(ある意味)ドキドキのデート ブルーフォレスト
〜クレープ屋外店後〜
現在の時刻は10時40分、お昼ご飯にするにはまだいささか早い時間だ。
「昼食をとるにはまだ早いけど何かやりこととかあるか?」
俺はフユミにやりたいことはないが聞いてみた。
当然のことながらクレープを食べ終えたばかりなので仮に何も無いと言われても食事の時間にするつもりはない。
しかし俺としてはもう特にやりたいことはないのでフユミから何が案を出してくれるとありがたい。
何も案が出ないようであれば駅の中にあるお店をぶらぶらと見て回ることになる。
「そうね…じゃあブルーフォレストに行きたい。」
「オッケー、ちょいと待ってね。」
ありがたくフユミから時間潰しの案が出た。
俺はケータイのマップ機能を使用してブルーフォレストへの行き方を検索してみる。
説明しておくとブルーフォレストというのは全国展開している服屋さんのことだ。
「えーと…ここから10分ほど歩いたところにあるみたいだな。」
「私場所知ってるけどね。」
「先に言おうか!」
「ふふふ、こっちよ。」
フユミは何とも楽しげな表情でブルーフォレストに向けて歩き出した。
(くぅ〜楽しそうな顔しやがって…)
俺はケータイをしまってフユミの後を追いかけた。
〜ブルーフォレストにて〜
こうして歩くこと15分、ケータイが示していた時間通りにはいかなかったもののそれほど時間はかからずに服屋にたどり着くことができた。
入り口の自動ドアを潜ると辺り一面に大量の衣類が展示されていた。
「おぉ服屋なんて久しぶりに来たな。」
「男の子はやっぱりこういうところはあまり来ないの?」
「まぁな。」
服屋なんて男が1人で行くような場所ではないだろう。友人達と遊ぶ時も服屋に行こうだなんて言われたこともない。
では今俺が着ている服はどうやって手に入れたのかというとこれはマザーセレクトだ。
うちの家庭では俺の着る服選びはお母さんの担当となっている。
自分の服くらい自分で選びたいところだが、俺が8歳くらいの時、家族と服屋に行った際、戦闘服を着て見せた時にセンスの信用を完全に失ってしまった。
今思えば悲しい話だ。それくらい年にもなるとアニメのキャラクターなどが描かれた衣類を身につけたくなるものだと思う。
しかしそれがどうやらお母さんには看過できなかったようでそれ以後俺が新しい服を欲した時にはその都度お母さんが俺に似合う服を買ってきてくれるようになった。
「ってな感じで幼い頃コスプレしたことが原因で服屋にはあまり行かなくなったんだ。」
「戦闘服ってギャリック砲!の人のアレ?」
「そそ、まさにそれ。」
フユミの口からあの方の必殺技名が飛んできたので内心かなり驚いた。
「あなたにもそういう時代ってあったのね。」
「かなりわんぱくな子供でしたね。」
しかしそれはあくまで子供の頃の話で今ならもう少しまともな服装をコーディネートすることができるだろう。
せっかくの機会なので俺も自分に似合いそうな服を探してみよう。
「そんじゃ俺も少し見て回ろうかな。」
「今度は戦闘力53万の方の戦闘服を着るのかしら。」
「オホホホホ、初めてですよ…ここまで私をコケにしたおバカさんは。」
「ってことは購入するのね?」
「そんなわけあるかい!流石にその趣味は卒業したわ。」
流石にこの年でコスプレはしない。仮に17歳でコスプレをしている人が他にいたなら申し訳ないが俺としてはこの年でコスプレなどしてもただ恥ずかしいだけだと思う。
(あ〜でもいいよな戦闘力53万。それだけあったら魔物狩りがどれだけ楽なことか。)
なんてことを考えていると背中のところに亀と書いてある山吹色のTシャツが目に入った。
「へぇ、こういうのもあるんだ。」
「あなたやっぱり…」
「ち、違うわ!服のセンスはないかもだけど、コスプレしたりはしません!」
動揺する俺を他所にフユミは「はいはい」などと言って笑いながら適当に流していた。
「そういうお前はラズリのコスプレとかしないのかよ。」
「するわけないでしょ。あれはあの人が着るからいい感じに見えるのよ。」
正直に言ってフユミと全く同意見だった。
やはりアニメと現実世界は境界線で分けられている。現実世界で向こうの服を着てみても決してカッコ良くはならないのだ。
「まぁでもよく服屋さんに行って服を見て回ったりはしているわ。」
「ほぅ。」
女の子はファッションというモノを重要視する生き物だ。フユミとてその例外てはなかった。
