多忙な1日
10分後、2限開始のチャイムがなってしまったので俺は渋々教室に戻った。
(頼むぞー。もう睨みつけてこないでくれよ。単位落としかねないから。)
などとはじめの方は大袈裟に心配していたが、幸いなことにあれからフユミの視線を感じることはなかった。
流石に向こうも授業に集中するようだ。
(良かった〜。これで授業に集中でき…)
「よーし、前回やった走れメロスの続きやるぞー。」
「なんて日だ!」
反射的に言葉が出てしまった。
「そ、そんなに私の授業が嫌…か?」
俺の言葉が心に刺さったようで、現代文担当のおっちゃんは教卓に崩れ去った。
「あ、いえ、何でもないんです。ほんとすみません。」
俺が先生に謝罪を入れると周りのクラス連中はニヤニヤ笑っていた。
(仕方ないだろ。現代文嫌いなんだから。)
俺はなんとか先生の誤解を解き、授業をスタートさせた。
(はぁ…朝からなんて疲れる1日だ。)
現代文の件に限っていえば完全に俺のせいなんだけどね?
俺は小さな頃から国語というものが嫌いだったのだ。
さらに詳しく説明すると長い文章にズラー!っと並んだ文字を読むことが大嫌いなんだ。
見ているだけで眠たくなる。
あれから40分後、俺はじわじわと襲いくる睡魔と真っ向から対決していた。
(眠るな。寝たら2度と起き上がれない!目を見開けぇー!)
そんな俺の検討など知る余地もなく、先生は教科書を読み続けた。
「ゆっくりと沈む夕日の10倍の速度でメロスは走った。」
(メロススゲェな。)
俺が初めて授業の内容に関心を持った瞬間であった。
その後10分が経過し、やっと2限が終了した。
「んー!やっと終わった。」
授業が終わり、俺は大きく背伸びをする。
(眠気に耐え抜いたぜ!…おや?)
気がつくと俺の目の前にノゾムが立っていた。
「お疲れ〜。眠気との対決、勝ててよかったね!」
こいつ、俺が眠たそうなにしてるの見て楽しんでやがったな。
「負ける確率の方が高いのにな。予想外しちゃったよ。」
「友達で遊ぶな!…次なんだっけ?」
俺がそう質問するとノゾムは手に持っていた教科書類を見せてながらこう言った。
「これだ〜1、2、3」
「あー化学か…ってことは実験か。」
なるほど、だからノゾムは教科書を持っているのか。
今週の化学は実験室で石鹸を作るらしい。
「では行くとしますか。」
〜実験室〜
「みんな注目!これから実験の班決めをするわよ。」
どうやら実験は先生が適当に決めた人間が4人ペアになって行われるらしい。
「それじゃあ、1斑はノゾム君、フユミさん、モブコさん、シュウヤの4人でお願いします。」
「「「はーい」」」
(なんで俺だけ呼び捨て?)
しかしノゾムと同じ班なのはラッキーだったな。
けど、フユミも一緒か…気まずいなぁ。
っていうかモブコさんって?名前手抜きすぎだろ。
俺達は先生の指示通り斑を作って各々指定された席についた。
ノゾム「それじゃあみんな、今日はよろしく。」
シュウヤ「よろー。」(さすがノゾム、先駆的だね。)
フユミ「えぇ。」(シュウヤ君と一緒だ、やった!)
