第39話「罠にかかったと思っていたら」
地下を降りた先は小部屋だ。とくに何が置いてあるわけでもない。あるのは、肉の塊。人間の形はしていないが、フラッドは間違いなく人間のものだと言う。
「誰かが刻んでおる。わざとここへ置いていったんじゃろう」
「魔物がエサの貯蔵のために持ってきたとか?」
「そんな知性ある魔物なんて数えるほどしか種類はおらんぞ」
肉を掴んでにおいを嗅ぐ。誰が持ってきたのかを詳しく確かめようとして、虫が飛んでいるのもまるで気にする様子もない。さすがは魔物だ、とエイリアもカレンも少し引き気味だったが、唐突に背後の通路が、どしんと天井から降りて来た柵によって塞がれる。
「あっ、と、閉じ込められましたわ……!」
「おいおい、何事? いったい誰が────」
ざ、ざ、と砂を踏んで退ける音。同時に高笑いが響いてくる。
「ハーッハッハッハ!! 見ろ、馬鹿が捕まったぞ!」
「魔物が寄ってくるかと思ったんだが、人間とは。餌には少ないな」
降りてきたのは筋骨隆々で見るからに屈強な男ふたり。見れば額にはしっかりと二本の角が伸びており、どちらもフラッドとは少し違う形をしていて小振りだが、紛れもないオーガだというのが分かる。
肉をぽいと捨てて、柵の前までやってきたフラッドがふたりに声を掛けた。
「なにやっとんのじゃ、貴様らは?」
ムッとした表情をするも、オーガたちには伝わっていない。彼らは顔を見合わせてガハハと彼女の憤りを笑い飛ばして「何言ってやがるんだ、このチビは!」と馬鹿にする。今の彼女には角がなく魔力も質が変化し抑えられていて、人間にしか見えていない。
「ほお~、そうかそうか。貴様らはワシが分からぬと」
立派な角や鋭い爪がないだけで、見目に大きく変化はない。所詮、魔物なんてそんなものなんだろうと自分にも呆れながら、彼女はちらっとエイリアを見る。
「……! いいよ、別に。どうせここには私たち以外いないし」
「うむ、では見せつけてやるとしようかのう」
全身を紫のオーラが包んでいく。徐々に額からのびてあらわになった大きな角を見て、流石にオーガのふたりも愕然とし、彼女の名を呼んだ。
「────フ、フラッド様!? なぜこんな場所に!」
「何年もいないから死んだと思いましたよ!! どうして人間と!」
慌てふためくふたり。どうやら今いる森は、偶然にも──カレンの言ったとおりに──フラッドの故郷になる森だったようで、彼女は「さっさと門を開けんか、殺すぞ」と覇気たっぷりに唸り、彼らは急いで柵を折り曲げてまで道を開ける。
「す、すみません……。まさかエサを獲りながら帰ってこられていたとは」
ちらと視線がエイリアに向き、彼女は「は? いっしょに旅してたんだけど」と憤慨する。フラッドもうんうん頷いた。
「こやつ、エイリアは襲われて瀕死だったワシの命を助けてくれた仲間じゃ。カレンはエイリアの……仲間? と呼んでよいのか、貴様は……?」
「なんで疑問形なんですの!? 仲間ですわよ、もちろん!!」
「お、おう……そうじゃな。悪かったから離れてくれ、顔が怖い」
必死の形相で訴えかけるのは自分が食べられるかもしれない恐怖からだろう。そんなことをしなくてもフラッドがいればじゅうぶん庇護は受けられるはずだが。
「ま、よいわ。色々あって人間のすがたをしておったゆえ、勘違いを招いたのはこちらの失態じゃ。……ひとまず里へ帰りたいから案内してもらえんかのう?」




