第33話「誰とでも打ち解けるのは得意」
帰りは森の中を歩きながら、のんびり過ごす。道中で見つけた薬草を採取したり、ちょっとした大型の獣もガンとがいると近寄ってくることさえないので、ゆっくりと時間は流れていく。「あの、エイリア。少しよろしくて?」カレンに呼び止められて、エイリアはさも面倒そうな顔で「何?」と返事する。
「そんな冷たい言い方……いえ、いいですわ。それより、どうして魔物といっしょに。しかも彼女はオーガでしょう。信用できますの?」
「ははは。君ってまさか、この世界で私より信用できないヤツいると思ってる?」
なんとも下らない質問をされたと小馬鹿にしたような笑い方をして答えられたが、どう考えても何かがおかしいとカレンは大きなため息をつく。しかし、実際そうだ。エイリアは平気で嘘をついて研究費用を多めに回収したり、言いくるめられて実験的に飲まされた薬品でひどい目にあったことはいくらでもある。
「聞こえておるぞ貴様ら。安心せい、殺す気だったら出くわしたときに殺しておるわ。……そも、ワシはそこな狂人に命を救われておるからのう。仇は忘れんが恩も忘れぬ。誇り高きオーガであれば、基本的には誰でもそうじゃ」
治癒まで待っていては翼竜に喰われていたかも、とフラッドは話す。あのとき、深く傷ついていたのを彼女が癒さなければ本当に死んでいたかもしれないし、そもそも深手を負っていたので傷が癒えるよりも先に息絶えていたかもしれなかった。
「エイリアがワシを裏切ったりせんうちは仲間じゃ。よろしくな、カレンとやら」
「ま、まあ……そういうのでしたら、ええ。よろしくお願いしますわ」
ニカッと笑うフラッドのむき出しになった犬歯の鋭さは恐ろしかったが、およそ敵意の感じられない温かな瞳が嘘とは思えない。カレンは彼女を信用してみようと決める。
「いいねえ。新しいパーティの結成だな。ブリッツたちを見つけるまでだけど」
「……ありがとうございますわ、エイリア。存外優しいんですのね」
「そりゃあ、私も旅は嫌いじゃない。あっちこっちいって見識を広め、研究に役立てる。フラッドのこともそうだけど、世の中にはまだまだ私の知らないことがたくさんあるからね。そしていつかは────本当の意味で万能の魔導師となりたい。そう思ってる」
ローブのなかからリンゴを一個手に取って齧り、フラッドにぽいっと投げた。
「ム。なんじゃ、くれるのか? さっきまで出し渋っておったのに」
「食べなよ。君にはガントの通訳もしてもらってるしね」
「ほほー、なるほど。そりゃ嬉しいのう。……あ、でも」
森のそとが見えてくる。草原から差し込む陽射しと涼やかな風を感じて、村へ帰ったらまた薬を飲まなくてはならないことを思い出して食べようとするのをやめた。あの吐き出しそうな苦い味が口のなかによみがえってくるようで、つばを飲み込む。
「うむ、やはりあとで食べることにする」
「……? そう、まあ好きにしたらいいけど」
森を出ようというときに、ガントは立ち止まる。『俺、ここまで。そとにはいけない』と、自分が人間とは対立せざるを得ない存在であるのを理解していて、見送りだけをしにきた。彼らに迷惑が掛からないようにしなくてはならない、と。
「寂しくなるねえ。いつかトロールのことについても詳しく聞きかせてよ」
拳をガントに向けて突き出す。彼にはエイリアが何を言っているのか分からないが、少なくとも友情的なものを向けられていることだけは察して、大きな拳を小さな拳にやさしくこつんとぶつけて、にんまり笑ってみる。不器用な醜さも、今は優しそうだ。
フラッドがあくびをして、ふたりのやり取りを眺める。
「実に面白いヤツじゃのう。無邪気な幼子みたいじゃ」
「ふふ、だから憎めないんですわ。ときどき嫌になりますが」