「そうだ、なんならシュウや君に似合う服を私が選んであげよっか?」
「マジ?」
「うん、センスのないあなたよりかはまともなコーディネートができると思うわ。」
「むむむ」
フユミはわざと挑発的な物言いをしてきた。おそらく俺がその挑発に乗ることを期待しているのだろう。このツンデレめ、お前の安い挑発に乗ってやろうじゃねぇか。
「なんだと!ならお前の服は俺が選んでやるよ!」
「え…?」
次の瞬間フユミは目を大きく開いて驚きの表情をした。
「あれ?」
(もしかして予報外した?てっきり遠回しに私の服を選んでって言ってるのかと思った。)
フユミの反応が想定していたモノとは大きく違っていたので俺が1人で勝手に勘違いしていたと思いざるを追えなくなってしまった。
こうして外してみるとかなり自分に都合の良い、恥ずかしい解釈をしていたことに気づく。
「ふ、ふーん。なんだか自信ありそうね、だったらやってもらおうじゃないの。」
「え?マジっすか?」
次の瞬間、なんとなく状況を理解してくれたのかフユミが俺の勘違いに合わせてツンデレキャラを演じてくれた。
なんと適応力のある柔軟な女だ。それでいてとても優しい。
やめろやめろ惚れてまうやろ。
…しかしそうは言っても
「でもさ、多分俺ダサい物を選んじまうぞ?」
「そしたらあなたが購入する服をそれ以上にダサくするまでよ。」
「そんな〜」
つまり俺がダサい服を買わされないためにはフユミに対してちゃんとした服をコーディネートしなければならないということか。
これまでそういったセンスは磨き上げてこなかったが、まぁなんとかなるだろう。
「どうする?やっぱり止めておく?」
「いいや、やるよ。臨むところだ、」
こうして俺達のバトル?は始まった。
流石に相手に購入させる服装は1人で選ばなくてはならないのでしばし別行動をとることになった。
(さて、どうするかな…)
今日のフユミの私服姿を見る限りあいつには服を選ぶセンスは充分にある。
しかし俺があいつの気に沿わない服を選んだ瞬間、あいつの悪意やダサい物を選ぶセンスがフル動員されて恐ろしいコーディネートがなされてしまうだろう。
少しダサいくらいでいいところをあいつなら無駄にこだわって物凄く恥ずかしい服を購入させるに違いない。
きっとそれが楽しみで俺の勘違いに合わせてくれたのだろう。あいつは多分そういう女だ。
ここは慎重に選ぼう。
「どれがいいかな…」
とは言っても服を着させるモデルがいいのでどんな服を着させてもある程度まともな容姿になる気がしてきた。というか客観的に似合ってると思っても本人がダサいと思ったらゲームオーバーなのてかなりのクソゲーじゃないか?
せめて本心の感想を言ってもらえるように先手を打たなければ。
〜10分後〜
「これ、あいつに似合いそうだな。」
フユミに似合いそうな服を探すこと10分、中々いい感じの物を見つけた。
(どうする?これで勝負に出るか…よし行こう!)
俺は一刻も早くその場から抜け出したいという一心であまり深くは考えずにその服をセレクトした。
なんせ今俺がいるのはレディースコーナーだからな。女性用の下着なども多く並んでいる場所を男が1人でうろうろしていたら怪しまれてしまう。
「さ、次はズボンだ。」
この際下着などは見て回る必要はない。外から見える部分だけおしゃれさせればいいのだ。
ということで次はズボンをセレクトするわけだが、レディースパンツという物もたくさん種類があった。とりあえずここは今選んだ服と色がうまくマッチングする物を選択するとしよう。
〜20分後〜
お互いに相手に着させる服を選び終えたので俺達は再び合流し、互いの手に持っていた衣類を交換した。
「先手を打っておくが、ダサいと思ってないのにダサいって言うのはなしな?」
「その心配は不要よ。思ったことをはっきり言うわ。」
そうして俺達は2人揃って試着室へと向かった。
「それじゃあ2人とも着替え終わったらせーので出るわよ?」
「りょーかい。」
俺は早速試着室に入り、フユミの選んでくれた服を確認してみる。
フユミのセレクトした物はベージュの長ズボンと両方の胸元にボタン付きのポケットがある白い線の入ったブルーの長袖シャツだった。
なるほどこの2つなら俺にでも似合うかもしれない。
ささっとそれらの服を着替えてみると中々いい感じだった。しかもかなり動きやすい。
(これは結構ナイスセレクトだな…ん?)
