺したくてたまらない! お前は最高だよ、エイリア・ファシネイト!」


 ふたりの距離が縮まる。ひと息に詰め寄って拳を構えるテュフォンをエイリアは魔力の放出だけで弾き飛ばしてみせると、すぐさま仲間を振り返った。


「全員退避!──ここから大英雄様のお仕事だ!」


 巻き込まないように前進するエイリアの背後で、ロッソは上の階へ戻ろうとする。しかし、フラッドとハイディスは立ち尽くしたまま動こうとしない。


「なにをやっているのだ、レディたち? はやく戻るぞ!」


 ふたりの強さは常軌を逸している。巻き込まれれば死は確実だろう。テュフォンはもとよりエイリアでさえ誰かの身を必要以上に案じることはなく、邪魔をしたら羽虫を潰すくらいの軽さで消し飛ばすだけの無情さを持っている。


 それでも彼女たちは一歩もその場から下がらない。


「阿呆ぬかせ、ドレイクの小僧。ワシは死など恐れぬ」

「我は魔王ぞ。人間が立ち向かっているのに臆してはおれん」


 オーガの首長であり、エイリア・ファシネイトという人間を傍で見続けてきた者。魔王として君臨し、かつては力をぶつけあった好敵手。それぞれの死に対する覚悟が、まだ出会って日の浅いロッソにはまるで理解できなかった。


 連発される嵐のように強力な属性魔法と、ただひたすらに強く振りかぶるだけで周囲に衝撃を起こすドラゴニュートの拳のぶつかり合い。瞬きひとつ許さない状況。じっくり戦況を見極めて、ハイディスがぽつりと。


「……エイリア、やはり勝てないか」


 見目に疲れひとつないふたりの戦い。しかし、あるひとつの限界を迎えていた。それは最中にハッキリと形として現れる。一瞬距離を詰めたテュフォンの拳の一撃を杖で受け止めた瞬間に本人も気付く。


「──ああっ!? 世界に一本だけの杖なのに!」


 エイリアがガックリと肩を落とす。手にある聖樹で創られた杖が、ぼきりと真ん中から折れていた。


「フッ、なんだ。それがないと戦えないのか?」

「大事にしてたんだよ。物持ちが良い方でさ」

「それは悪いことをした。だが勝負は続けるぞ!」

「いいさ! 絶対、弁償させてやるからな!」

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