第34話「誰も手伝ってくれない」
────二日後、乾燥した薬草を粉になるまですり潰して瓶に詰め、荷台に乗せて出発の支度をする。やっているのはエイリアひとりだ。フラッドとカレンのふたりは軒下で朝食を摂って、馬車の用意が済むのを待っていた。
「……なぜ誰も手伝ってくれないんだろう」
ひとりで進めながら、ふと思う。フラッドはともかくカレンは手伝うべきではないのか、と。だが「あ、でも手伝わせないほうがいいんだっけ……」と記憶を辿る。
カレンはなにしろドジだ。昔、拠点を移すというので研究資材のあれこれを運び出すために全員に手伝ってもらったことがあるが、彼女だけは資料をめちゃくちゃにし、瓶を割り、誤って薬品をぶちまけた過去を持ち、エイリアもいささかトラウマ気味だ。
「……ひとりでやるか。いや、でも声くらい掛けても良くない? 私ひとりだぜ、オイ。結局断って自分でやるとしてもさあ」
ぶつぶつと文句を垂れながら作業は進み、汗だくになって荷物を積み終えたらひと休憩。天気がよく、涼しい風が温まった体を程よく冷やしてくれた。
「ああ~、研究室が恋しい。帰りたい。旅もいいけど、最終的には『やっぱり自宅最高~~~!』ってなるの目に見えてるんだよなあ。そしてまたしばらくして旅に出るんだ」
研究にはいくらでも時間を掛けられるが、雑務となると急にめんどくさくなるので帰りたがる。だが本質的には散策するのは嫌いでもない。他人の邪魔さえ入らなければ。そして今はなにを優先するべきかで頭のなかはぐるぐるしている。
個人的なことでいえばブリッツらのことなど後回しにして、先にロッソという半人のドレイクに会ってみたい気持ちが優先されている。互いに見限った者同士、助けあう意味があるのかと心のなかで問答を繰り返す。
英雄だなんだとおだてられて高ぶるのは勇者やそれと精神を同じくする者たちであって、いち研究者であり、魔導師であり、平凡な感性を持つ人間であるエイリアには、正直なところリスクを冒してまで助けにいく価値があるとは思えなかった。
「なんじゃ、貴様。なんぞやる気がなさそうに見えるが」
「うおっ!? フラッドか、私がそんなことを考えてるとでも?」
「そんなことしか考えてなさそうじゃがな、普段から」
「付き合い短いくせに結構辛辣なこと言ってくるし、よく分かってるな」
気が合いそうだ、とエイリアが笑う。
「フッ、良いのかのう。魔物なんぞと気が合うのは」
「いいんだよ。君たちのほとんどは邪悪だろうが、君はそうじゃない」
「ほーう? なるほど、それは……うむ」
によによと嬉しそうにして、フラッドは牙をみせた。
「貴様ならば心から信用しても良さそうじゃな!」
「そりゃどうも。……あ、そうだ。君にこれやるよ」
手に握りしめていた試験管を渡す。コルクで栓をされた中身は薄緑の液体で、ちょうどさきほど試しに作った新薬だ。飲めば目が冴え、若干ではあるが運動性能もあがり、薬で魔力を抑えているフラッドでも森で湖のヌシに襲われるような失態もなくなる代物らしく「もう私が自分の体で試してるから安心したまえ」と言った。
「……ふうむ、ま、貴様が言うなら良かろう」
コルク栓を抜いてがぶ飲みする。彼女の言われたとおり、すぐに効き目は出てきた。「こりゃええのう、もっと欲しいくらいじゃ」と味も悪くない様子。
だが、エイリアはニコニコとしながら。
「それ本当は半分ずつ飲むようになってるんだけどね」
「貴様なんでそんな大事なことを先に言わんのじゃ!?」




