第十五話 絶対に泣かない
私たちは遺跡の脇にあるセーブポイントで一夜を明かすことにした。
蘇生魔法で目を覚ましたとはいえ、さっきまで死に掛けていたアキを連れて森の中を数時間も歩くことは、さすがに危険だったし、無謀だと思えた。
それにアキは、ショウたちのパーティーの中で前衛を担っている。攻撃の要の一角だ。シルバーの私がいるとはいえ、彼が抜けた穴は大きい。
行きのように魔物に襲われなかったからといって、帰りが絶対に襲われないと断言出来ない以上、ショウがそう判断したのも納得出来る。この決断に異を唱える者は、アキを除いていなかった。
魔物を寄りつかないセーブポイントだからといって、夜を明かすとなると話は別である。
昼間とは違い、危険ではないと決して言えないからだ。
何故なら、闇が支配する夜は、多くの魔物にとって力を増す時間帯だけでなく、活動時間でもあったからだ。
(私のせいだ……)
遺跡から聞こえてくる声に気をとられて、あの時、立ち止まってしまった。
ーー結果。
アキを死の淵にまで追いやり、ショウたちやゼロを危険に晒している。
知らなかったではすまない。
経験がないから、まだなって間もないからで許される範囲は有に越えている。
遺跡から吹きだした風は、【魔波】と呼ばれる、高位に属する魔物が発する波動だった。
ハンターカードの機能の一つに辞書がある。
魔物の討伐リスト。討伐履歴などの他に、ハンターの仕事で必要最低限な知識が収められている。私は辞書の項目をタップし調べた。そこにはこう書いてあった。
【魔波】
S級ランク以上の高位に属する魔物が興奮した時に、発せられることが多い。魔物が有するスキルの一つといっても過言ではないだろう。
魔波が発せられる前に、獣の声がするといわれている。
魔波の正体は、魔物自身が身に纏っている、〈気〉であると考えられているが、定かではない。
只いえるのは、力なきものがその波動に晒されると、瞬時に、生命エネルギーを奪われ死に至る。但し、魔物よりレベルが高く、高位であるならば命を失うことはない。
あの時……私が感じた風は、S級ランクの魔物が発する波動だった。
実際には、風など一切吹いていなかったのだ。
吹きだしてくる波動が凄まじくて、私は無意識に認識しやすいものに脳内で変換したらしい。それが風だった。
ーー力なきものがその波動に晒されると、死に至る。
【魔波】が何故、生命エネルギーを奪うのかは分からない。解明もされていない。
ただ……アキのように体温が急激に下がり、死に至る。
その【魔波】を数回も浴び、体のどこにも異常が出ていない私を、ショウたちは距離をとり遠巻きに見ている。ましてや、【蘇生魔法】を完全に習得していたことも、彼らが私との距離をとる要因だった。
皆から少し離れた場所に腰を下ろした私は、師匠から貰った旅の手引き書で調べてみた。
ハンターカードの機能を使うには、ステータス画面をタップする必要がある。固定スキルはハンターカードには記載されないからだ。ショウたちにステータスを見られる危険性があったので、今回は止めた。
【蘇生魔法についてですね?】
ーーそう。教えてくれる。
【畏まりました。それでは、蘇生魔法について解説させて頂きます。まず、蘇生魔法は究極魔法の一つです】
ーーそれは知ってる。
【では次に、蘇生魔法はその文字通り、死者を生き返らせることが出来る魔法です。ただ、戻るべき肉体が腐敗し掛けていたり、体の大部分が破壊した者に関しては、蘇生魔法は効きません。呪いで死に掛けた者、又は死んだ者に関しては、有効だと考えられています】
ーーアキの場合は、一種の呪いだったんだね。
【はい。魔波に関しては呪いに分類されます。何故呪い対し、この魔法が有効なのか、それは、この魔法が聖魔法に属しているからです。呪いは闇魔法であり、闇魔法を打ち消すことが出来るのが、聖魔法なのです。因みに、回復魔法も聖魔法に属しています】
ーーなるほど。
【故に、一般の者がこの魔法を習得することは不可能です。そもそも、聖魔法は特定の者にしか得る事が叶いません。大賢者でさえ難しいとされています】
ーー大賢者でも無理なんだ……?
【はい、無理です。他に質問はありませんか?】
ーー大丈夫。ありがとう。
【では、これで終了とさせて戴きます】
プツリと切れた。手引き書なのに、やけに受け答えが人間らしくなってきたなと思う。それは取り合えず横に置いといて、大賢者か……。
確か、大賢者はS級ランクの職業だ。
つまり、ゴールドカードを持つハンターだって事。そもそも、1000人以上はいるハンターの中で、20人もいるかいないかの実力者。
それほど鍛えた者でさえ、習得は難しいといわれている【蘇生魔法】を、レベル17である私が習得しているのだ。習得するだけでなく使用した。
そして、アキを生き返らせた。
皆が私から距離をとりたくなる気持ちは、十分理解出来る。
(寂しいけどね……)
仕方ない事だ。どこか、諦めの気持ちがあった。
どの世界でも、人という生き物は、自分の許容範囲を越えたものを怖がる習性がある。
当然だよね。怖がることは、生存本能そのものに繋がってると思うから。だから、皆の反応はおかしくない。寧ろ、正常だと思ってる。内心すごく、辛いけどね……。
距離をおく皆をチラリと見て、ふと……私は昔を思い出していた。
まだ私が常世に来る前、神隠しから戻って間もない頃の両親も、こんな感じだった。幼かったから、はっきりと覚えていないけど……。思わず、自嘲気味な笑みが浮かぶ。
サス君とココが、そんな笑みを浮かべる私を心配そうに見詰めている。
私はサス君とココの視線に気付くと、微笑んだ。サス君は喋れるのに「クゥ~ン」と悲しげに鳴き、ココは私の足に体を擦り付ける。私はココを抱き上げ、サス君の首に抱き付いた。ココは苦しかったかもしれないが、ジッとしたまま耐えている。
私はこの温かみに、何度救われただろう。慰められただろう。私にとって、失うことが出来ないかけがえのないものーー。
それは、サス君とココだ。
サス君とココを抱き締めながら、泣きそうになる自分を必死で我慢した。
(泣いちゃいけない。絶対に……)
泣いてるのを見られたら、優しいゼロとショウたちのことだ。絶対に自分たちを責めるに違いない。サス君もココも心配する。
大丈夫。私は絶対に泣かない。
ドーンの森【朱の大陸編】完結
お待たせしました。
一時間ほど、遅くなりました。すみませんでしたm(__)m
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪




