〈第三十九話 巫女長の少女と鍵〉
百五十話目(祝)です("⌒∇⌒")
小高い丘を登り終えると、巨木の横に、一人の少女が立っているのが見えた。
百五十五センチの私より、僅かに目線が上くらい。
緑色の髪を腰まで伸ばした、美しい少女だった。
この場にいるということは、この少女が〈緑の神殿〉の巫女長のようだ。
私は少女の髪に目がいく。
緑の髪ーー。
もしかして、〈森の民〉の生き残り?
エルフなら、耳が尖っているから分かるけど。髪に隠れて大事なところが見えない。
それとも、シュリ様のように、五聖獣様の体色に合わせて髪色が変化しただけかもしれない。だけど……
(この顔どこかで……)
見たことがあるような気がする。
思い出せない。記憶力は悪い方じゃないんだけど。すっきりしない。
少女は深々と頭を下げる。
「ようこそ、御出で下さいました。護りて様」
その声は、リーンの森で私に呼び掛けた、少し甲高い少女の声だった。
「顔を上げて下さい、巫女長様。貴女だったんですね。リーンの森で調査隊の一人を気絶させたのも、私をここまで導いたのも」
巫女長は顔を上げると、軽く頷き、にっこりと微笑んでから、「はい、護りて様。私のことはスイ」と、答えた。
(いやいや、呼び捨ては、さすがに出来ないでしょ)
若く見えても、私より遥かに年上だろうし。
「……スイ様」
「スイです」
「…………」
「スイです」
「…………スイさん」
「スイとお呼び下さい。護りて様」
満面な笑みを浮かべ、スイは譲歩を許さない。
私が呼び捨てにしない限り、このやり取りはいつまでも続きそうだ。私は軽く溜め息をつく。仕方ない。
「……分かりました、スイ。その代わり、私のことは名前で呼んで下さい」
「畏まりました、ムツキ様」
嬉しそうに声を弾ませ、スイは返事する。
その後だった。
「いつまで、無駄話をしてるんだ! さっさと来い!!」
スイとは正反対の、すごく不機嫌そうな甲高い声が、私たちを叱る。
声からして、少年のようだけど。
……ビャッコ様? でも、どこから?
(もしかして、木の中からだったりして……まさかね~)
「そのまさかだ。さっさと入って来い! ムツキ」
苛々した声が、私を急かす。
にしても、シュリナと同様、当たり前のように私の心を読んでくる。
(でも? 何で?)
まだ、再契約を交わしてないのに。
「ムツキ様。ビャッコ様が首を長くしてお待ちです。ご案内しますね」
そう言うと、スイは私をトンと押した。巨木の方に。
(えっ!?)
ーーぶつかる!!
直後にくるだろう衝撃に、体を無意識のうちに強張らせるが、くるはずの衝撃は一向にこない。
それどころか、何か温かいものに抱き止められる。
恐る恐る目を開けると、私を見下ろす、黄金色の目と視線が合う。シュリナと同じ色だ。
サラサラとした緑色の髪を肩まで伸ばした、思わず庇護欲をくすぐる容姿をした少年。
私より小さなその体は、私の体をしっかりと抱き止めていた。上半身は。
「ムツキ……」
少年が私の名を呼ぶ。
私は少年の黄金色の目から、視線を外せない。吸い寄せられる。
胸の奥がズキリと痛みだす。
黄金色の目を見詰めたままの私は気付かない。
私の胸がポッと光りだしたのをーー。
光りは徐々に集まり、一本の〈鍵〉を形成した。
少年はその〈鍵〉を握ると、私の胸に躊躇うことなく突き刺し、右に回した。
ーーガチャ。
遠くで、何かが開いた音がする。
「ムツキ。さぁ……俺の名前を呼べ」
少年らしからぬ、艶のある声に促される。
…………名前?
確か……緑の竜だから……俺は…………
お待たせしました("⌒∇⌒")
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