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万能の大魔導師~エイリア・ファシネイトのトラベルライフ~  作者: 智慧砂猫


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第63話「目的の場所まで、あともうすこし」

────エイリアとフラッドが旅に出てから一ヶ月が過ぎた。


 ふたりが目指しているのはディグ山脈で、もう遠目には見えている。しばらく馬を走らせればすぐに到着するだろう。


 その前に山脈へ至るための道に大きな森があり、そこでひと晩を過ごしてから向かうことにしてキャンプの準備を始めていた。


「エイリア。ディグ山脈のちかくというのは実に寒いのう」

「まあね、ここは年中が冬みたいなものだから」


 幸いにも世界的には暑さ漂う季節なので雪は積んでこそいなかったが、ほとんど裸に近いようなフラッドは少しだけ寒さを感じて震えている。薪を集めて来たエイリアが火を焚けば、ほっこりと頬を緩ませた。


「ディグ山脈はもっと冷えるから、君の服を買っておくべきだったかな。私もさすがに自分の服をくれてやるほど寒さには強くないから」


「寒さを感じぬような便利な魔法はないのか……?」


 エイリアは首を横に振って、わざとらしく呆れてみせる。


「私は万能の大魔導師だぞ、出来るに決まってるだろう。ただ持続的な魔力の消耗は私のからだに負担がかかるからやらないだけだ。ずっと重たい荷物を背負わされてるみたいな感じだよ、だれだって面倒くさいと思わないかい?」


 言われて不服そうにしながらも納得はした。フラッドは仕方なく焚火の傍で身を丸めてジッとしながら『ぐう』と腹の虫を鳴らす。


「君は本当に自己主張が強いな……。食糧だってギリギリなんだぞ」

「わかっておる。ならば狩りでもしてこよう」


 狩りは慣れたものだ。どんな動物だろうと一撃で仕留められるし、たとえば相手がそれなりに強い魔物だったとしてもフラッドを超えるほどの敵はほとんど存在しない。さらに言えば熊のように嗅覚で獲物の痕跡をどこまでも追い掛けられるので逃がす心配もない。


「鹿が良いな」とエイリアが言う。自信満々にフラッドは「任せておけ」頷いて森のなかへ消えていく。それから十数分ほどして鹿を引きずり戻ってくる。


「……はやいねえ。しかもよく太ってる」

「うむ、太っておったのは幸運だのう。さっそく食おう!」


 さすがに生のままでは危険だとナイフをフラッドに渡して捌いてもらい、エイリアは荷台からフライパンを持ち出してしっかり火を通す。塩と胡椒をたっぷり効かせて、すこし辛くて舌がひりつくような味を楽しんだ。


「うむうむ、相変わらず美味いのう!……あ、ところでディグ山脈に着いたらどっちを優先するんじゃ。半人のドレイク探しか、それともダンジョンか?」


「うーん……。私としてはどちらでもいいんだよねぇ」


 仲間が生きていようがいまいが、過去のことだ。死んでいたら寂しいと思う反面、別れたのだから仕方ないくらいに考えていた。彼女にとっては実験用の高級な道具が壊れるほうがショックだった。


「そうだな、ドレイク探しのほうを優先しようか」

「むむ。ダンジョンは後回しにしてしまうんじゃな」

「ていうか合理的に考えればダンジョンはあとでいい」


 追加で肉を焼き、火加減を強めたり緩めたりしながら話を続ける。


「長年暮らしているドレイクが持つ情報量はディグ山脈にあるとかいうダンジョンにも及ぶはずだ。基本的にダンジョンってのは魔物だけじゃなくて罠とかも仕掛けられているケースが多いから、先に話を聞いたほうが安全に進めるかもしれない」


 わざわざ事前準備もなしに危険な場所へ足を踏み入れるのは、おおよそ自殺行為だと言っていい。エイリアは何よりも自分の命を優先すべきだと説き、生きているかも死んでいるかも分からない自分を捨てた仲間のために命を張るのは無駄だと言った。


「いいかい、フラッド。必要なのは今、たしかに生きている私たちのほうだ。骨折り損のくたびれ儲けなんてまっぴらごめんだ」


「ふむう。ま、そういうものかもしれんの、貴様には」


 鹿一匹をまるまる平らげて、すこしだけ物足りなそうに骨をしゃぶりながら、フラッドはそれが彼女らしいと思った。


「さて、食べたならもう行こう。寒いのに長居はしたくないからね」

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