第48話「私は普通を望んでいないけど」
見下された魔導師のふたりが彼女を睨んで舌打ちをする。
「あんたもいたのか。……こんなところで何をしてる?」
「ハハ、君たちと同じ理由に決まってる。金が欲しい」
魔物退治で報酬を受け取り、それを研究資金などに使うのは魔導師たちならば当然の話で、競争的だ。エイリアもまた彼らとは対立関係にあり、邪魔されたこともあれば邪魔をしたこともある。彼女はニヤニヤしながら言った。
「森の入り口が吹き飛ばされていたのを見なかったか? あれは死んだと思われていたカレンを発見した際に、私が召喚魔法を使って森をうろついていたサラマンドラを討伐した痕跡だ。それはカレンが証明してくれるだろう。君たちの探し物はここにないよ」
嘘と本当を織り交ぜながら饒舌に語る。彼らはエイリアの言葉だけなら信用もしなかっただろうが、となりにいるカレンが「その通りですわ」と自分が襲われていた魔物について話したので、自慢げなすがたに苛立ちながらも頷くしかなかった。
「どうぞ魔法院の方々にお伝えして下さいまし。魔物は既に討伐したと」
「……まあ、カレン様が言うのであれば今回は信じましょう」
ここでごねてひと悶着起こしても、英雄ふたりが相手では分が悪い。魔導師たちは「引き上げだ」と諦める。報酬を得られる場所は、なにもひとつではないのだ。魔力計はおそらく破損してしまったのだろう。探そうにも見つからない以上、長居に意味はない。
彼らが立ち去ったあとは安堵の息が森のなかをすうっと抜けて消えた。
「はあ、良かった。ひとまずこれで安心だな」
「でもどうするんですの? 戻ってこないとは限りませんわよ」
「フラッドに事情を説明してもらってる。まずは帰ってからだ」
里の場所を変えてきたフラッドたちなら他にも良い場所は知っているはずだ。オーガたちはほとんど疲れ知らずの魔物で、子供から大人まで例外なく怪力を持っている。いまさら里の場所を移すくらい難しい話ではないだろう。
魔法院の遣いもしばらくはやってこない。考える時間はたっぷりある。
「それにしても相変わらず嫌われてますわね。魔法院に在籍していた頃から仲の悪さは伺っておりましたが、まさか中級魔導師にもあんな目を向けられてるなんて」
エイリアとカレンはどちらも幼少の頃から他の追随を許さない才覚のあった魔導師だ。どちらも最初こそ持て囃されていたが、歳を重ねるごとにカレンは淑やかで優しく育った一方、エイリアはどうしてかどんどん風変りなほうへ進んでいった。
そのせいか気付けば周囲からも疎外され、犬猿の仲と呼ぶべき相手は数えきれないほどいた。
それが一躍して英雄となり、町の人々からの信頼はあるが魔法院では変わらず嫌われ者。運よく英雄の称号を手にしただけに過ぎないとさえ言われることもある。
「ハハハ。彼らは上位魔導師の言いなりだからね、私が何かするたびに彼らが八つ当たりをされるんだ。哀れなもんさ、何も成せなかった奴が自分を慰めるための道具にされている、と思えばあれくらい可愛いものだよ」
今や魔導師として彼女の右に出る者はカレンをおいて他にいない。他の魔導師からの妬みは耳に心地良さを感じるくらいすっかり慣れていた。
「さてさて、カレン。それよりも君だよ、君」
「……? 私に何か問題でもありまして?」
「分かってないなあ。君は私と違って品行方正なんだぞ」
足を止めて腰に手を当てながら、彼女はつんとした態度をみせる。
「ここで私たちと別れて普通の生活に戻れと言ってるんだ」




