〈第三十八話 神殿〉
(……ここ最近、洞窟に潜ってるよね)
今回は私一人だけど。
皆はお留守番。
意外なことに、シュリナもだ。
同じ五聖獣でも、神殿内は立ち入り禁止らしい。暗黙のルールだそうだ。
何でも、テリトリー内に、他の竜が足を踏み入れるのが、もの凄く嫌らしい。正確に言えば、別の生物自体が嫌だと言った方が正しいかも。
なので、一人でテクテクと洞窟を歩いている。光りの道の上を通っているので、道に迷うこともない。その点、安心だ。
歩きながら、必死で、ビャッコ様の名前を思い出そうとしているけど、ここまで進んでも、私は名前を一向に思い出せずにいた。
思い出す兆しもない。
切っ掛けが掴めれば、思い出せるかもしれないが……。
伊織さんから託された〈鍵〉以前の問題。
そういえば、シュリナの名前は……確か色にちなんだ名前だった。過去世は、五聖獣の名前を体色よって決めたはず。
(そもそも、ビャッコ様って何色なの?)
翠の大陸だから、緑竜?
だとしたら、緑色にちなんだ名前になる。緑を片仮名読みでリョク。
安直過ぎるか……。思わず、自分の考えに苦笑してしまう。
ゴールが近い。
顔を上げると、少し先で光りの道が消えているのが見えた。
(……なるようにしかならないか)
半分投げやりだ。
ーー自分を信じろ。
シュリナの言葉が頭を過る。
信じる。
その対極に近い所で過ごした自分にとって、それはとても難しいことだった。
一年ほど前まで、自分の存在を圧し殺して生きてきたのだから。
そう簡単に、自分を信じることは出来ない。
それでも、何としても、ビャッコ様の名前を思い出さないとーー。
私は自分に言い聞かせた。
光りの道が、それ以上の光りに吸収されて消えた。
私は光りに包まれる。
そこは、洞窟の中ではなかった。
近いのは、洞窟のダンジョンの五階層や十階層のような、セーブポイントだ。
出口は高台だった。
高台から見渡す限り森だ。
端が見えない。その中央には、拓けた小高い丘が見える。その小高い丘の頂上には、一本の巨木が、天をつく勢いで生い茂っていた。
シュリナの時とは全く違う、神殿らしからぬ神殿に、私は驚く。
でも、翠の大陸の特徴を考えると、それもアリなのかなって思えてくる。ほんと、不思議だ。
取り合えず、周りを見渡して、あの巨木が怪しい気がする。
あそこに、ビャッコ様がいるかもしれない。
(だぶん……ううん、きっとそう)
私は坂を下り、小高い丘に向かって歩きだした。
高台から見た時は、鬱蒼とした森だと感じたが、実際はよく手入れされた森だった。
適度に木々を伐採し、陽の光りは、苔が生えた地面を適度に照らす。
風通しもいい。不思議なことに、ここには空気の流れがある。風も吹くし、匂いもする。
木陰はちゃんと涼しい。じんわり汗ばむ。
(もしかして、外なの?)
そう思えるほど、何もかもが自然だった。
だけど、ここは外じゃない。
それは明らかだった。だって、空には、無数の魔石が散りばめられていたからだ。
「ここまで、自然を模倣するなんて……」
洞窟のダンジョンのセーブポイントは、どこか、人工的なものを感じていた。綺麗だったし、感動はしたが……。
クオリティーがまるで違う。
さすが、ビャッコ様が眠る神殿だと、私は感心する。
マイマスイオン一杯の澄んだ空気を、胸一杯に吸い込むと、丘に向かうスピードを上げた。
お待たせしました("⌒∇⌒")
いよいよ、神殿に到着!!
次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




