〈第十七話 魅了眼〉
ーー魔眼石。
魅了のスキルを持つ者の目を生きながらくり抜き、その目と魔石、そして闇魔法を用いて生成した魔法具。禁忌の魔法具として生成は禁止されている。
「そうだ。良い子だ……もっと、こっちにおいで。さぁ……」
中年男は下品な気持ち悪い笑みを浮かべながら、私に呼び掛ける。黙り込んだことで、私が魔眼石に感化されたと思い込んでいるようだ。
それにしても……ジェイとミレイの動きを封じ込める程の威力に、正直驚きを隠せない。だが、表情を変えることはしない。中年男が差しだした手を取るように手を伸ばした。
指先が触れるか触れないまでに近付いた瞬間、私は一気に間合いを詰めた。
私の動きに驚いた中年男は、咄嗟のことで、何も出来なかった。私は脂肪の付いた腹を膝で蹴り上げる。「グハッ!!」と悲鳴を上げ倒れる中年男から、私は魔眼石を奪い取った。
「……なっ……何故だ…………掛かってたはずでは……」
呆然とした中年男から漏れでる声に、私はニヤリと笑う。
「掛かる? 誰が掛かったって?」
魔眼石を握った右手に橙色の魔方陣が浮かぶ。
「危ない玩具持ってたらいけないでしょ、おじさん」
にっこりと微笑みながら、私は蘇生魔法を自分の右手に掛ける。握り込んでいた魔眼石にーー。右手の中で、魔眼石は砂に変わった。
「ざんね~ん。砂になっちゃったね。……で、おじさん、これどこで手に入れたの? 教えてくれないと、サス君の玩具になるかも。……教えてくれるよね」
微笑む私と、口角を上げるサス君。チラリと牙が見えてます。サス君の涎が、ポタポタと中年男の胸元に落ちる。
(涎、わざとだよね)
サス君はノリノリだ。そして中年男は、ガクガクと震えだした。
「聞こえなかったのかな? おじさん。もう一度訊くね。この魔眼石、どこで手に入れたの?」
「…………か……買った……」
「誰に?」
「黒……黒いローブを着た男に……」
(ーー!! えっ!? 黒のローブを着た男って!? まさか!?)
弾かれるように、私は後ろを振り返る。そして固まった。ジェイの顔が、見たこともないほど険しくて怖かった。
「……ジェイさん」
ジェイは無言のまま中年男の前に立つと、容赦なく、蹴りを腹に一発いれ気絶させた。
「ムツキ、赤竜様。悪いが、今からこいつを連れて一旦、王都に戻る。しばらく、ここで待っててくれないか?」
(往復するつもり!? 無茶でしょ。一回飛んでるんだよ。ジェイさんなら出来ると思うけど……それでも、かなり無茶だって気付いてないの? それとも、気付いてて無茶をするつもりかな。まぁ、ジェイさんは気付いてて、無茶するタイプだよね。絶対。優しいから……)
仕方ない。手伝いますか。
「……待ちません。私も一緒に行きます。一旦、皆で戻りませんか? 私が、転移魔法で王都まで飛びますから。魔力は、私の方がジェイさんより高いんですから、大丈夫です。……いいよね、シュリナ?」
「仕方なかろう」
「……分かった。頼む」
シュリナが認めたことで、ジェイは素直になれた。
「はい。それじゃ、戻るよ。ミレイ、もうちょっと、こっちに来て」
(【転移魔法発動 行き先は王都バーミリオン。ジェイの執務室】)
地面に描きだされた魔方陣が強い光りを放ったと同時に、私たちと中年男の姿は森の中から消えた。
◇◆◇◆◇
いきなり現れた私たちに、執務室で仕事をしていた宰相ザイードは驚愕する。だか、その顔は足下でのびている中年男を確認すると、瞬時に厳しいものへと変わった。
「今すぐ、こいつを地下牢へ。後で尋問にかける!」
中年男は王宮騎士に両脇を抱えられ、運ばれて行った。
「何事です!?」
「国境を越えた先で、ココを手に入れようと襲ってきた」
ザイードは、ジェイたちがそれだけの理由で戻って来たとは、到底思っていなかった。もし、それだけの理由なら、国境を守っている騎士に引き渡せばいいのだ。なのに、引き渡さずに連れ帰った。何か、別の理由があったからこそ、旅の途中で引き返して来たのだと分かった。
「それで?」
「その時、奴は魔眼石を持っていやがった!!」
「魔眼石をですか!?」
ーー魔眼石だと!! 禁断の魔法具ではないか。このタイミングでか!?
「ああ。何でも、黒いローブを着た男から買ったらしい。ザイード、奴から黒いローブを着た男の情報を聞きだせ!! 全てな!」
「ハッ! 畏まりました。それで、その魔眼石は今ここにお持ちですか?」
「すいません。……私が壊してしまいました」
それまで黙って聞いて私は、ザイードの質問にジェイに変わって答えた。
お待たせしました("⌒∇⌒")
宰相の名前、ザイードに決定!!
年は、ジェイと変わりません。若い宰相様です("⌒∇⌒")
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




