〈第十一話 重い口を開いて〉
夜中の意外な人物の訪問に少し警戒をしながらも、私はクロードとリックに座るよう促した。二人は戸惑いながらも座る。
「……さすが、ゴールドだな。俺の部屋よりも広いぞ」
クロードがキョロキョロと室内を見回しながら、ポツリと呟く。
反対にリックは、「ムツキ。待ち合わせしていたのに、行けなくてすみませんでした」と謝る。
初めて会った時から、私を様付けで呼んでいた。さすがに、それは止めてってお願いしたから、様付けで呼ばれる事はなくなったけど、それでもリックは敬語で話し掛けてくる。私より十歳以上年上で、身長差も三十センチ近くあるのに。だがその実は、軟派野郎だ。
「召集がかかっていたって分かっているから、気にしなくていいよ」
マジックバックの材料のクロコ討伐に行った皆で、一か月後、再び洞窟のダンジョンで会おうって約束をしていた。その事をリックは言っているのだ。
兵士をしていたクロードとリックは元々ハンターだ。ギルドの依頼で、洞窟のダンジョンで兵士をしていたらしい。二人ともシルバークラスなので、当然召集対象になっていた。
私の所に召集令状が届く数週間前。
別れて直ぐに、直接国境沿いに向かうハンターたちの元に召集令状が届いた筈だ。そうでないと、間に合わないからね。
「……それで、この時間に私の所に来た理由は何?」
まさか、謝りにきただけじゃないよね。
『シュリナ。ここの会話が外に漏れないように出来る?』
厚手とはいえ、布一枚だ。すごく心許ない。夜中とないえ、外を行き交う人は意外に多いのだ。大半が酔っ払いだけど。
だとしても、聞かれない保証はない。
なんせ、布一枚だ。私たちの会話が外に漏れる危険性は大いにある。クロードとリックがただの世間話をしに来たとは思えない以上、その対策は取るべきだと私は考えた。
『遮音防壁か。出来るが』
『だったらお願い。張ってくれる』
念話でシュリナに頼む。
シュリナは『分かった』と了承する。同時に、テントの周囲に膜のような見えない壁に包まれるのを感じた。いつの間にか、私の周囲にはシュリナたちが集まっていた。
シュリナと念話で会話している間、クロードとリックは難しそうな顔をしながらも口を開かない。
外に漏れるのを警戒してるのか。
「……大丈夫。ここでの会話は外には一切漏れないから」
「本当に?」
口を開いたのはクロードではなく、リックだった。リックは念を押す。
そこまで聞かれたくない話なの。内心、少し不審に思いながらも、それを表には出さない。
「大丈夫だから安心して。何なら、自分の耳で確かめてみて」
代わりに、微笑みながら私は答える。
ちょうどその時、ミレイが三人分の紅茶を淹れて来た。モモスのよい香りがテント内に広がる。モモスの紅茶と一緒に、マドレーヌに似た焼き菓子をのせた皿もテーブルに置く。
「どうぞ」
紅茶と焼き菓子をクロードとリックに勧める。
モモスの紅茶を一口飲んでから、リックは顔を上げ私を真っ直ぐ見詰めると、意を決したように重い口を開いた。
「…………ムツキは、〈ヤーンの森〉に向かう予定ですか?」と。
ヤーンの森?
『ゲンブの神殿に繋がる森だ』
ヒスイが教えてくれた。
その答えに、さすがの私も警戒心を露にする。
そんなことを訊いてどうするつもり?
「どうして、そんな事を訊くの?」
反対に、私はリックに訊き返した。だが、その問いに返事はない。
もしかして……リックは知ってるの?
彼の様子を見て、そんな考えが頭を過る。
普通の人間は、五聖獣が何処に棲んでいるかなんて知りはしない。そもそも、自分たちのすぐ側に棲んでいるなんて、思ってもいないだろう。
考えすぎ? それとも、別な要件?
ゼロが蘇生草を手に入れるために、以前、ドーンの森を潜ったことがあったけど……
確か蘇生草は、初夏が開花時期だった筈。時期としては遅すぎる。それとも、北に位置しているから、今が時期なのだろうか? にしても、このタイミングで訊くべきことか。
「それじゃ、質問を変えるわ。どうして、リックは今、〈ヤーンの森〉に行こうとしてるの?」
行くとは言わない。反対に、何故その森に拘るのかを尋ねる。
リックとクロードは尚も固く口を閉ざす。
重い空気がその場を覆い尽くしたが、私は二人を追い返したりはしなかった。二人が口を開くのを待つ。
暫くして、リックは口を開いた。
「………………俺とクロードは鬼人族なんだ」と。
大変お待たせしました(〃⌒ー⌒〃)ゞ
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




