第43話「私の最高の友達を紹介しよう」
エイリアは杖を空高く、まっすぐ頭上に投げる。これまでとは違い、彼女の足下には巨大な赤い輝きを放つ魔法陣が現れた。
「さあ! ここからが見せどころだ、目を瞑らずに見ておけよ。私の本気ってヤツをお披露目してあげよう! 聖なる祈りは空へ紡がれる。我が意志、我が魂、我が命を以て、その尊厳と共に降臨せよ、灼熱の獣──召喚魔法〝エリュトロン〟!」
陣の外側から中央にいるエイリアを包み込むように灼熱の柱が立ち、構わず突進してくるサラマンドラが開いた大口を、中から飛び出してきた巨大な二本の腕が上下の顎を掴んで止めてみせる。灼熱が弾けるように消えれば、全身を炎で覆われた獅子のような生き物のすがたがあらわになった。
「な、なんじゃありゃあ……? 貴様、魔物を飼うておるのか!?」
「違う、こいつはエリュトロン。私の友達のひとりさ」
召喚魔法。大魔導師であるエイリアだけが使える魔法。聖獣と呼ばれる神の遣いからの試練を通じて心を通わし、契約を果たせるだけの実力でなくてはならない。
複数いる聖獣の一体であり、なかでも破壊力に優れたエリュトロンは、いくらサラマンドラが通常よりも強力な個体だったとしても敵ではない。正面からぶつかり合うも瞬く間に圧倒的な膂力を以てねじ伏せ、固めた拳で打撃を加えた瞬間、纏った火炎が爆発すれば、正面方向に向けて森の一部を更地に変えた。
「おおう……魔物ごと森を消し飛ばしおった……」
「うーん。これは私も想定外だなあ、ハハハ」
おそらく、魔物以外にもわりと甚大な被害が出たに違いないが、エイリアは涼しい顔をして「もういいよ、エリュトロン。ありがとう」と聖獣に呼びかける。振り返ったエリュトロンはゆっくり頷いて。
『また会おう、盟友』
そう言うと炎に包まれて、そのうちに散って消えた。
「相変わらず口数の少ない聖獣ですわね、エリュトロンは」
「他のヤツはうるさいのにねえ。でも力は貸してくれるからありがたいよ」
被害はともかく、オーガにとっての脅威は去った。目の前で起きたことにバルトンたちは絶句していたが、フラッドは目をきらきらさせて「なんじゃあのカッコいいヤツ! 戦ってみたいのう、強そうじゃのう~~~~!」とウキウキした様子だ。
「もし君と仲違いでもするようなことがあれば出してあげるよ」
「ム……。それは、難しいのう……」
ごろん、荷台に寝転がってフラッドはつんとした態度をする。
「貴様はなかなかのクズではあるが、どうも嫌いになれん。腹が立つ」
「ハハ、なんだいそれ。つまり私のことが好きって思ってもいいのかい?」
「ふんだ、馬鹿め。それで良い! 貴様には二度も助けられたしのう!」
よほど気が合うのだろう。バルトンたちも安心した様子でふたりを眺めている。横では見ていたカレンが手を合わせてじっと祈りを捧げていた。
「おい、魔導師さん。なにを祈ってんだい、ふたりに」
バルトンが不思議そうにカレンを見る。彼女は「静かに」と言って、しばらくしてからようやく顔を上げて沈黙を破り。
「美しい友情には祈りを捧げるのが習慣ですの。さ、皆さま。そろそろ行きましょう、ここでぼーっとしていても時間は過ぎていくだけですわ!」
彼女の言葉に皆頷いて馬車に乗り込む。エイリアは疲れた顔をしながら、荷台に積んである薬品を手に取って、試験管一本の中身を丸々と飲み干す。
「うーん、最高。やっぱり一仕事のあとに飲む栄陽草の薬は効くね。どう、君も一本飲んでおいたほうがいいんじゃないかな?」
フラッドもそれなりに本気を出して魔力を消耗したはずだと気遣ったエイリアが試験管を渡す。彼女はコルク栓を抜いてくんくんと嗅いで、飲む前から苦い顔をした。
「……貴様、よくこれを平気で飲めるな。まあ良いわ、礼を言う」
諦めてぐいっと飲み干して、数秒後には顔を青ざめさせてごろんと寝転がった。




