〈第二十四話 森の民〉
逃げ出すように屋敷を出てから二時間後。
突然舞い戻ってきた私たちに驚く、変態双子とドSのメイド。
「「ムツキ~~帰って来てくれたんだね!!」」
満面な笑みを浮かべ、抱き付いてこようとする変態双子を、ドSのメイド、セシリアが止める。鞭ではなく、拳で止めた。ミレイも盾になり、私を庇う。ミカとロイは、セシリアにのされて床に転がった。自業自得だね。
「セシリアさん、空いてるベットありますか? この子が森で倒れてて」
双子に構っている場合じゃない。私は床に転がっている双子ではなく、メイドのセシリアに頼んだ。セシリアは一瞬眉をしかめるが、すぐにジェイに背負われてる少年に近付くと、脈をとる。
「脈は安定してますね。怪我は?」
「治癒魔法で治したから大丈夫。でも、かなりの出血が……」
「そうですか。…………分かりました。こちらへどうぞ」
少しの間が空いた。何だろう。何か引っ掛かる。だけど、どう言葉にしたらいいのか分からない。
そうしているうちに、セシリアはジェイと共に部屋を出て行った。
「……ムツキ。あの少年は、エルフだよね」
ロイが起き上がりながら、尋ねる。雰囲気が違う。
「あの耳は、そうだと思うけど」
何故、そんなことを訊くのか。不審に思いながらも、私は答える。
「そう……」
「だとしたら、厄介ね」
ロイとミカが険しい顔を見せる。さっきの、セシリアの態度も気になる。
(エルフが厄介者?)
「ムツキ。エルフが厄介者ではない。……獣王の息子よ。あのエルフの少年は、おそらく〈森の民〉ではないか?」
シュリナは訂正すると、ロイに視線を合わせた。
「緑の髪のエルフ。……スザク様の仰る通り、彼は〈森の民〉だと思います」
「〈森の民〉?」
シュリナとロイの会話に出てくる、〈森の民〉。気になって、私はロイとシュリナに尋ねる。
「ビャッコ様の眷族の中に、緑の髪をしたエルフがいてね……彼らは〈リーンの森〉に自分たちだけの集落をつくっているの。だから私たちは、彼らを〈森の民〉と呼んでる」
代わりに、ミカが教えてくれた。
「あの者からは、一切、加護は感じなかったがな」
シュリナの言葉に、ミレイを除き皆凍りつく。ミレイは口を挟むことなく、私たちのやり取りを聞いている。
「もう一度訊くけど、ムツキ、あの少年をどこで拾ったの?」
ロイとミカの視線が、私に突き刺さる。
「…………ビャッコ様が眷族に栽培させてる薬草園で……」
重い口調で、私は答える。
ーー〈森の民〉は、本来ビャッコ様の加護を享けし眷族だ。
しかし、あの少年は〈森の民〉でありながら、ビャッコ様の加護を享けていない。もし、あの少年が加護を享けているのなら、ビャッコ様の神殿に通じる入り口がある、リーンの森で、魔物の襲撃を受けることはまずない。襲撃を受けるのなら、そんな場所に誰が集落を築こうと思う。
だけど、あの少年は襲撃を受けた。
倒れていたのが、ビャッコ様の薬草園。そのことから、リーンの森以外で襲撃を受けたとは考えにくい。
(だとしたら、眷族同士のいざこざ? それも違う。あの傷は、明らかに魔物に襲われた傷。問題なのは、あの少年個人が、ビャッコ様の逆鱗に触れたか。それとも、〈森の民〉全員が逆鱗に触れたかのどれか……)
分かっていることは、一つ。
ーー逆鱗に触れたから、加護を外された。
リクのように……
如何なる理由で、逆鱗に触れたかは分からない。たが、逆鱗に触れた者を、ビャッコ様の加護を享けている王家の者が、成り行きとはいえ、保護している。その行為は、裏切りととられても、何も言い返せない。
ミカが言った通り。私は厄介事を持ち込んでしまった……
助けたこと自体、間違っているとは思わない。でも、ここに連れて来るべきじゃなかった。心からそう思う。今からでも遅くない。少年を宿屋に連れて行こう。転移魔法を使えば、誰にも気付かれない。始めから、宿屋を選んでおけばよかったんだ……
「ミカ、ロイ。ごめん。あの子は私が連れて行く」
「それには及びません。目が覚めるまでは保護しましょう。しかし、それ以後は、この屋敷に泊め置くことは出来ません」
いつの間にか戻って来ていた、セシリアが告げた。
非情な勧告だが、それがセシリアの、いや、ミカとロイの優しさだと、私たちは気付いていた。
「ありがとう、セシリアさん。ミカもロイも……」
「……ムツキ。宿屋に戻るぞ」
ジェイが慰めるように、私の頭をポンポンと叩く。無言のまま、私は力なく頷くと、皆で宿屋に戻った。
お待たせしました("⌒∇⌒")
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
やっと、プロローグに繋がりました!! ホッとしてます(*´ω`*)
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




