〈第四十話 記憶の欠片〉
…………名前?
確か……緑色の竜だから……俺は…………
「………………ヒスイ」
そうだ……
俺はビャッコのことをそう名付けたんだ。契約を交わした後に……
◇◆◇◆◇
「お前か、あいつらが送り込んできた異世界人は」
初めて会った相手に対しての、第一声がそれだった。ありがとうとか、すまないという謝罪は一切ない。
ちょっと迷惑そうに、だが、明らかに自分を値踏みするような目で、その緑竜は俺を睨む。
これが人間だったら、俺は間違いなく一発殴っていただろう。
親友で家族でもある、あいつらの頼みだから、途中で放り出すことはしないが……
「おい!! 返事ぐらいしたらどうだ。俺が訊いてんだ、答えろ!!」
(何様だ、お前。随分、上から目線だな)
高飛車な物言いに、俺の目は自然と細くなる。
そこまで小馬鹿にされても、何も答えない俺に、苛立ちを強める緑竜。
ーー殴ろうか。
拳を握り込む。いいよな。
だが、実際に制裁を下したのは、俺ではなくシュリナだった。
「この愚か者がーー!!!!」
見事な飛び蹴りだった。
吹っ飛ぶ、緑竜。
壊れる家屋の壁。
呆気に取られ、不愉快な気持ちは霧散する。
「ビャッコ!! お前には礼儀というものがないのか!! 口が悪いのは構わん」
(構わないのか?)
「今更治るものではないからな、諦めておる。たがな、その態度は何だ! アキラはこの世界を守るために、界を渡って来たのだぞ。へつらえとは言わん。しかし、感謝の気持ちを表すのは当然ではないか! それを、ビャッコ、お前は!!」
フルフルと小刻みに震えながら、シュリナはビャッコを怒鳴り付ける。
ビャッコは起き上がると、プイッとそっぽを向いた。
(なんか、可愛くないか。アレ)
俺はツカツカとビャッコの前まで移動すると、瓦礫の上に浮かんでいるビャッコの胴体を、両手でガシッと掴む。
「なっ!! 何をするんだ!?」
途端、慌てだすビャッコだが、強引に俺の手を振り払おうとはしない。怪我を恐れたのだ。俺の。
「気持ち悪いぞ!! 馬鹿がより馬鹿に見える」
にっこりと微笑んだ俺に、ビャッコは悪態をつく。
(ほんと、口悪いな)
口は悪いが、優しい竜だ。とても優しい竜。
「決めた。ビャッコ、君の名前は〈ヒスイ〉だ」
ヒスイと呼ばれた緑竜は、目を大きく見開く。
「〈ヒスイ〉って、俺が生まれた世界に古くからある宝石の名前。知ってるかな? 翡翠は二種類あってね、透明なものと半透明なものなんだけど、ヒスイは半透明の方だね。……本当は優しくて、人の心の機微を感じとることに長けてるけど、それを上手く表に出せない、可愛い君にはピッタリだね。口が悪いのも、照れ隠しかな」
ガシッと掴んでいる手が熱く感じた。
ヒスイはワナワナと震えている。怒りからか、それとも羞恥からなのか……おそらく両方だろうけど。
緑色の体色が、若干赤みをさし濁っているように見えた。
「俺の名前は、アキラ=カシキ。ヒスイ、これから宜しくな」
俺は言葉を失っている可愛い緑竜に、満面な笑みを浮かべ、そう自己紹介した。
これは、記憶の欠片ーー
ヒスイの記憶の一部だ。
私は閉じていた目を、ソッと開ける。
そこには、少年の姿はどこにもなく、一頭の緑竜が私を真っ直ぐな目で見詰めていた。
無事、封印が解けたことに、私は心からホッと胸を撫で下ろす。
「ムツキ、気持ち悪いのか?」
心配そうに尋ねてくるヒスイに、自然と笑みが漏れる。
私は腕を伸ばすと、浮かんでいるヒスイの胴体をガシッと掴んだ。あの時と同じように。
「私の名前はムツキ=チバ。ヒスイ、これから宜しくね」
目を見開く可愛い緑竜に、満面な笑みを浮かべ、そう改めて私は自己紹介した。
お待たせしました("⌒∇⌒")
ついに、アキラの本名が登場!!
時間があれば、アキラのお話も書いていきたいかなぁと思ってます。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




