表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
200/316

〈第二十一話 魔物に支配された村(7)〉



 土色に変色した肌。

 ボロボロの血塗れの服。

 肉が剥げ落ち、頭蓋骨や手足の骨が見えている。

 中には、腐り、歩く度に体液をボトボトと溢す者もいた。



 そこにいるのは、嘗て、鬼人であった者たち。でも今は、魔物に成り果てた姿を晒している。



「ムツキ、大丈夫か?」



 隣に立つケイが声を掛けてきた。しかし、視線は目の前のゾンビに向けたままだ。



「…………大丈夫」



 何とか、声を出す。そう答えたものの、正直言えば、全然大丈夫じゃなかった。

 吐き気が込み上げてくる。慌てて口元に手を当てる。何とか、嘔吐は我慢出来た。戦闘中の緊迫感が歯止めになったからだ。代わりに、冷や汗がタラタラと頬を伝って落ちていく。



「ムツキ、やれるか?」

 ケイが訊いてきた。



「…………」



 声が出ない。サス君とココが心配そうに、私を見上げている。私はサス君やココの気持ちに答える余裕なんて、どこにもなかった。



 目の前では、シオンがゾンビの頭を的確に破壊している。動かなくなった死体は、青白い光を放ち消えていった。

 でもゾンビの中には、まだ魔物になって間もない者もいた。

 肌の色以外は、普通の鬼人と変わらない。シオンの大斧は躊躇ちゅうちょすることなく、振り下ろされる。本当に、躊躇なく。



「ムツキ。やれないのなら、目を逸らさずに最後まで見ていろ」



 ケイの厳しい声が私を貫く。その声は、とても冷たかった。今まで聞いたことがない程に。



 突き放された。ケイに。



 プロとして失格だ。恐怖で体が動かない。声さえ出ない。突き放されて当然だと思った。自分に対して腹がたって、悔しくて、私は唇を強く噛み締める。強く噛み過ぎて、血の味が口の中に広がった。



「ムツキさん……」

「ムツキ……」



 サス君とココが私の名を呼ぶ。



「…………情けないよ」

 漏れ出たのは、泣き言だった。その時、



「……キュ~」



 サス君ともココとも違う小さな声が、私の側で聞こえた。心配しているような、気遣うような優しい声。私は声がした方に顔を向ける。そこにいたのは、小さな白い塊。



「邪眼玉……?」

 仲間になるのを断った、あの邪眼玉だった。



「キュ! キュキュキューー!!」



 そう私に向かって鳴くと、ゾンビの方を向き、「キューーーーーー!!!!!!」と大きな声で鳴いた。



「「邪眼玉!?」」



 ゾンビと戦っていたシオンとケイは、その声に、一瞬私の方に意識を向ける。



 その鳴き声に答えるように、邪眼玉があちこちから姿を現す。何もない空間や土の中から。私が作った壁をすり抜けて。

 あっという間に、二時間程前に見た、目玉のすし詰め状態の出来上がり。



 シオンとケイはその光景に呆気に取られながらも、自分たちを攻撃しに来たものではないと、すぐに気付く。

 まさか!? と思ったシオンとケイは土壁を背に移動し、慌ててゾンビから離れた。



「キュ! キュ! キュ!」

 


 小さな邪眼玉が団体に呼び掛ける。それに答えるように、「キュ! キュ! キュ!」という大合唱が始まった。そのすぐ後だ。邪眼玉は白い壁を作った。よく見れば、邪眼玉同士僅かに隙間が開いている。



 なっ、何!?

 呆気に取られる私をよそに、邪眼玉はゾンビに一斉攻撃を始めた。



 圧巻だった。

 ビームを一回放っただけで、簡単に決着がついた。

 白い壁が崩れた時、ゾンビの姿は一体もなく、邪眼玉は私の目の前でポヨポヨと浮かんでいる。小さな邪眼玉は、サス君とココの側で浮かんでいた。私は膝を少し折り、邪眼玉を見詰める。邪眼玉は少し赤くなった。



「どうして、助けてくれたの?」

「キュキュキューー」

「助けてくれたから」(ココ通訳)

「ありがとう」

「キュ~~~~!!」

「訳す必要ないよね。これは」



 どうやら、嬉しくて歓喜の声を上げたようだ。



「シュリナ! ヒスイ!」

 私は上を向き、上空に逃げていた二頭の竜の名前を呼んだ。



「「仕方ない(な)」」

 降りて来たシュリナとヒスイは、溜め息混じりに渋々了承する。



「しょうがないよね」

「ここまでされたら、何も言えません」



 今度は視線をココとサス君に移すと、こっちも溜め息混じりに了承してくれた。

 そうだよね。いいよね。皆の了承もとれた事だし。



「これから宜しくね」

「キュ?」



 どういうこと? って、言ってるのかな? 疑問形のような気がするけど。



「一回断ったけど、私の仲間になってくれる?」

「キュ~~~~~~!!!!」



 邪眼玉はサス君の背中の上でジャンプする。

 仕草は可愛いよね。



「ムツキ、名前決めなきゃ」

 ココが教えてくれる。



 名前ね~~何にしようかな?

 邪眼玉はワクワクしながら、ジーと私の顔を見詰めている。やけに、キラキラ光ってるね。



「白いボールのようだから、シラタマ?」



 ハクとか良さそうなんだけど、何故か、その名前はつけたらいけないような気がした。



「シラタマ!? これを見て、団子を連想したんですか!?」



 サス君が心底、呆れた声を上げた。皆の冷たい視線が突き刺さる。



 やっぱり、駄目?

 だけど、邪眼玉はサス君の背中の上でピョンピョン飛び跳ねている。



 もしかして、気に入ってくれたの?



『うん。僕、すっごく、気に入ったよ!! 主様』

 聞き覚えのない元気な子供の声が頭に響く。



「……この声、もしかして?」

「名前をつけたことで、完全にムツキの従魔になったのだ。意志疎通が出来て当然だろう」



 シュリナが教えてくれた。

 あ~なるほど。



「……で、目の前にいるこれは何なのかな?」



 シラタマの呼び掛けに出て来てくれた邪眼玉は、消えることなく、私に熱い視線を送っている。



 な、何!? これ以上は絶対無理だからね!!



『主様、主様。僕にくれたアレを皆にもあげて』



 シラタマにあげたアレ? ポーションね。

 私はマジックバックから特上ポーション(一応、下)を二本取り出した。一本じゃ足りないよね。

 取り出した途端、テンションが異様に上がる邪眼玉たち。一斉に、彼らは「キューーーーーー!!!!」と雄叫びを上げたのだった。






 とりあえず、魔物に支配された村、攻略完了。

 新たに、〈邪眼玉の子供、シラタマ〉が仲間に加わりました。







 お待たせしましたm(__)m


 最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m


 今回で、魔物に支配された村編終了しました。


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