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第十四話 蘇生魔法

 


「そこに寝かせろ!!!!」


 ショウが怖い顔で私に命令する。


 地面に寝かしたアキの体の上に、アンリがすぐさま毛布を掛けた。皆で必死にアキの体を擦る。少しでも体温が戻るように。


「な…に……何が起きたの……?」


 呆然と座り込んでいる私にショウが怒鳴った。


「ムツキ!!」


 間近で聞く男の人の怒声に、私は体をビクッとすくませる。呆然としていた私は、ショウの怒声で我に返った。慌てて、アキの氷のように冷たい手を強く握り締めた。


【ヒール!!】


 アキが横たわる地面に橙色の魔方陣が現れる。魔方陣から溢れる橙色の光りは、アキの全身を包み込んだ。間違いなく。


 しかし、アキは目を覚まさない。ピクリともしない。


【ヒール!! ヒール!! ヒール!!】


 何度も、何度も、私は繰り返し回復魔法を掛け続けた。その度に、橙色の光りはアキの全身を包み込む。


 先日、ドーンの森で出会ったパーティーの人には確かに効いたのに、アキには全く効かない。


(何で……?)


 でもよく見ると、動かないが、僅かに体温が戻ってきた気がする。だか、それでも……まだまだ、その体は冷たいままだった。


(お願い!! 目を覚まして!! お願いだから……)


 アキの手を強く握り締めながら、心の中で必死に呼び掛ける。


 仲間を失い掛けたのは、これで二度目だった。二度とも、私を庇ったせいだ。何度、同じことを繰り返すの!!


「アキ!! お願いだから戻って来て!!!!」


 心の叫びが口から溢れ出す。


「蘇生魔法を使ってみたら」


 祈る私に、ココがそう提案してきた。


 ーー蘇生魔法。


 私の固定スキルの一つ。


 死者を蘇らせることが出来る究極魔法。


 死に掛けている人にも有効かもしれない。少なくとも、回復魔法よりは効くかもしれない。


「「「「蘇生魔法!!!!」」」」


 ショウたちは驚愕の声を上げる。


 それもそうだろう。魔法としては存在するが、使う者が存在しない魔法として認識されてるんだから。


【固定スキル】を調べた時に知ったんだけどね。伝説の魔法として記されているのを。


 皆が私の顔を凝視している。


「出来るのか?」


 半信半疑だと思う。けれどショウは、僅かな可能性に掛ける事にした。一旦アキを見下ろしてから、静かな声で私に尋ねる。


 皆の目が、僅かな疑心と期待に満ちた目に変わっていた。


「……使ったことないから」


 使えないかもしれない。敢えて最後の台詞は口にしなかった。


 嘘は言っていない。


 この世界において、私は一度も蘇生魔法を使ったことがないから。だから、絶対に出来るという自信はない。使ったことがないという言葉の裏には、そんな私の自信のなさが垣間見えた筈だ。


「頼む!! アキを助けてくれ!!」


 それでも必死な形相で、ショウは私に頭を下げ頼んだ。原因は私なのに。


「お願い!! ムツキちゃん! アキを助けて!!」


「…………」


 アンリも頭を下げ頼む。


 ただフェイは、無言のまま私を鋭い目で睨み付けていた。お前のせいでこうなってるんだぞ!! フェイの目は、明らかに私を責めていた。


 私はフェイの視線に耐えきれず、目をらし、横たわるアキの顔を見詰める。フェイはそんな私を苦々しい顔で睨み付けていた。視線を逸らせていたが、突き刺さる視線は確実に私の心を突き刺していた。


 躊躇ちゅうちょしている間にも、アキの命の灯は消えようとしている……。


「考えている暇はありませんよ」


 私の後ろから、サス君が厳しい声で告げる。


 時間がない。そうだね。考えている時間なんてどこにもないね。


「……分かった。やってみる」


 意を決して、私はアキの手を放し、アキの胸の上に両手をかざした。


(何を躊躇ためらってるの!! 出来るか、出来ないか。今は、そんなことを気にしている時じゃないでしょ!)


 絶対に成功させなければならない。アキの還りを待っている人たちのためにもーー絶対に。


 私がこの世界を好きになった切っ掛けは、一番最初に彼らに出会ったからだ。


(自分のせいで、彼らをこれ以上悲しませたくない!! 辛い顔をさせたくない!!)


 両手を翳し、私は大きく息を吸い吐き出す。


【レーベル!!】


 頭の中で浮かぶ単語。それが、蘇生魔法の呪文。私は心の中で強く願い唱えた。


 まばゆい乳白色の光の魔方陣が、地面に浮かび、光の粒がアキの全身に降り注ぐ。雪が体に触れ、体温で解けて染み込むように、光の粒はアキの体に触れ、染み込んでいった……


 光の粒が染み込む度に、徐々にアキの体温が戻っていく。


 最後の一粒の光が、アキの体に染み込まれる。乳白色の魔方陣は静かに消えた。


 静寂が訪れる。


 皆、息を飲み、アキを見詰めた。 


 束の間の沈黙の後、皆が見詰める中、アキの指先がピクッと動いた。微かだが動いた。


「「「「アキ!!!!」」」」


 動いた指先を見て、私以外の皆がアキの名前を叫んだ。


 その声に答えるように、アキはゆっくりと目を覚ました。






 お待たせしました。

 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m


 それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪

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