〈第十二話 角なし〉
リックとクロードが鬼人族……
それは、あまりにも意外な答えだった。
「でも……角が生えてないよね?」
獣人族に耳と尻尾が生えているように、鬼人族は頭に角が生えている。その角がリックとクロードには生えていなかった。
それは確かだ。クロコを討伐した時に、屈んだリックとクロードと一緒にいた。角が生えてれば分かる筈だ。別に二人とも天パーじゃないし、長髪でもない。リックは薄茶色の短髪で、クロードは黒に近い焦げ茶色の短髪だ。どんな小さな角でも目立つだろう。
「ああ。俺たちは角が生えていない、〈角なし〉だ」
クロードが答える。その声は暗い。
「角なし?」
「角を持たずに生まれた者たちのことを言うんだよ」
自嘲するような笑みを浮かべ、リックはわざと明るい調子で答える。
二人の様子を見て、その言葉が決して良い意味の言葉ではないことは感じ取れた。
「〈角なし〉って蔑称だよね」
ココは顔を前足で綺麗にしながら、さらりと言う。
やっぱりね。私は眉をしかめる。
「それは、少数派だから?」
「確かに少数派だけど、だから差別されている訳じゃなくて……角がない者は、魔力を持たない半端者だと思われています」
魔力を持たない半端者? リックとクロードも……
「えっ? でも、それっておかしくない? だって、リックもクロードも魔力持ちでしょ。それもかなりの」
実際、リックとクロードが魔力を使う場面を、私は間違いなく見ている。彼らは魔力を肉体強化に回していた。それもスムーズに。
「あくまで迷信だ。実際、角なしは他の鬼人と大差ない」
クロードが少し怒った口調で答える。だが、ココは否定する。
「それは違うね。大差はあるよ。事実、抜きん出ている者は多いね。肉体的にも、魔力的にも」と。
「さすが、ココ。物知り~~」
「でしたら、何故、彼らは蔑称で呼ぶのでしょうか?」
黙って後ろに控えていたミレイが口を挟む。
「何故って。人ってそういうものでしょ」
鬼人族っていっても、人には違いない。
平然とそう答える私に、ミレイは複雑な表情を浮かべる。リックとクロードは私を凝視していた。
そんなに、意外なこと言ったかな?
「……人っていうのはね、ミレイ。少数派を悪とし、多数派を正義と信じる種族だよ。そして、少数派を冷酷に切り捨てることも厭わない。……怖かったんじゃないかな、角ありにとっては。自分たちと大して見た目が違わないのに、明らかに秘めているものが違う。その歴然とした才能にね。だから、排除した。皆でやれば怖くないってね。……そういう積み重ねが、〈角なし〉という、蔑称を生み出したんじゃない。まぁ……鬼人族も人が付いてるし、似たようなもんじゃないかな」
まぁ、私も少数派の一人だったけどね……
口には出さないけど。
レールから外れた者に対しての風当たりは、日本で嫌という程味わってきた。
あの頃は、心を完全に殺して、それこそ地を這うような暮らしをしていた。
何で生きているのか。
何でこの状況を甘んじているのか。
考える余裕なんて、どこにもなかった。ただ……息をして、無意味な一日を淡々と生きてきた。今はもう、懐かしい思い出だ。
「……ムツキ様は、人がお嫌いですか?」
そう尋ねるミレイは、自分が傷付けられたかのような、とても辛い表情をしていた。
気付けば、皆私を凝視している。それぞれ表情は違うが。リックとクロードは厳しい顔をしていた。
「えっ? それって、人全般を恨んでいるか、嫌いかって意味? だったら、答えは否だね。そもそも、一括りに出来るものじゃないでしょ。だって、中には良い人も悪い人もいる。それは、少数派でも多数派でも同じだしね」
そう答えた私を、ミレイやシュリナたちは無言で見詰める。その目はとても温かかった。
リックは辛そうな顔をして、何かを言いたそうにしていたが、言葉が見付からず黙ったままだ。反対にクロードは、ポツリと呟いた。
「……何で、達観出来るんだ」と。
達観ね……してるつもりはないけどね。ただ、同じになるつもりがないだけ。
「それで、話を元に戻すけど。どうして、鬼人族の貴方たちが、王都ではなく、ヤーンの森に行こうとしてるの? ヤーンの森にどんな用があるの?」
「それは……」
言い淀むリックに、私は更に突っ込む。
「それは何? そろそろ、はっきりと言葉にして欲しいんだけど」
「…………難としても、会わなければならない御方がいます」
御方ーー。
そうはっきりと、リックは言った。
それが誰を意味するのか、ここにいる全員分かっていた。だが、誰も口には出さない。勿論、私も。
「それは誰?」
分かっていながらも、私は敢えて尋ねる。この耳に、その御方の名前を聞くために。
「それは…………五聖獣の一角、黒の大陸を守護するゲンブ様です」
やっと、リックはその名を口にする。
「……そう。だったら、リック、貴方が鬼王なのね。黒の大陸から逃げ出した、鬼王」
不敵な笑みを浮かべ、私は真っ直ぐリックの顔を見詰め言った。
お待たせしましたm(__)m
少し、ムツキの過去に触れています。
「二度目の人生、私は異世界で神獣の化身として生きていく」に詳しく書いています。もし宜しければ、そちらも読んで頂けると嬉しいです("⌒∇⌒")
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




