第65話「寒いときは温かいものでも食べよう」
ドレイクは魔物のなかでも狡猾だ。外見は龍種にそっくりなわりに知能が非常に高く、人間と同様に集団で狩りをすることもあれば明確な意思疎通が可能な種族だ。個体によっては言葉さえ話すので、強さはそれほどでなくとも厄介な存在ではあった。
「……ただでさえドレイクなのだ、半分が人間ならば理知的で狂気的な可能性もある。連中はいつだって誰かを利用することばかりが頭にあるからのう」
「ふーん。……あれ、もしかして恨みでもある?」
あまりそういった話をフラッドは好まない。エイリアは彼女がわざわざ言うほどなので、きっと何かされたに違いないとふいに尋ねた。だが彼女は首を横に振って返す。
「別に。ただ所詮は魔物だと思っての、ワシだって変わらぬが」
ドレイクについて言っておきながら自分も魔物なのだからじゅうぶん疑いを持って接されても仕方ないと思い返して暗い顔をした。
「まさかあ、私は君を信じているともさ。ドレイクがどうであれ、私のためにいっしょに来てくれた君のことを信じない馬鹿がいるわけないだろう」
かつては独りぼっち、信じるのは自分だけ。それがエイリアだった。周囲からどれほど嫌われても、自分の行くべき道を示せば良い、ひとりでも立って歩けるならそれでいいと決意していた彼女の生活は、フラッドの出現で大きく変わっていた。
本当に心から仲間──あるいは友人──と呼べる相手が出来たのだ。
「君の言うようにドレイクのことは警戒しておこう。まあ、最初から信じるつもりなんてないし、むしろこっちが利用してやれないか考えてるくらいだから安心したまえ」
あくまで彼女はフラッドとカレン以外で心を許してはいない。たとえばそれがかつての仲間であり、共に世界を救うに至った勇者であったとしても。
「フッ、面白いのう。貴様といっしょにおると退屈せんわ」
「それはこちらのセリフだな。……しかし暇だね、何か食べる?」
馬車にはまだ食糧がある。器具はなくとも魔法を使えば料理くらいはお手の物、実をいえば本格的に造るとエイリアは意外と上手いもので、本人もその自信があった。
「そろそろ肉や果物は飽いたぞ、ワシは」
「だと思って甘々のパンケーキを作ってやろうかと」
「……ぬ。聞き過ごせぬな、よし作ってみよ」
「なんで上から目線なんだよ……。まあいいか」
ドワーフが戻って来るまで相当な時間が掛かるかもしれないと感じたエイリアは、馬車に戻って材料を用意し、しれっと試作品の薬を混ぜて暖炉の前でフラッドのために──いささかずるくはあったが──調理して、持ち込んだシロップをたっぷりかけた。
「さあさあ召し上がれ。私の腕に酔いしれたまえ」
「なんじゃ、その訳の分からん自信は」
むしゃりとひとくち。言葉を失った。続けてふたくち。頬が蕩けそうだった。口の中にじゅわあっと広がった甘いシロップと、ふんわりしたパンケーキの食感にはフラッドもぐうの音がでないほど感激させられて「おかわり」とすぐに平らげる。
「そんなにたくさん材料があると思うかい、大喰らいめ」
「思っておらねば言わん。さっさと次を焼かぬか」
「……よし、いいだろう。でも次は私のぶんを焼くからな」
ふたりできゃっきゃと子供のように和気藹々としていると、小屋の扉がばんっと大きく開かれて、温かな空気が外へと飛び出していく。立っていた背の低いひげ面の男が大きな布袋を肩に担いで目を細めながら、不思議そうに言った。
「ひとさまの小屋で何をしとるんだ、お前たちは?」
ずんぐりむっくりな体形をした男。エイリアがドワーフだと気づく。
「ああ、ごめんなさい。あまりにも寒かったので休める場所を探していまして。──私はエイリア・ファシネイト。ここいらでは名の通った魔導師です」
「……! エイリアとは聞いたことがあるな!」
大英雄の名は世界各地に轟く。エイリア・ファシネイトの影響力はそれなりで、ドワーフでさえ耳にしたことはある。魔王を討伐したとされる英雄の名くらいは。
「まあいいわい、ここには大したモンもねえ」
「ええ、でも探し物は見つかりました、あなたを待っていたので」
「あん? 俺はしがない鍛冶屋だ、魔法の杖はエルフにでも……」
「はは、違いますよ。あなたを探していたんだ、道案内がほしくてね」




