〈第二十一話 魔物に支配された村(7)〉
土色に変色した肌。
ボロボロの血塗れの服。
肉が剥げ落ち、頭蓋骨や手足の骨が見えている。
中には、腐り、歩く度に体液をボトボトと溢す者もいた。
そこにいるのは、嘗て、鬼人であった者たち。でも今は、魔物に成り果てた姿を晒している。
「ムツキ、大丈夫か?」
隣に立つケイが声を掛けてきた。しかし、視線は目の前のゾンビに向けたままだ。
「…………大丈夫」
何とか、声を出す。そう答えたものの、正直言えば、全然大丈夫じゃなかった。
吐き気が込み上げてくる。慌てて口元に手を当てる。何とか、嘔吐は我慢出来た。戦闘中の緊迫感が歯止めになったからだ。代わりに、冷や汗がタラタラと頬を伝って落ちていく。
「ムツキ、やれるか?」
ケイが訊いてきた。
「…………」
声が出ない。サス君とココが心配そうに、私を見上げている。私はサス君やココの気持ちに答える余裕なんて、どこにもなかった。
目の前では、シオンがゾンビの頭を的確に破壊している。動かなくなった死体は、青白い光を放ち消えていった。
でもゾンビの中には、まだ魔物になって間もない者もいた。
肌の色以外は、普通の鬼人と変わらない。シオンの大斧は躊躇することなく、振り下ろされる。本当に、躊躇なく。
「ムツキ。やれないのなら、目を逸らさずに最後まで見ていろ」
ケイの厳しい声が私を貫く。その声は、とても冷たかった。今まで聞いたことがない程に。
突き放された。ケイに。
プロとして失格だ。恐怖で体が動かない。声さえ出ない。突き放されて当然だと思った。自分に対して腹がたって、悔しくて、私は唇を強く噛み締める。強く噛み過ぎて、血の味が口の中に広がった。
「ムツキさん……」
「ムツキ……」
サス君とココが私の名を呼ぶ。
「…………情けないよ」
漏れ出たのは、泣き言だった。その時、
「……キュ~」
サス君ともココとも違う小さな声が、私の側で聞こえた。心配しているような、気遣うような優しい声。私は声がした方に顔を向ける。そこにいたのは、小さな白い塊。
「邪眼玉……?」
仲間になるのを断った、あの邪眼玉だった。
「キュ! キュキュキューー!!」
そう私に向かって鳴くと、ゾンビの方を向き、「キューーーーーー!!!!!!」と大きな声で鳴いた。
「「邪眼玉!?」」
ゾンビと戦っていたシオンとケイは、その声に、一瞬私の方に意識を向ける。
その鳴き声に答えるように、邪眼玉があちこちから姿を現す。何もない空間や土の中から。私が作った壁をすり抜けて。
あっという間に、二時間程前に見た、目玉のすし詰め状態の出来上がり。
シオンとケイはその光景に呆気に取られながらも、自分たちを攻撃しに来たものではないと、すぐに気付く。
まさか!? と思ったシオンとケイは土壁を背に移動し、慌ててゾンビから離れた。
「キュ! キュ! キュ!」
小さな邪眼玉が団体に呼び掛ける。それに答えるように、「キュ! キュ! キュ!」という大合唱が始まった。そのすぐ後だ。邪眼玉は白い壁を作った。よく見れば、邪眼玉同士僅かに隙間が開いている。
なっ、何!?
呆気に取られる私をよそに、邪眼玉はゾンビに一斉攻撃を始めた。
圧巻だった。
ビームを一回放っただけで、簡単に決着がついた。
白い壁が崩れた時、ゾンビの姿は一体もなく、邪眼玉は私の目の前でポヨポヨと浮かんでいる。小さな邪眼玉は、サス君とココの側で浮かんでいた。私は膝を少し折り、邪眼玉を見詰める。邪眼玉は少し赤くなった。
「どうして、助けてくれたの?」
「キュキュキューー」
「助けてくれたから」(ココ通訳)
「ありがとう」
「キュ~~~~!!」
「訳す必要ないよね。これは」
どうやら、嬉しくて歓喜の声を上げたようだ。
「シュリナ! ヒスイ!」
私は上を向き、上空に逃げていた二頭の竜の名前を呼んだ。
「「仕方ない(な)」」
降りて来たシュリナとヒスイは、溜め息混じりに渋々了承する。
「しょうがないよね」
「ここまでされたら、何も言えません」
今度は視線をココとサス君に移すと、こっちも溜め息混じりに了承してくれた。
そうだよね。いいよね。皆の了承もとれた事だし。
「これから宜しくね」
「キュ?」
どういうこと? って、言ってるのかな? 疑問形のような気がするけど。
「一回断ったけど、私の仲間になってくれる?」
「キュ~~~~~~!!!!」
邪眼玉はサス君の背中の上でジャンプする。
仕草は可愛いよね。
「ムツキ、名前決めなきゃ」
ココが教えてくれる。
名前ね~~何にしようかな?
邪眼玉はワクワクしながら、ジーと私の顔を見詰めている。やけに、キラキラ光ってるね。
「白いボールのようだから、シラタマ?」
ハクとか良さそうなんだけど、何故か、その名前はつけたらいけないような気がした。
「シラタマ!? これを見て、団子を連想したんですか!?」
サス君が心底、呆れた声を上げた。皆の冷たい視線が突き刺さる。
やっぱり、駄目?
だけど、邪眼玉はサス君の背中の上でピョンピョン飛び跳ねている。
もしかして、気に入ってくれたの?
『うん。僕、すっごく、気に入ったよ!! 主様』
聞き覚えのない元気な子供の声が頭に響く。
「……この声、もしかして?」
「名前をつけたことで、完全にムツキの従魔になったのだ。意志疎通が出来て当然だろう」
シュリナが教えてくれた。
あ~なるほど。
「……で、目の前にいるこれは何なのかな?」
シラタマの呼び掛けに出て来てくれた邪眼玉は、消えることなく、私に熱い視線を送っている。
な、何!? これ以上は絶対無理だからね!!
『主様、主様。僕にくれたアレを皆にもあげて』
シラタマにあげたアレ? ポーションね。
私はマジックバックから特上ポーション(一応、下)を二本取り出した。一本じゃ足りないよね。
取り出した途端、テンションが異様に上がる邪眼玉たち。一斉に、彼らは「キューーーーーー!!!!」と雄叫びを上げたのだった。
とりあえず、魔物に支配された村、攻略完了。
新たに、〈邪眼玉の子供、シラタマ〉が仲間に加わりました。
お待たせしましたm(__)m
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
今回で、魔物に支配された村編終了しました。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