モブコ「宜しくお願いします。」
こうして俺達は互いに挨拶を交わし、実験に取りかかった。
20数分後、実験は順調に進み、だんだんと石鹸のような液体が出来上がってきた。
(すげーな。ノゾムもそうだけどフユミってこう言う時、頼りになるんだな。)
俺達の斑は主にフユミの指示を受けながら実験を進めていた。
ここまで何1つ躓くことなくやってこれたのも彼女のおかげであろう。
他の斑は小爆発を起こしたり、黒い煙を発生させたりしていると言うのに。
(それにしても…何故だろう。こいつのことは昔から知っていたような気がするんだよな。)
つい物思いにふけってしまい、フユミの顔をガン見してしまっていた。
「何?」
そのことに気づいたフユミが鋭い視線を向けてくる。
「あーいや、フユミって意外と頼りになるんだなぁっと。」
「なに今更気づいたようなこと言ってるの。」
(マジで今気づいたんだけど…)
(シュウヤ君に褒められちゃった…えへへ。録音しておけばよかった。)
相変わらず冷たい態度で素っ気なく返されたものの、俺のフユミに対する好感度は少し上がっていた。
〜さらに20分後〜
結果的に俺達の斑は無地に実験を成功させることができた。
ノゾム「みんなお疲れ〜」
シュウヤ「フユミのお陰でスムーズに行ったな。」
フユミ「このくらい当然よ。」
モブコ「お疲れ様でした。」
〜昼休み〜
その後、4限の授業も何事もなく終了し、昼休みの時間となった。
俺は今朝コンビニで買ったおにぎり2つを持ってノゾムの席へと向かう。
「それじゃあ、昼飯にしようぜ。」
「そうだね。」
俺達は毎日一緒に昼飯を食べまている。
そしてその間様々な世間話をして盛り上がるのだ。
この時間が学校生活の中で一番好きだ。
互いにいただきますをして、俺はおにぎりにかぶりつく。
しかしノゾムの箸は一向に動く気配を見せなかった。
「どうした?」
「実はさ…弁当取り出す時、バッグの中除いたらこれ入っててさ。」
そう言ってノゾムは一通の手紙を手渡してきた。
(おぉ!これはラブレターと言うやつですな?
ノゾムの良さを分かる女がやっと現れたか!)
ノゾムもどちらかといえば彼女欲しいと考える側の男だった。
しかし周りの女子連中の見る目がないのかノゾムはこれまでに彼女を作ったことがない。
(やったなノゾム。)
俺は心の底からノゾムを祝福した。
「とりあえず読んでみろよ。」
「んー、なんか怖いな…お前読んでくれよ。」
いつもは勇敢な性格なのにこういう時はビビリなんだよな。
「しょうがねぇ…」
俺はノゾムから手紙を受け取り、中を確認してみる。
「…」
次の瞬間、ノゾムのリア充化と言う俺の期待があっさりと裏切られる。
「なんて書いてある?」
「…今日の放課後体育館裏にこい。叩きのめしやる。って…」
ラブレターちゃうんかーい!
つーかこれ果たし状やん!
「あれー俺誰かに恨み買われたっけ?」
「どこのどいつだ…差出人の名前も無いし。」
ノゾムは正義感もあり、困っている人は見逃せない性格でとても頼りになるやつだ。
こいつを悪く思う奴なんて…少なくとも俺は思いつかない。
「念のために聞くが、差出人に心あたりは?」
当然ノゾムの口から出た答えは「無い」だった。
「行くの?」
俺がそう聞くと、ノゾムは黙って首を縦に振った。
「もし俺が何か悪いことしてたなら謝らないといけないから。」
「そっか…俺もついて行こうか?」
俺は念のため、俺も同行することを提案してみる。
ノゾムが虐待を受けるという可能性もあったからだ。
しかしノゾムは「相手も一人だろうしフェアに行きたい。」と俺の誘いを断る。
まぁ本人がそういうのだから仕方がない。
ここは親友を信じて黙って見送ってやろう。
「そうか、気をつけてな。」
話がひと段落つき、俺達は昼食を食べ始めた。
〜昼休み終了後〜
この日の5限は体育なので、俺達男子は着替えを済ませ、グラウンドに集合した。
(今日も目立たないように気を付けなければ。)
「よーし集合!」
「もうしてますよ。」
体育のおっちゃんは授業開始ギリギリになって登場した。
「今日は野球をやるから、適当にチーム作れー。」
その日の体育は野球をやるらしい。
卓球やテニスのように個人プレイの競技よりよっぽど楽だ。
(投手以外ならなんでもいいや。)
俺が心の中でそう呟いた瞬間、クラスメイトの1人が余計なことを言い始めた。
「じゃあシュウヤピッチャーってのはどうだ?」
クラスの男子達「いいんじゃねー。」
(ちょっと待てい!!)
いかん、このままでは俺が投手にされてしまう。
もし仮に俺がコントロールを誤って、俺の放った球がバッターの頭部に直撃したら…
昔見た野球アニメのおとさんのようになってしまう。
それだけは絶対にダメだ!
