第47話「もっと上手くいくはずだった」
その手があった、と忘れていたことを思い出したように手を叩く。カレンは白魔導師として名のある人物で、魔法院に在籍していた頃から成績優秀で人望も厚い。彼女ならば適任だとエイリアはさっそく行動に移そうとする。
「おいエイリア。ワシはどうすれば良い、里の者たちにも伝えるか?」
「あ……そうだね、出来る限り混乱を招かないようにお願い!」
「うむ、任せておけ! しっかりやるのだぞ!」
フラッドを置いて急ぎカレンのもとへ走る。焚火の前でオーガの子供たちに囲まれている彼女を見つけて「カレン、ちょっとこっちに来て!」と呼びつけた。
「どうしましたの、エイリア? そんなに慌てて」
「えーっと、うーんと……まずはついてきて、詳しい話は移動しながらだ」
里のそとへ連れ出して、暗い森のなかを進む。エイリアは杖を取り出して、カレンにしばらくのあいだ所有物として持つように言ってから話し始める。
「いいかい。実は魔法院の連中を見つけたんだ。彼らはどうにも魔物狩りをして研究資金を稼ごうとしているようだ。声を掛けようかとも思ったが私では信用がない。彼らを止められるとしたら君だけが頼りだ。君の言葉だったらたぶん信じてくれるはずさ」
さきほど見かけた場所まで案内する。まだ声が聞こえてきて、彼らが魔力計を今も探しているのが分かる。カレンも半信半疑ながら耳を澄ませてみた。
「あったぞ。ちくしょう、イカレてやがる。記録は……」
「問題ないみたいだ。いちど持って帰るか?」
「いや、念のため魔物を探してみよう。どんなヤツか拝んでおかないと」
「たしかに。大したことないなら俺たちの手柄にしちまおう」
オーガの里は結界によって守られていて容易に視認は出来ないが、彼ら魔導師であればなんの問題なく見つけてしまう可能性はじゅうぶんあるだろう。「これは一大事ですわ……! 里のみんなに伝えないと」カレンも慌てる。
「まあ落ち着いて、カレン。事情の説明はフラッドに任せてある。あとは君が彼らをどう言いくるめるかに掛かってる。ほら行ってきて、時間がない」
背中をどんと押す。彼女は戸惑いながらも、世話になったオーガたちを助けるためならば、とひとつ深呼吸をして魔導師たちの前に飛び出した。
「あ、あの! あなたたち、ここで何をしているのです?」
まさか人がいるとも思わず驚いた魔導師ふたりが警戒心をあらわにして彼女を見る。何者だ、と思ってからすぐにカレン・リーベルタースであると分かり、彼らはまた驚く。
「カレン様……? なぜこんな場所に。生きておられたのですか?」
「落ち着け、魔物が化けている可能性もある。証拠を見せてもらおう」
隠れてみていたエイリアが自分の額をバシッと叩いて、しまった忘れていた、と自分の失態を心のなかで強く責めた。そう、旅を始めた理由のひとつは彼女以外の英雄──カレンを含めて──が全員、旅の途中で死亡してしまったことになっているからだ。
しかも大問題なのは、白魔導の英雄が持つ癒しの杖──それに嵌め込まれていた魔石を湖に投げ捨ててそのままにするといった愚行があったことだ。カレンもひどくおろおろとした様子で、ときおりエイリアのほうをチラチラと見る。
(うう……ややこしいことにならなきゃいいが出るしかないか……!)
魔導師たちからの心証は最悪だが、なるようになれ。そう念じて草陰から出て行く。
「やあやあ、カレン。どこに行ったかと思えばこんなところに」
すっとぼけたふうに声を掛ける。合わせろと言いたげに目配せして、魔導師たちへ目を向ける。そしてわざとらしく彼らを蔑み、あのエイリアだと認識させるように。
「おや、どこかで見た格好だと思えば、魔法院の優等生くんたちか。こんなところで会うなんて奇遇だ、雑用でも押し付けられたのかな? 可哀想に」




