第41話「請けなきゃよかった」
オーガたちには報酬を支払ってでも退治したい魔物らしく、エイリアが詳しく聞くと首長であるフラッドですら討伐が難しいほどの強い、というのが彼らの評価だ。
全身が燃え立つ炎のように紅い竜種で、知識豊富なエイリアとカレンはすぐにその魔物が『サラマンドラ』と呼ばれる竜種であると理解した。
「……まーたずいぶんと荒々しい性格の魔物がいるねえ」
「でも、高山地帯にしか生息していないはずですわよね……なぜ森に?」
「それはあれだろうね。獲れるエサがとても減ったか、あるいは──もっと強い魔物がいて、縄張り争いに負けてしまったから森へ逃げて来たのかも」
過去にはふたりともサラマンドラに遭遇したことがいちどはあり、その強さはよく知っている。火炎の吐息は岩石でさえ塵にするし、大きな爪は引っ掛けば、たとえ同じ竜種のうろこでも紙のように引き裂ける。強靭なアゴは大木でさえへし折ってしまうだろう。
「できれば後者の可能性は考えたくありませんわね……」
「ま、どっちにしろ私たちのすべきことはサラマンドラ討伐だ」
たとえサラマンドラより強い魔物がいたとしても、餌場が違えば関わってくることもないだろうとエイリアは考える。可能性はゼロではないだろうが極端に低い、と。
「だがあんたたちに出来るのか、本当に? 頼んでおいてなんだが、命を落とすにはじゅうぶんすぎるくらいの強敵だ。俺たちでさえ頭を抱えたくなるのに」
「フッ、安心したまえ。昔はカレンとふたりで討伐した経験もある」
多くの苦難を乗り越え、その果てに待つ魔王さえも倒したのだ。当然、それまでに数えきれないほどの強い魔物たちとも戦ってきた。サラマンドラもそのうちの一匹にしか過ぎない。カレンも彼女の言葉に同意するように力強く何度も首を縦に振った。
「貴様らほど強い人間なぞそうおらんのじゃろうなあ。サラマンドラとやらはワシも見たことがないから、どんなヤツか気になってきた。どれ、探してみるか」
強い魔物なら興味津々のフラッドも、やる気いっぱいだ。
「たしかに探せるなら頼みたいね。ソイツの活動時間は?」
「基本的には昼から夕刻だ。ちょうど今くらいの時間に見かける」
バルトンが周囲を見渡す。里までの道のりで襲われたこともあった、と思い出して恐怖が顔に滲んだ。食われてしまった仲間もいるらしい。
「ふふん、安心したまえ。私たちがいればサラマンドラ程度────」
ずしんと大地が揺れる。二度、三度と音がして石ころが跳ねた。馬車の後ろからゆったりとした動きで地面を踏みながらやってくる巨大なすがたを見つけて「おい、馬車を停めてくれ。私たちがここで相手をしよう!」そう言ってエイリアは荷台から降りる。
「気合が入りますわね! わたくしも回復に努めますわ!」
「さすが、年季の入った白魔導師は違うね。よろしくカレン」
エイリアは杖を取り出して構え、今か今かとサラマンドラが自分たちを見つけるのを待つ。だが、徐々に距離が縮まるにつれてふたりの顔色は暗くなっていく。
「うーん、なるほど。サラマンドラだな、間違いなく」
「ええ、そのようですわね。……かなり大きいですけど」
ふたりがかつて戦った記憶のあるサラマンドラとは、倍近い大きさの違いがある。特徴的なのは表皮のうろこが傷だらけで、ひと目見れば、これまでどれほどの争いを生き残ってきたのかが分かるだろう。
人間を三人か四人は丸のみできそうなおおあごを開いてあくびをしながら、見つけた獲物に強い自信をもって対峙する圧倒的な強者のすがたが、そこにはあった。
「よーし、撤退! 馬車に乗り込め! 全力で逃げるぞ!」




