表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
116/316

〈第五十三話 大事なものは〉

 


 走りながら、私は右手に魔力を集中させていた。



 拓けた場所に出た瞬間、二頭のクロコは錯乱し、お互いを攻撃しあっていた。五、六メートルのクロコ(日本名ワニ)が大暴れしている。



「危なっ!!」



 尻尾の先端が空を切る。当たらなかったはずなのに、私は無意識に体を後ろに反らしていた。



 ーーベキッ!!!!



 背後と横にあった木の幹が音をたて、深く抉られている。風圧だけでこれだけの威力に、私は心底ゾッとした。



 念のために、プロテクトの魔法とマジックバリアは掛けてある。だけど魔法だけだったら、間違いなく私は、あの木と同じ運命だった筈だ。それだけの威力だった。咄嗟とっさに避けたとはいえ、風は私の体を、確かに撫でていったのだから。



 抉られなかったのは、私に【神獣森羅の化身】の称号があったからだ。



〈ダンジョン及び、魔物によって、ステータスの異常を引き起こすことはない。そして、絶対に傷付けることも出来ない〉



 という、一文が最後の方に書いてあった。そのおかげで、私は無傷ですんだ。



 しかし、その称号があったとしても、衝撃そのものを皆無にすることは出来ない。これ以上近付けば、風圧に吹っ飛ばされる。魔物を一頭も倒すこともなく、気を失うなんて真似は絶対に駄目だ。戦える人間を一人失うということは、パーティーにとっては大打撃。そのせいで、パーティーは全滅するかもしれない。



 私の脳裏に、十七階層で出会った、あの男の姿が過った。



 一撃で倒す。



 その気でいく。



 私はもう一度、右手に魔力を集中させる。今までの攻撃魔法で使った魔力量を越えた魔力が、右手に集まる。だから……



「ダガーでは倒さない!!」



 二頭のクロコを見据え、私は【ファイアーボール】を放った。



 私が放った【ファイアーボール】は、火柱となり、二頭のクロコを襲った。



 雄叫びを上げるクロコ。この瞬間、クロコに掛かっていた幻覚は完全に消え失せ、熱さでのた打ち回り、水場に逃げる前に青白く光りだした。



「サス君!!」



 青白く光りだしたのを確認してから、私はサス君に駆け寄る。



「ムツキさん。魔力の扱い方が慣れてきましたね」

 サス君は尻尾を振りながら、誉めてくれる。



「よかった~~」



 銀色の毛が赤く染まったところは見当たらない。



「僕が、あれぐらいの風圧に負けるとでも」



 ちょっと不機嫌になるサス君。



「いや、大丈夫だと思ったけど、やっぱり心配だったから。大切な仲間だもん」

「ありがとうございます」



 サス君の気持ちが浮上する。そういうところ、可愛いよね。



「さて、後は……残り三頭かな」

「一頭ですよ」



 サス君の視線の先、オアシスから一際大きいクロコが、ゆっくりと岸に上がってきた。全身から煙がでている。後の二頭は、どうやらサス君の雷で倒されたようだ。



『【ステータス】』



 私はいつもと同じように、【ステータス】で確認した。



 ーークロコ〈ランクS 物理攻撃プラス五 

 炎魔法(弱)/水土魔法(強)〉

 そして、HPは52/886だった。



「ムツキさん、どうしますか? ダガーで倒しますか?」



 サス君も気付いている。目の前のクロコが、瀕死に近い状態だってことを。知っていて訊いてくる。ダガーで倒すのかと。



「決まってる。魔法で倒す。ダガーは使わない」

 私ははっきりと言い放つ。



『『主様、約束が違います!!』』



 セッカとナナが私を責める。でも、私の気持ちは変わらない。次第に、泣きそうになるセッカとナナ。いつもなら、ここで折れていた。「しょうがないなぁ……」って、苦笑しながらも、可愛いって思ってたから。皆が呆れながらも。だけど今回は違う。地団駄を踏もうが、大声で泣こうが、私は折れない。



「サス君。……私間違ってた。優先順位を。最も大切なものを後回しにしていた。私にとって一番大事なものはパーティー。その中に、私も含まれていることをね。だから、魔法で倒す!」



 右手を前につきだす私に、クロコは威嚇する。口を大きく開き、僅かに残った命を使って魔波を放った。しかし、私にもサス君にも魔波は通用しない。クロコより、上位にいるからだ。それでも、クロコは最後まで攻撃体勢を崩さなかった。一声大きく鳴くと、クロコは突進して来ようとする。



 同時に、私は【ファイアーボール】を放った。



 青白い光りを放ちながら、巨大なクロコの姿が消えていく。



 私はクロコに歩み寄った。後ろをサス君がついてくる。



 魔石三個とクロコの皮二枚と牙一本をゲットした。サス君が倒した二頭の魔石は、オアシスの水底に沈んでいる。



「……約束したのに、主様の嘘つき」

「仕方ないよ、ナナ。主様が大事なのは、私たちじゃないんだよ」



 ダガーから、幼女の姿に変異したセッカとナナが放った言葉を聞いた瞬間、烈火の如く怒ったシュリナが怒鳴った。



「この、愚か者が!!!!!!」と。




【神獣森羅の弟子】

 この称号の詳しい説明は、〈第一章 二十話〉に詳しい説明文あり。


 それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