第69話「いざ、ダンジョンへ」
相変わらずロッソのことは嫌いなままで、スープを作り終えたあとは必要以上の会話をする気にならなかった。出発の支度が終わって、フラッドの信頼ある寒さに強そうなすがたはエイリアには羨ましい限りだ。
「さ、もう行こう。ロッソ、ダンジョンまでの案内を」
「任せておけ、私についてくれば安全にたどり着ける」
ダンジョンの入り口まではそう遠くない。のんびり行っても数十分ほど、時折魔物が現れることもあるらしいが、今日に限っては運が良かったのか何と出会うこともなく到着することができた。「ここだ」と言われたのは外観的にはただの遺跡だ。見目からして恐ろしい雰囲気も皆無だが、魔物が湧いているのは間違いない。
「気配がするのう、濃い気配だ。警戒せねばな」
「君は魔物だからよく分かるんだねえ、私にはさっぱり」
多少の感覚はあっても魔物ほど敏感ではない。中に入ればもっと身近になるだろうが、そとからではあまりよく分からなかった。
「とにかく入ってみようか。面白そうだし」
魔物たちが無尽蔵に湧いてくるダンジョンはエイリアからみれば宝物庫に等しい。あらゆる特異体をばらばらに切り刻んで生態を確かめたり、内臓やウロコといったものを魔法薬に応用できないかを確かめるのに最適な場所だ。
「気合入っとるのう……。目的忘れておらんか?」
「わかってるよ。馬鹿の捜索と魔物発生の原因究明だろ」
「貴様は本当に自分以外に興味ないんじゃなあ」
「ハ、そりゃそうだ。好き好んで傍に置いてるのは君くらいだよ」
何気ない言葉にフラッドは少し気恥ずかしそうにする。
「にしても、ダンジョンに入ってからずっと階段を下るばかりだな。これっていったいどこまで続いてるんだ、ロッソ? まさか永遠にこのままってことないよな」
「無駄に長いのだよ。あともうすこしだから我慢したまえ」
「ちぇっ、めんどくさいなあ……。はやく調べたいんだけど」
愚痴をこぼしているうち、数分としない間に最初のフロアへ辿り着く。いたってシンプルな石造りでとくに罠なども仕掛けられている様子はない。ただ、エイリアは入ってすぐに「魔導迷宮か」と呟いた。
「ム? エイリアよ、魔導迷宮というのはなんじゃ?」
「魔力で壁とかを造ってんだよ。突然現れることもある」
おそらく本来はただひたすらに広いだけの部屋を魔力で容易に通り抜けられないようにしてあるのだろう、とエイリアは語る。
「魔法院にもそんな施設がある。大昔の文献とか魔導書を管理する建物があって、私ほどではないにしろ名のある魔導師たちがこの技術を使って容易に出入りできないようにしてた。だけどひとつ気になることがあるんだよねえ」
腕を組んでうーんと考える。複雑に入り組んだ迷路のような場所は、その規模で消費される魔力も変わるし、なにより持続的な供給が必要だ。小さな村や町の結界石でさえ古くなれば修復や交換、魔力の再供給などが必要になる。
(魔王討伐の時期が二年前。それでも魔物の出現は相変わらずで、その出どころのひとつがディグ山脈のダンジョンであるのは確かだろう。だとすると、この広い空間全体に迷宮を造れるほどの魔力が二年間賄われ続けているってことか?)
しゃがみ込み、指先を地面に触れさせる。青白い閃光が迸った。
「なにをしておるんじゃ、エイリア?」
「この部屋でいちばん魔力の反応が出る場所を調べてる」
はあ、とため息をつきながら彼女は立ち上がって肩をすくめる。
「ない。どこにも壁を作るための魔力供給源がない」
「つまりどういうことだね、魔導師くん」
「くん付けはやめてって言ったろ。つまりあれだ、ここは……」
やってきて、あらためて事態の深刻さが理解できる。いくら大魔導師であり莫大な魔力を保有するエイリアといえども驚かざるを得ない。
「──誰かが常にどこかから魔力を供給し続けてるんだよ。この広い空間を迷宮として構築するだけのとんでもない量の魔力をね」