隣の方からはまだ着替えをしている途中のような物音が聞こえてきた。
(こういう時女って時間かかるよな。)
まっ、デリカシーのない発言は謹んで気長に待つとしましょう。
〜フユミ視点〜
「何よ、コレ…」
私は彼の選出した服を目の前にして少しガッカリしてしまいました。
なぜなら
(普通にまともな服じゃない。)
彼が中々いい物を選んできたからです。
せっかく彼のセンスを酷評してメンタルを叩きのめしてやろうと思ったのにこれではそれも叶わないじゃないですか。
しかしまぁこれからは彼の選んでくれた服を着て外出できると思えば決して悪くはないでしょう。
(さぁて似合うかな〜)
「シュウヤ君、着替え終わった?」
しばらくして隣の試着室からフユミの声が聞こえてきた。
まぁこっとら着る物は2つだけなので当然着替え終わっている。
「おう、終わってるぞ。」
「それじゃあいくわよー。」
「「セーのっ」」
次の瞬間2つあった試着室のカーテンが同時に開かれ中から2人の男女が互いを見つめ合うような体制で試着室から出てきた。
「「おぅ。」」
フユミはテンション高め、俺は微妙そうな反応をした。
文字的に言えば2人とも同じ感想だったのだが、声のトーンがまるで違がう。
俺が「どうかな?」と具体的な感想を聞くとフユミは「似合ってる似合ってる、いい感じ。」と答えてくれた。
先程試着室の鏡に映る自分の姿を見てみても中々似合っていると重ったので俺の方は購入決定だな。
しかし…
「何かなぁ…」
俺が選出した服を着用したフユミの姿は正直微妙だった。
ちなみに俺が彼女に着てもらう服装として選出したのはネックリボンの部分は暗い青でそこ以外は水色になっているブラウスと女性用の黒いズボンだ。
服装自体は中々良かったのだが、実際にフユミに来てもらうと考えていたようなイメージにはならなかった。
いや決して似合っていないというわけではないんだ。ただどちらかというと可愛い系ではなくカッコいい系になってしまった。
「ごめん、フユミの方の感想は正直カッコいい…」
「そうね、私もさっき同じこと思ったわ。」
フユミは怒っているわけでもなけれびすごく喜んでいるというわけでもない。まさに微妙と言った表情をしていた。
カッコいいと言われて素直に喜ぶ女子もそういないだろうし、今のような反応になるのも無理はない。
けど仕方ないじゃないか。フユミは元々クール系女子だからこういう服は似合うし、無理に可愛いらしい服装を着させても多分似合わないのだ。…こういうと聞こえはいいが、結局はフユミという1人の女性を可愛らしく見せるテクニックを俺が持っていなかったってことになるよな…やっぱり。
「なんか似合ってるけど可愛いらしさでいうと今日フユミが着てきたやつの方がいいな。」
「んー、たしかにそうかもしれないわね。けどこれはこれで気に入ったわ。」
「マジっすか!」
なんとフユミは俺の選んだ服を気に入ってくれたらしい。正直もう少し酷評されると思っていたので結構嬉しい。
「フユミが選んでくれた服も結構良かったから俺もこれを買うことにするよ。」
「じゃあ決まりね。」
こうして2人とも購入することが決定したので俺達は服を持ってレジへとむかった。
「いらっしゃいませ〜。お会計はご一緒でよろしいですか?」
「あ、べ…」
「はい、大丈夫です。」
「え?」
俺が「別でお願いします。」と言おうとするとそれよりも先にフユミが会計を一緒でいいと言ってしまった。
しかも何故か自分の財布から1万円札を取り出し始める。
俺は慌ててフユミの耳元に囁きかけた。
「俺が払うなら分かるけどお前が支払うことはないだろう。」
「これは約束の件とは別事情だもの。」
たしかに元々のデートプランではここにくる予定はなかったが俺が着る服の分までフユミに払わせるのは流石に気が引ける。…合計8千円越えだし。
「ならせめて自分の着る物を買うってことにしようぜ?それが普通だろ。」
「荷物持ちとゲームセンター代でチャラってことでいいわ。」
まったくもってチャラになっていないと思うのだがまぁフユミがプレゼントしてくれるというのだからお言葉に甘えるとしよう。
「そっか…ありがとう。」
「でも動きやすそうな服を選んであげたんだからちゃんと着なさいよ?」
「あぁありがたく使わせてもらうぜ。」
(今日からこれを仕事服にしよう。)
「ありがとうございました〜。」
こうして買い物も無事終了し、俺達は元いた駅を目指して服屋を後にした。