(ノゾム〜!助けてー)
俺がノゾムにヘルプの眼差しを向けると、願いが通じたのかノゾムは軽くウィンクした。
「無理無理、シュウヤはピッチング苦手だから。俺がやるよ。」
「そっか、じゃあノゾム頼むわ。」
ノゾムのおかげでなんとか刑務所行きは免れた、
(ありがとうノゾム。)
また1つ、ノゾムに蹴りができてしまった。
いつかリボンでも添えてお返ししなくては。
その後、両チーム役割分担を終え、教員から試合開始の合図が出された。
プレイボール
(さぁ、やるか!)
〜8回の表〜
試合も終盤を迎え、タイミングの悪いことに俺の打席が回ってきてしまった。
試合は9回裏、0ー0の同点で、2アウト満塁。
こんなアニメみたいな展開になるとは俺でも想像していなかった。
(流石にこの状況で見送り三振ほありえないよなぁ…)
俺がどうするか悩んでいると、1球目のボールが飛んできた。
ストライク!
(マジでどうする。最悪打たなくても同点だしな…)
ストライク!
考えをまとめているうちに気づけばツーアウトになってしまっていた。
「シュウヤ、頼む!」
「打ってくれ!」
「ボールを、よく見て。」
チームメイトの連中が声援を浴びせてくる。
こいつらの期待を裏切るのは心許ないな。
運命の3球目、敵チームのピッチャーがボールを投げた。
(はぁ…こうすればいいんだろ!)
俺はボールのど真ん中を思いっきりスイングした。
(いい音だ。)
俺の打球はガイアの遥か上空を飛んでいった。
ウォーー!!!
言わゆる場外ホームランというモノに、チームメイト一同は大いに盛り上がった。
「はぁ…結局こうなるのね…」
俺はホームを踏み、仲間達とハイタッチを交わした。
〜体育館入り口付近 〜
「すてき…」
フユミは体育館のドアに身を隠し、シュウヤの姿を眺めていた。
体育を終えた俺達は教室に戻り、制服に着替え直していた。
「はぁ…」
俺はため息をつきながら制服の袖に腕を通す。
「どうしたよ、クラスのスター。」
それを目にしたノゾムが話しかけてきた。
「お前みたいに言われるのが疲れたんだよ。」
体育が終わってから俺はクラスメイトにスターやらホームランキングという渾名を付けられた。
目立ちたくないというにこの仕打ち、はやり体育は俺の天敵だな。
「お前だけはいつも通りに接してきてくれ…」
「ごめんごめん。俺もノリで言ってみただけだよ。」
まぁ、クラスの連中もすぐに飽きて元に戻るとは思うが…これからはより一層注意しよう。
そうして俺達は6限の授業も終え、帰りのホームルームの時間がやってきた。
担任の長ったらしい話を聞き流しながら、俺は今日起こった出来事を振り返える。
今日は朝から色々なことがあって非常に重量のある1日だった。
(ほんと、昼間くらいは平凡に生活させてくれよ。)
そう、本当に忙しくなるのは夜になってからだ。
「では、これでホームルームを終了します。皆さん気をつけて下校してくださいね。」
担任の話も終わり、掃除・下校の時間となった。
俺は今週、掃除当番では無いので帰宅の準備を整える。
「じゃあな!今日も仕事頑張れよ!」
俺がバッグを持って教室の出口に向かうと、教室の床を履いていたノゾムが別れの挨拶をくれた。
「おう。頑張らなくて済むのが1番なんだけどな。」
ノゾムは「それはそうだ。」と言って笑っていた。
(明るい奴だな…)
ノゾムはあの時のことをまだ覚えているだろうに…
「ありがとな。」
俺は超小さな声で礼を言った。
「ん?なんか言った?」
「いやなんでもない。お前も部活頑張れよ 。」
俺はそう言い残して教室を出た。
俺は下駄箱までやってきて、靴を履き替えるために扉を開いた。
「はぁ…帰って仮眠でも、ん?」
靴を取り出そうとした時、紙のようなものに手が触れた。
俺はそれを取り出してみると、一通の手紙が入っていた。
「これは…」
俺はその手紙を見て昼ノゾムに届いた物を思い出し、嫌な予感しかしなかった。
「う〜…」
俺はこれ以上面倒ごとに巻き込まれるのは嫌なのでその手紙は見て見ぬ振りをすることにした。
〜屋上〜
