人助け
朝の6時、目覚まし時計の発する喧しい音が
部屋中に鳴り響く。
「ん…もう朝かぁ。」
もう少し眠っていたいと思ったが、その欲求をなんとか抑えてベッドから起き上がる。
「ふぁ〜あ、って痛っ!」
俺が大きくあくびをかいたところ、逆ハの字に伸ばした腕の上腕三頭筋に激しい痛みが生じた。
「さすがに疲れが溜まってきたみたいだな。」
俺はある事情により、夜中は毎日家を開けて、野外で仕事をしているのだ。
9時から3時頃まで活動する、いわゆる夜のお仕事というやつだ。
おっと、別にヤバイ仕事をしているわけではないぞ?…いやヤバイ仕事には変わりないか。
「さーて飯でも食うか。」
俺は自室を後にしてリビングへと向かう。
しかし俺がやってきた
時には既に両親の姿は無かった。
「相変わらず早いなぁ。」
俺の両親は共働きで、同じ職場で働いている。
なお、仕事場は家から100kmほど離れた位置にあるため、朝5時には2人とも家を空けてしまうのだ。
その一方で、帰ってくる時間はとても遅く、日付が変わってから家に到着することも多い。
したかって、平日はほぼ一人暮らしをしていると言って良い。
というわけで今日も朝食を自炊するわけだが、学校があるので朝食は簡単に済ませることにする。
数分後、なんとも豪華な料理が出来上がった。
「完成、これぞ朝食の定番だぜ。」
この日の朝食メニューはベーコンと目玉焼きとトーストだ。
やはりどれだけなえていても1日3食はきっちり食べないとな。
料理を作り終えてた俺はお皿を持ってテーブルへと向かう。
するとテーブルの上に1通の手紙が置いてあることに気づいた。
汚してしまうといけないので、俺は朝食を食べ始める前にそれを手に取り、内容を確認した。
「えーと、なになに、シュウヤへ 。私とお父さんは仕事の都合により、1年間家を空けます。」
差出人は母さんだった。
その手紙によると生活費は棚の2段目の左から3番目の引き出しに通帳が入っているらしい。
他にも親の知り合いがやってきた時にして欲しいことや仕事の空いてる時間帯などが明記されていた。
「1年か…少し長いなぁ。」
うちの家庭では仕事の都合で両親が家を空けるというのはよくあることだ。
しかし1年というのは異例的に長い。
普段はあって1週間程度なんだが…海外にでも派遣されたのであろうか。
「まっ、何かあれば電話すればいいだろう。とりあえず飯食って学校行こ。」
そうして俺は朝食を食べ終え、身支度を整えてから家を出た。
「まだ7時10分か…」
思いの外家を出たのが早かったので、ホームルーム開始の時間まではまだ余裕がある。
「たまには早めに家を出て、こうしてゆったりと登校するのもアリだな。」
朝早い時間帯だけあっていつもは人通りの多い道も今は誰もいない。
普段通っている道とは違う、静かで穏やかな空間。
「何だかいい気分だ。」
しかし俺が家を出てから少しして、気持ちの良い朝をぶち壊す事件が起きた。
「泥棒!」
誰もいない住宅街を歩いていると、俺の背後から女性の叫び声が聞こえてきた。
「なんじゃ?」
何かと思い、後ろを振り返ってみると俺の後方50mほどのところで1人の若い女性が倒れていた。
そしてその前方からは女性が持っていたであろう大きめのバッグを抱えて男がこちらに走ってきていた。
「ひったくりか。」
全く、良い気分で登校していたというのにどうしてくれるんだ、全く。
俺の気分を害したひったくりの男には天罰を与えることにしよう。
俺はその場でUターンして男の元にダッシュする。
「どけこのガキ!」
そう言って男は俺に殴りかかってきた。
(こんな朝っぱらから…)
俺は男のパンチを交わし、腕を掴んで勢いよく背負いあげる。
「なめたマネしてんじゃねーよ!」
そのまま男をコンクリの地面に背中から叩きつけてやった。
「グヘッ。」
その衝撃で男は意識を失った。
「ったく、こんなことならもう少し家でゆっくりすりゃあよかったぜ。」
(いや、女性のことを考えれば、これでよかったのかな。)
俺は地面に転がったバッグを手に取り、砂埃を払う。
するとそこへ押し倒された女性がやってきた。
「まぁ!取り返してくださったんですね。本当にありがとうございます!」
「いえいえ、最近何かと物騒ですからね。お気をつけください。」
そう言って俺はバッグを女性に手渡す。
すると女性は財布を取り出して、お礼にとお金を渡そうとしてきた。
「そんな、良いですよ。大したことじゃありませんし。…その代わりと言ってはなんですが…」
俺はその女性の前である番号に電話をかけた。
「……というわけで、誰かを遣してもらえますか?」
「分かった。手の空いてる者に頼んでおこう。」
用件が済み、俺は電話を切る。
「あのー、どういうことですか?」
「今から俺の知り合いの人がここに来ます。警察に事情を説明する際、ひったくりはその人が倒したということにしてください。」
