第54話「お説教は息が詰まりそう」
都市へ入るには、まず番兵に持ち込んでも構わない荷物かどうかなどをあらためられる。ものによっては商人など税を徴収される場合もあり、エイリアのように顔の知れた人物であっても例外ではなかった。
「ねえ、まだ~? 急いでるんだけど」
薬草はともかく彼女の作った薬品は危険な可能性もあるからとひとつずつ丁寧に調べられ、時間がたっぷり使われる。彼らは「魔法院の方が来るのをお待ちくださいますか」と、内容物のにおいに顔をしかめる。自分たちでは触りたくないのだ。
それから数十分して門の前でほかの者が通っていくのをながめながら退屈していると、ようやく魔法院の人間がやってきて、エイリアを見るなり苦笑いを向けた。
「またあなたですか。妙な薬品の持ち込みをされるなら事前に連絡を入れるよう以前も話したでしょう。なぜこちらの指示に従っていただけないのです?」
「忘れてたんだよ、こっちも忙しくてさ。知ってるだろ」
国王から直々に仕事を請けた話を魔法院の人間がうわさしないはずがない。とくにカレンやエイリアのように名のある魔法師に関わることならなおさらだ。エイリアは反抗的に「大目に見てくれたっていいじゃないか」と言ったが、魔法師の男は首を横に振った。
「規則は規則です、エイリア・ファシネイト。英雄たる称号を持つあなたが常識をわきまえないでどうするのです。良いですか、魔法師の心得は人々の模範となって──」
「ああ分かった分かった! 聞きたくないよ、急いでるんだから!」
長く待たされていらいらしているのに、説教まで聞かされてはたまったものではないと手綱を握りしめて「さっさと確認しろ」と怒り気味に言う。魔法師の男は仕方なさそうに肩をすくめて、荷台を覗き込んだ。
なかにはよく使われる薬草の数々や、それらを調合したのだとひと目で分かる薬液の詰まった瓶。普通の人間ならはなをつまみたくなるようなにおいも、彼は顔色ひとつ変えずに物色して、ちらと同乗している少女──ぽく見える魔物──に目をやった。
「……すみません、こちらの方はお連れ様ですか?」
「ああ。森で魔物に襲われていたところを保護したんだ」
「なるほど。それで戻ってきたわけですね」
物色を終えて荷台を降りる。それまでフラッドはじっと黙ったままだ。
「よろしいでしょう、問題ありません。では、あとはご自由に」
「はいはい、どーも。バーイ、もう二度と会わないことを」
ようやく馬車を走らせて、町中を移動する。こそこそとフラッドが顔を出して景色を眺め、きらきらと目を輝かせた。
「なんともすばらしい。これがヒトの住まう地か。とおく外から眺めるよりはるかに美しいのう! こころなしか、あちこちから美味そうなにおいもする!」
「良い場所だよ。魔物さえいなきゃ、たくさんひとが来るだろうね」
「のう、腹が減った。あとでなにか食えぬか?」
「君次第だ。上手くやれればあとで食べて帰ろう」
本来ならすぐにでもカレンたちのもとへ戻るべきだが、報告だけなら時間くらいはじゅうぶんに取れるとみて「みんなには内緒でね」と、このあとのフラッドがするであろう努力を労ってやろうと決めた。
「本当か、本当だな!? 約束だぞ、絶対だ!」
「ほらほら、騒ぐなって。君の演技力に期待してるからな」




