〈第十九話 魔物に支配された村(5)〉
「これでよし!」
当初の目的通り、村の出入口を土魔法で塞いだ。見える範囲の土壁は壊れていない。最低限の魔物の侵入は防げそうだけど、見えない場所に破損している箇所があるかもしれない。
「……とりあえず、壁沿いに歩いてみる?」
皆が頷いたので、左側から潰していくことにした。
村といっても、結構広い。
昔、誰だか忘れたが、聞いたことがある。
家は人が住んでこその家だと。人が住まなくなった家は廃れるのだと。本当にその通りだなって、歩きながら思った。
人が住まなくなって、まだ日は浅いだろう。玄関のドアが破壊されている家の中を覗き込む。埃もそんなに溜まっていない。ただ、もの凄く空気が淀んでいた。慌てて袖口で口を塞ぐと、そこから離れた。
「……酷いな」
シュリナが小さな声で呟く。その声は苦しそうだ。ヒスイは何も言わない。だが、否定しない。ヒスイもそう思っているのだ。たぶんヒスイだけじゃない。私を含めて、皆内心そう思っていた。
国境沿いの鬼人の姿を見て、ある程度は想像していてし、覚悟はしていた。
しかし、正直いって、目の前の惨状は想像以上だった。
この村は王都から近い場所に位置している。村の大きさから考えて、かなり繁栄していた筈だ。建物もしっかりしたものが多い。
なのに、空気は淀み悪臭を放ち、家の中は荒れ果て、中には傾いた家もあった。外の壁もどす黒い染みを作っている。その染みを見て、私は悪臭の正体が何か分かった。
「…………死臭」
「ああ。この村は死臭に満ちておる」
シュリナが顔をしかめて答える。
これが、死臭ーー。ちょっと待って! それじゃ、
「シュリナとヒスイは、ここにいて大丈夫なの!?」
慌てて尋ねた。もしかして、体調とか崩したら大変だ。
「それは、今更ではないか?」
「気付くの遅いぞ!」
シュリナとヒスイが呆れた声を上げる。
確かに、そうだけど……
「大丈夫だ。穢れはせぬ(しかし……)」
「ムツキとの再契約を交わしているからな。心配するな(ゲンブは……)」
シュリナとヒスイが無理をしているようには見えない。魂の契約を交わしているから、無理をしていたら、それとなくだが分かる。感情の起伏も。
シュリナとヒスイは声に出さないが、とても心配している。ゲンブの身を……
本当は、今すぐ飛んで行きたいんだろうな……五つ子のようなものだし。
それっきり、シュリナとヒスイは口を噤んだ。私たちも自然と黙る。黙々と塀の確認と、隠れていた魔物を倒していった。魔石とドロップアイテムはマジックバックに収納する。途中、壊れた塀は土魔法で塞いだ。
ん? 何?
壊れた塀を土魔法で塞いだ時だ。視線を感じた。いや、前から視線は感じてたけど、てっきり魔物か何かだと思っていた。けど、何か違う。殺気を感じないのだ。嫌な感じも感じない。
「ムツキさん。どうかしましたか?」(サス君)
「う~ん。何か視線を感じるんだけど……」
「「「あ~~」」」
ヒスイ、ココ、サス君が綺麗にハモる。
「後ろを振り返ってみろ」
シュリナに言われた通り、ソッと後ろを振り返る。
すると、慌てて白い塊が建物の影に隠れる。
まさか……
ジッと、そのまま、白い塊が隠れた建物から視線を外さずに見ていると、白い塊がおそるおそる確認するように顔を出す。私と目が合うと、ビクッと身をすくませ隠れる。そして、また顔を出す。
何か……可愛い。
容姿は不気味なんだけど、仕草が可愛い。でも、何でここにいるの?
「……どういうこと?」
「さっきから、ずっと付いて来てたぞ。ムツキの事が気に入ったんだろ」
ヒスイが溜め息混じりに答える。
「ちょっと!! ココ、サス君!?」
ココとサス君が、白い塊、一回り小さい邪眼玉に近付く。
「キュ! キュキュキュー!! キュキュ~キュ」
どこに口があるんだろ?
でも、何か必死でココに訴えているのは伝わる。
「何言ってるか、分かる?」
シュリナとヒスイに尋ねる。
「「…………はぁ~~」」
私の顔を見てから、仲良く溜め息を吐く。
何その態度!? 私を見てから、二人(?)して溜め息を吐くってどうよ!
シュリナとヒスイの態度に少し腹をたててると、ココとサス君が戻って来た。
「……ムツキ。あの邪眼玉、仲間になりたいんだって。命を助けてくれたお礼がしたいんだってさ。どうするの?」
呆れたような声で、ココが訊いてきた。
邪眼玉は物影から姿を現す。何かモジモジしているみたいだ。視線は地面に向いている。
いやいや、可愛い仕草だけど不気味だから。
仲間って……あの仲間?
「それ以外に何がある?」
シュリナが呆れたように言う。
「え~~~~~~!!!!」
私の叫び声が廃村に響いたのだった。
お待たせしました(〃⌒ー⌒〃)ゞ
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m