俺はあまり目立つことなく、平和に生きていきたいのでな。
警察に質問責めされて学校を休みざるを得なくなるのも嫌だし。
「分かりました。」
女性は快く俺の提案に乗ってくれた。
〜数分後〜
連絡した通り、1人の男性が現場にやってきてくれた。
「シュウヤ君、お手柄だな。」
「どうもです。では後は宜しくお願いします。」
そう言って男性に頭を下げる。
すると、横で見ていた女性は俺に対して頭を下げてきた。
「本当に、本当にありがとうございました。」
俺は女性にも軽く挨拶してその場を後にした。
「朝からハードだな。ほっとしたらお腹すいてきたぜ。」
朝食を軽めに済ませたことが仇となってしまった。
そして
(あっ、そう言えば弁当作ってくるの忘れた。)
やけに家を出たのが早いと思ったら、昼飯を作り忘れていたせいか。
まぁ奇跡的に今日は財布を持ってきているので、通学路の途中にあるコンビニに足を運ぶことにしよう。
〜コンビニにて〜
「…」
(マジかよ…)
5分程でコンビニには着いたのだが、建物の影になっている所で1人の女の子が三人の男に絡まれていた。
(全く、なんなんだよ、今日は。)
まだ家を出てから30分も経っていないというのに、2つの事件現場に遭遇してしまった。
「ん?あれは…」
よく見てみると男達に絡まれているのは俺と同じクラスの女子校生のフユミだった。
(あいつ、野郎どもの喧嘩うっちまったのか?)
フユミの人間像を説明すると、美人(と言われている。)で、運動神経も良く、成績優秀(おそらく学年1位。)という感じになる。
しかし、性格は悪く、態度もでかい上に他の生徒の授業態度やら何やらについて口うるさく指摘してくるのだ。
そのせいか彼女は他の生徒から嫌われており、クラスでも孤立している。
そのようなフユミの高飛車な態度が勘に触ったのだろう。
俺もできれば関わりたくはなかったが、見て見ぬ振りをするのも後味が悪いので、助けてやることにした。
「はぁ〜やれやれ…」
俺はため息をつき、その男たちの元へと向かう。
「お前ら、俺の連れに何手出してんだよ。」
フユミを後ろに隠すように男たちから遠ざける。
「…ちっ。」
男達は鋭い目つきで睨みつけてきたので、俺も睨み返す。
奴らはマジモンの不良っぽい見た目だったので乱闘すら覚悟したが、予想外にあっさり手を引いてくれた。
あまりにもあっけない幕切れに拍子抜けしてしまう。
(ふぅ。殴り合いにはならずに済んだか…)
俺は何も起こらないで良かったとホッとし、コンビニの中に入る。
フユミのことは完全に忘れてな。
(んー、迷いますね)
俺はサンドイッチとおいなりさんのどちらにするか迷っていた。
(よし、これだな。)
10分間悩みに悩んだ結果おにぎりを2つ購入した。
会計を済ませた俺はその場を後にしょうと出口に向かう。
「…」
俺がコンビニから出ると外でフユミが待っていた。
怖い顔で俺を見つめながら仁王立ちしている。
(やべー…こいつの存在すっかり忘れてた。)
俺はかたずをのんで、何食わぬ顔で横を素通りしようとする。
「ねぇ。」
案の定呼び止められてしまった。
ワンチャン行けると思ったんだですけどね。
「なんでしょう。」
「あ、あなたに助けられなくたって、あんな人たち私1人でズタズタにできたんだから。恩を売った気にならないでよね!」
「う、うん。」
(いやー、ズタズタにしちゃマズイでしょ。)
しかしまぁ俺は余計なことをしてしまったみたいだな。
たしかに3人の男に絡まれていた時も平然としてたし、ほっといても平気だったかも知れない。
(いや待てよ。もしかしたら極度のドMで、虐められることを望んでいたと言う可能性も…)
…無い無い。
クラスメイトにこんなイメージを持つなんて最低だな、俺も。
「…ぇ、ちょっと、聞いているの?」
「聞いてまーす。」
(聞いてませーん。)
「…」
俺の対応がマズかったのか、フユミの機嫌がさらに悪くなったような気がする。
(やっぱり、女の子って男には無い怖さを持ってるよな。)
俺は早くその場から避難したくなり、フユミに 「別に音を売ったつもりは無いよ。」とだけ伝えた。
「でも…その…」
俺が立ち去ろうとすると、フユミは急にモジモジしだして何やら呟き始めた。
えぇいこうなったら必殺の呪文を使おう。
「あれー、もうこんな時間。今日学校に用があるから、じゃあな!」
俺はフユミに手を振って彼女から逃げるように走り出した。
俺の突然の猛ダッシュにフユミも驚いたようで追いかけてくることは無かった。
(脱出成功!)片手でガッツポーズ
〜フユミ視点〜
「あっ…」
彼は私にお礼の1つも言わさずに立ち去ってしまいました。
せっかくの機会だったので少しでも彼とお話したかったのですが。
こんなことになるくらいならそっそとお礼を言っておけばよかったです。
そうすれば他にも色々とお話しすることができたかも知れないというのに。
チカラズクデツレモドシテミテハ?
