〈第三十五話 底知れぬ恐怖〉
少年は目を覚ますと同時に気付いた。
両手両足を拘束されているのことに。
身動きがとれない状態だが、少年は気丈にも、私たちを憎しみの目で睨み付けていた。
彼にとったら、自分以外の存在全てが、敵なのかもしれない。
ふと、そう思う。
私たちは邪魔にならないように、部屋の隅に立ち、尋問の様子を観察していた。一応、念のために、シュリナに認識魔法を掛けてもらっているので、少年に私たちの存在はバレていない。
私たちの隣には、ジェイが静かに立っていた。
「もう一度、繰り返し訊く。何故、〈森の民〉は加護を失った?」
獣王の鋭い声が、静まり返っていた室内に響いた。
「間違いを正そうとしただけだ」
「間違いだと?」
獣王の声が一段と低くなった。私以外の皆から、殺気が滲み出ている。
「人族風情が、〈護りて〉でいること自体間違ってるんだ!! 私たちは、その間違いを正そうとしただけだ。〈森の民〉は悪くない!!」
ならばーー
悪いのは、私を〈護りて〉に選んだシュリナたち五聖獣で、五聖獣をたぶらかした私と言う存在自体が〈悪〉ということなのか。ほぼ、リクと同じ理由だ。
私は余程、五聖獣の眷族たちに不人気らしい。
私の顔に自虐的な笑みが浮かぶ。
「正そうとしたか……。具体的に、我らの〈護りて〉に何をするつもりだった?」
黙って、獣王とのやり取りを聞いていたシュリナが、とうとう我慢出来ずに、少年に一歩踏み込んで尋ねた。
少年は、突然現われたシュリナに驚愕する。だが、ここぞとばかりに、自分の主張をぶつけた。
「目を覚まさせようとしただけです。人族よりも〈森の民〉の長であり、王である姉上の方が相応しい。そのために、姉上は自分を磨き頑張ってきました。我々は真の眷族です。だからーーっう!!」
焼けるような頬の痛みに、少年は身を屈める。
「スザク様の質問に、ちゃんと答えないとね。ムツキに何をするつもりだったの?」
少年の頬を切り裂いたのは、ココだった。ココの右前足の爪が、真っ赤に染まっている。
サス君は私の隣に座り、私の身を案じ寄り添う。
「愚かな人間を、排除しようとしただけだ」
「排除って?」
更に、ココが踏み込む。
「ーー決まってるだろ!! 殺すつもりだったんだよ!!!!」
明らかな殺意が私に向けられる。
ーー駄目だ!!
【スザク、ココ、動くな】
魔力を声に乗せる。
敢えて私は、シュリナのことをスザクと呼んだ。シュリナとココは、私の魔力に縛られて身動きがとれない。
「つまり、〈森の民〉は私を殺すつもりだったんだね。なるほど……だとしたら、君たちは、この世界を滅ぼそうとした大反逆者ということになるね。ビャッコが〈森の民〉に死の制裁を下した理由も、妥当な罰だったということか。……実際、君のステータスにしっかりと刻み込まれているから、後で確認した方がいいよ、レオン君」
「…………何を言ってる……」
さっきまでの虚勢はどこにもない。レオンは完全に圧倒されていた。
この場で、圧倒的な力を持ち支配しているのは、五聖獣のスザク様ではない。
さっきまで、人間だと蔑んでいた存在だった。
「ところで、二つ訊きたいことがあるんだけど」
レオンの混乱など関係ない。私はレオンを見下ろす。
「……黒いローブの男は見なかった?」
「あいつは、お前の仲間か!! 卑怯者が!!!!」
またしても、憎しみの目で、レオンは私を睨み付けた。
「見たのね。一応言っとくけど、黒いローブの男は私の仲間じゃないから。敵だからね。……それからもう一つ、レオン君、君のお姉さんは〈魅了スキル〉を所持していたの?」
信じる可能性は低いだろうけど……
「だったら、どうしたって言うんだ!」
そう。やっぱり、あの女性は〈魅了スキル〉の保持者だった。
これで繋がった。
闇落ちしたゼノム=ユリアスは、魔眼石を作るために、加護を失った直後の集落を襲い、あの女性の、〈森の民〉の長の両目を生きながら奪ったのだ。
でも、一つだけ疑問が残る。
どうやって、〈闇落ち〉した者が、聖域内に入れたかだ。
二百年ーー
普通の人間にとって、悠久に近い時だ。
ゼノム=ユリアスは悠久に近い時の中で、伊織さんに復讐するためだけに生きてきたとしたら……
聖域内に足を踏み入れることが出来る力を身に付けていたとしたら、そこには脅威しかない。
私は底知れぬ恐怖を感じていた。
お待たせしました(〃⌒ー⌒〃)ゞ
荼毘にふしてから、獣王たちと一緒にボルンの街に戻って来てからのお話です。
次回からは、ほのぼの冒険ライフに戻ります。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




