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第八話 白い花

 


 昨日、偶然見付けたヒール草の群生地を起点に、ゼロは遺跡の方向へと探索範囲を伸ばすことにした。


「ムツキちゃんのおかげで、ヒール草は初日で予定量を採集することが出来たよ」


「これ以上は、採集しないんですか?」


 ゼロが採集したのは竹かご2かご分。まだまだ群生地にはヒール草が残っていた。


「必要な分だけでいいんだよ。それ以上は森に残す。それが、森から恵みをもらっている者の約束事だからね」


 よくそんな事を言う人はいたけど、実践している人を間近で見たのは初めてだった。ほんと、凄い人だと心から思う。尊敬出来る人に出会えた私は幸運だね。


 この世界には魔物が存在して、常に命の危険に晒されている。それが現実。今私たちがいるこの森にも魔物が潜んでいるし。命を奪うのも森の中なら、命を助ける薬草が生えてるのも森の中。


 搾取と恩恵が同じ場所に存在する。


 常世に渡る前、私が生まれ育った地球は、命の重みが稀薄で曖昧な世界だった。生と死の境界線も、はっきりしていなかったと思う。


 だからかな、常世もこの世界も、生と死が隣り合わせだと改めて再認識させられる。死が色濃いから生も色濃くなる。逆も言えた。


 だからこそ、何気ないゼロの言葉は心に深く残った。





 それから一日かけて、徐々に探索範囲を伸ばしながら、毒消し草や苔などを採集した。


 二日目は、思い切って、遺跡にまで足を伸ばしてみることにした。


 ゼロがハンターを雇い、危険を冒してまでこの森で探していた薬草は、蘇生草そせいそうだ。


 ーー蘇生草。


 その名の通り、瀕死な者の傷を瞬時に治し生き返らせると言われている、超、超、超レアな薬草だ。


 その薬草は、人の手で栽培することはほぼ不可能に近く、自生している場所も期間も限られているらしい。


 自生している場所は、遺跡の周囲だけ。期間も、春の終わりから初夏に掛けての今だけ。それも、数年前に一度、自生が確認されてから以後は発見されていない。


 薬屋を営むゼロにとって、一度は手にとってみたい、夢の薬草だった。


 そしてこの手で、超レアな薬品エレクサーの生成をしてみたい。それが、ゼロの夢でもあった。


 しかしそれは、常に危険と背中合わせ。


 何故なら、遺跡に近付くにつれ、魔物の数もランクも上がっていくからだ。その理由は分かっていない。


 ただ分かっているのは、この時期に蘇生草は白い花を咲かすって事だけ。


 数年前、確認された白い花を求めて、ハンターたちはドーンの森に入る。


 運良く発見出来たら、蘇生草は一株、白金貨十枚の高値がつくからだ。宝くじの一等を当てる確率とどちらが高いのかな。でもそれだけのお金があれば、一生仕事をせずに食べていける。


 白い花は夢の結晶であり、ハンターたちのロマンでもあった。






「……ここまで来ると、さすがにきつくなってくるな」


 最後の一頭を倒すと、ショウは一息ついてから呟く。


 出会った時の印象から、どことなく残念なパーティーだと思っていたが、意外にも意外、結構強いパーティーだった。マドガ村のクエストにも参加してたし、そこそこ強いパーティーだと思ってたけど、想像以上だった。残念と思ってごめんね。心の中で謝る。


 彼らがゼロに雇われてドーンの森に来たのも頷ける。


(私必要?)


 そう思ってしまうほど、彼らの動きは無駄がなく、隙もなかった。それはサス君も同じで、あんぐりと口を開けたまま、ショウたちの戦いぶりを見ていた。


 盗賊であるアキと戦士のショウが前衛を務め、狩人のフェイが後方から攻撃を加える。フェイが隙をつくり、前衛である二人がその隙をつく。怪我をしないように、後方から学者のアンリが回復などの支援魔法を唱えている。素人の目から見ても、全てに連携がとれ、流れる動きだった。


「ショウたちのパーティーは、若手のハンターの中でも実力的に三本の指にはいるよ。超方向音痴だけど」


 腕の中でココが教えてくれた。


「因みに、一番はムツキちゃんだからね」


 方向音痴は否定しないんだね、ゼロさん。にしても、私が一番か……乾いた笑みを浮かべるしかないよね。


「今のムツキが必要なのは経験だね。こればかりは、ショウたちには追いつけないけど」


 ココの言う通りだ。


「……うん。分かってる」


 私はショウたちの戦いぶりを見詰めながら答える。


「どうします? もう少し足を伸ばしますか?」


 ショウとアキが、魔物が落としたドロップアイテムを回収してから戻って来ると、ゼロに尋ねた。フェイもアンリも戻って来る。


「そうだね。まだ陽は高いし、もう少し足を伸ばそうか。ムツキちゃんもいることだしね」


 そう言いながら、私を見下ろすゼロ。自然と、ショウたちの目線も私に移る。


「ちょっ……ちょっと待って、買い被り過ぎだから!」


 思いっきり否定する。マドガ村の討伐クエストを完遂出来たからといって、「はい、任せて下さい」なんて、とてもじゃないが言えないよ。


「はぁ~~。だったら、お前は何のためにここにいるんだ?」


 フェイが顔をしかめ、呆れるように吐き捨てる。すぐにショウにたしなめられるが、フェイはそっぽを向いたままだ。


 私は何も言えなかった。口が悪いけど、フェイは間違っていない。私はハンターで、ゼロの依頼を受けて今この場にいる。ゼロの警護をしているが、実際戦っているのは彼らだ。現時点で、何もしていないって言われても仕方がない。


「警護も立派な仕事だ」


「そうだよ。ハンターになったばかりで、ここまでやってるのは偉いんだからね。自信を持って」


「ムツキはよくやってる」


 ショウたちは私を慰めてくれる。それがかえって、私を追い込む。


「……このまま進むにしても、一度、休憩を挟んだ方がいいな」


 ショウはそう言うと、私たちは休憩をとるために早々にその場から離れた。血の匂いにつられて、魔物が集まってくるのを警戒したからだ。


「確か、この先にセーブポイントがあったよね?」


 一度この近くまで来たことがあるアンリは、皆に尋ねる。


 セーブポイントには魔物がでない。そして、入って来れない。ドーンの森などのダンジョンには、こういう場所がいくつか存在していた。


 アンリは、コンパスの赤い矢印を示す方向を指さす。


 森の入口で渡されるコンパスの黒い矢印は、森からの脱出方向を示し、反対に赤い矢印は、セーブポイントを示している。


 つまりコンパスを壊されたら、生存確率が極端に低くなる。生命線って言ってもいい。因みに、コンパスはパーティーに一個支給される。だから、当然私もコンパスが支給されていた。


 コンパスが示す方向を歩くこと十分ぐらい。


 一際、陽の光りが照らし輝いている空間にでた。


 そうーーここが、セーブポイントだ。





 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 それでは、次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪

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