(する訳ないでしょ。)
まぁ同じクラスですし、チャンスはいくらでもあるでしょう。
〜学校にて〜
コンビニでもなんだかんだで時間を使ってしまい、学校に着いた頃には8時を回っていた。
(結局いつもとあまり変わらないな。)
そうしてクラスに入ると、友人が挨拶をしに俺の机の前までやって来た。
「ようシュウヤ。今日は珍しく早めの登校だな。」
「よーっす。いつもこんくらいだわろ?」
こいつはノゾム。中学1年で知り合い、1度もクラスが別れたことがない。
俺が闇に飲まれた後も友人を続けてくれている、いい奴だ。
「お前昨日も仕事だったんだろ?お疲れ様だぜ。」
「ありがとな。」
ノゾムは俺の夜の仕事を知っている唯一の一般人だ。
上にバレたらヤバイことになるんだけどな。
「そういえば今朝さぁ〜」
「おぉ、それはすごいな。」
俺はノゾムに今朝あったことを全て話した。
ノゾムは何1つ疑ったり、バカにしてくることなく、俺の話を消えさいてくれた。
(やっぱりノゾムはいい奴だな。)
その後10分程してホームルーム開始のチャイムが鳴り、担任が教室に入ってきたので、俺達は互いに挨拶を交わして席に着く。
「おはよう、皆さん。」
クラスみんなで「おはようございます。」
朝の挨拶を終えると担任から今日の授業に関する連絡や注意点などが話される。
そして…
「実は私昨日ですね…」
(あぁ今日も来てしまったか、この時間が。)
俺たちのクラス担任は毎日毎日飽きもせずに長話を30分近く聞かせてくる。
流石に1限の授業が彼女の受け持つ教科でない時は授業開始の5分前には解放されるのだが、今日は数学なのでそうもいかない。
きっと長話を聞かせた後、そのまま授業始めるぞ、この人。
俺は彼女の長話を聞き流しながら替え歌でも作って遊んでいた。
(毎日毎日僕らは先生に長話されて嫌になっちゃうよ。)
先生の話はなんともつまらない内容でお話中に居眠りをする者は後を絶たない。
(この長話さえなければ良い先生なんだけどな〜普通に美人だし。)
〜30分後〜
担任の話は1限開始のチャイムの音にかき消さらた。
「あら、もうこんな時間、続きは明日にしましょう。では数学をを始めます。」
(マジで30分喋りやがった…トイレとか行きたくなる生徒はいないのか?)
しかしこれでやっと1限の数学が始められるというわけだ。
数学は得意教科なので、集中して頑張ろう、と思っていたのだが…
「…」
(なんだろな。誰かの視線を感じる。)
授業中に何者かの視線を感じ、それが気になって授業に集中できない。
俺はこっそりと視線のする方角に目をやった。
すると、1つ前で1番窓側の席に座っているフユミがこちらを見つめていた。
俺(めっちゃ見てるやん。)
フユミ(いつ話しかけに行こうかな。2限始まる前の休み時間とか?)
俺(ちょっと怖いよぉ〜)
そうして時は流れた…
「んじゃ今日の授業はこれで終わりだ。お疲れさん。」
数学の授業が終了した時、俺は机の上に沈んでいた。
(結局、絶えず見られ続けてたし…せっかくの数学が〜)
結局、視線が気になって今日やった授業内容が何1つ頭に入ってこなかった。
俺が気にしすぎなのか?
俺(休み時間に入ってもまだ見られてるし。)
フユミ(なんか今行くのはなぁ。緊張してきた。)
ここまで長時間睨みつけられいる(俺の勘違い)と気が滅入ってしまう。
俺はまたしても彼女から逃げるように教室の出口へと向かった。
(このままトイレにでも行くか。)
フユミ(もう!今立ち上がろうとしてたのに!…2限目からは授業に集中しよ。)
俺(これから先ずっとこんな感じなのか?勘弁してくれ。)
俺は休み時間ずっとトイレの個室で頭を抱えていた。
こんな変なタイミングで編集を入れてしまい、申し訳ありません。
文字数が増加したり、新話を加えることはありますが、話の展開が激変するようなことはありません。
編集後の2話は後日、割り込み登校しますので、興味がある方はそちらもお読みになっていただけると幸いです。
ではこの辺りで失礼します。ありがとうございました。