私は今朝のお礼をしようと手紙を出してシュウヤ君を屋上に呼び出した。
私は彼を待っている間、(ついでに少しでもお近づきになれればいいな。)などと期待を膨らませていました。
1秒経つ毎に緊張感が増大していきます。
「早くこないかな。」
まぁ心配せずとも、彼が教室を出たタイミングで私も屋上に来たのであまり待つことはないでしょう。
そう鷹を括っていたのですが…
〜数十分後〜
「遅い…かれこれ30分くらい待ってるのに。」
彼は未だに来てくれません。
ひょっとして見て見ぬふりをされたのでしょうか。
ちゃんと手紙は彼の下駄箱の中に入れたので、気がつかないはずはないのですが。
淡々と空の色も暗くなっていきます。
(もう少し、もう少しだけ待とう。)
私はその場でシュウヤ君を待ち続けました。
しかしその日、いつまで経っても彼は姿を現してくれませんでした。
〜シュウヤ視点 帰宅途中〜
俺は学校を出て、夕食の材料を買うために家の近くにあるスーパーへと向かっていた。
「今日は鍋にでもするかな。」
今日は朝からハードコースだったので正直夕食を作るのにやる気は出ない。
それで、夕食は簡単に作れて美味しいモノにしようと思ったわけだ。
俺はスーパーに到着し、野菜コーナーへと向かった。
「さて、材料は〜」
「あっ!」
俺が野菜コーナーを見て回っていると、何者かに声をかけられた。
「先輩?シュウヤ先輩ですよね?」
「ん?あぁユミか。」
その声の持ち主は高校の後輩であるユミだった。
こいつは幼女のような見た目で、ザ・乙女な性格。
高校でも数人の男子達から告白されたらしい。
頭脳面では殆どの科目は成績が優秀なのだが、数学たけはどうも苦手らしい。
以前テストで赤点をとった時、泣いて勉強を教えてくれと頼縋り付いてきたことをはっきりと覚えている。
「お久しぶりです。」
「おう、久しぶり。お前も買いもんか?」
俺の質問にユミはYESと答えた。
俺は女の子が普段何を作るのか気になっていたので、今晩のメニューを聞いてみることにした。
「今日何作んの?」
「バイン・セオでも作ってみようと思います。あっ、あくまで風ですよ?」
聞いたことのない名前の料理だった。
風を付け加えたということは外国の料理であろうか?
「へぇ、俺その料理要らないなぁ。」
「え?先輩食べたことないんですか?…じゃあ、今日うちに食べにきませんか?」
予想外なことに夕食を食べにこないかとユミの家に招待された。
「んー。」
(行きたいのは山々なんだけどなぉ。)
ユミの気持ちはありがたいが、もし時間を忘れて夜の仕事に遅れたりしたら一大事だ。
やはりここは丁重にお断りさせていただこう。
「悪い、夜はダメなんだ。また今度別の機会に誘ってくれ。」
俺が誘いを断るとユミは少し残念そうな顔をする。
「そうですか…では明日、お弁当を作らせてください。」
「マジ?それは助かるなぁ。」
いつも昼食は簡単に済ませてしまうので、ユミの提案は正直めっちゃありがたい。
「では先輩の好きなおかずを教えたください。」
俺はとりあえず、片揚げ豆腐と野菜炒めと答えた。
「あっそれと、もし良ければそのバイン・セオっていうのも食べてみたいな。」
「分かりました。明日楽しみにしていてくださいね!」
そういて俺達は互いに必要な食材を購入して、コンビニを後にした。
「じゃっ、気を付けて帰れよ。」
「はい。ではまだ明日。」
俺はユミと別れ、実家へと向かう。
〜誰もいない夜道〜
コンビニからの帰宅途中、普段沈黙を貫き通している俺の携帯が騒ぎ始める。
「はい。」
「私だ……」
「分かりました。今夜そちらに伺います。」
俺は通話を終えると携帯をポケットにしまい、再び歩みを進める。
家に到着し、いち早く夕食の準備を済ませる。
調理に時間はあまりかからず、夕食を食べ終えた時にはまだ、時計の長針は7を指していた。
仕事まではまだ、少し時間がある。
俺は今日、いつもより疲れたので夜の仕事に備えて仮眠をとることにした。
「1時間程寝れるな。」
俺は目覚ましを8時半にセットし、眠りにつく。




