〈第三十七話 魔狼〉
「……ほんと、長閑だよね」
真っ直ぐ続く道を歩きながら、私はポツリと呟く。
魔物がウヨウヨいるダンジョンの中だとは、到底思えない。まるで、牧場を歩いているような錯覚さえ感じてしまう。
遠くでは、羊が群をつくり、別の群れの数頭が、舗装されていない道を横切っている。
一見、長閑な光景だよね。放牧されてる羊だと思うよね。その羊が、二メートル強の大きさじゃなかったらだけど……
私よりもはるかに大きな羊が、我が物顔で、今私たちにメンチを切りながら目の前を闊歩している。意外に、羊は目付きが悪い。
ーー【ビックシープ】
ランクCの獣型の魔物だ。羊型の魔物だが、その容姿に騙されると酷い目に合うだろう。
何故なら、その性格は見かけとは程遠く、獰猛で、気性も荒い。縄張り意識も非常に高く、群れの縄張りに誤って足を踏み入れた者は、如何なるものであろうとも、全て攻撃対象となる。ビックシープの攻撃は至って単純だ。野生の猪とよく似ていて、突進し、攻撃対象をどこまでも追いかけてくるのだ。群れで。故に、破壊力は凄まじい。
ドロップアイテムである、羊毛と羊肉は高値で買取りされている。
獰猛らしいけど、見た目は超~ラブリーだよね。
あぁ……出来るなら、あの羊さんの体にダイブしたい! あのフワフワな毛皮に顔を埋めて、一緒にゴロゴロしたいよ~~
でも、出来ない。羊さんは、完全に私を警戒してる(当たり前だ!! 従魔トリオ心の叫び)。一歩踏み出そうものなら、間違いなく突進してくる。
しょうがないよね。これ以上刺激出来ないので、私は指をくわえて、羊さんの群れを見送るしかない。襲って来ない限り戦うつもりもないし、刺激して、意図的に戦いに持ち込むつもりも、始めからなかった。
そんな私を、ミレイは不思議そうに見ていたが、一応、このダンジョンにいる限り、私が主なので、口を挟んでくることはなかった。
そうそう。ミレイ曰く、六階層から九階層までで出没する魔物は、【ビックシープ】と【魔狼】、後は一階層から四階層で出没した魔犬とスライムだ。ギルドに報告が上がっている魔物は、この四種類。
あっ、それから、最短ルートだけど、それは私でも分かった。っていうか、想像出来た。想像した通り、真っ直ぐ続くあの道こそが、最短ルートだった。ので、私たちはその道を歩いている。横道にそれることなく。
たまに、どこかのパーティーが、羊さんに追いかけれてるのを、何度か目にしたけどね。当然、放置だ。心の中で応援はしたよ。頑張れーーって。
サクサクと進み、魔犬を数頭倒しただけで、私たちは八階層の手前まで到達した。
『サス君、念のためにに二重に結界を張ってくれる? 出来れば聖魔法を練り込んだのを』
念のために、私はサス君にお願いする。
今から入るトンネルは一本道だ。狙われたら、逃げ場は後ろしかない。獣型の魔物に背を向けることが、自殺行為だって、実戦の少ない私でも分かる。だからこその結界なのだ。私自身、魔法を二種類同時に使う大変さが分かっていながら。
サス君が使う魔法は、固定スキルの一種のようなものなので、魔法を習得することは出来なかった。もし出来るのなら、間違えなく覚えたのに。すごく、悔しい。
『分かりました』
悔しい思いをしている私をよそに、サス君は承諾し結界を張った。
八階層の入口に来た時だ。
犬の遠吠えが聞こえた。
(もしかして、魔狼かな? だとしたら、少し厄介かな)
そんな考えが脳裏を過る。
ーー【魔狼】
ランクCの獣型の魔物だ。狼型の魔物だが、習性も狼と酷似している。
ビックシープと同様、二メートルを越える中型の大きさを有する魔物だ。主に十頭程の群れで行動し、狩りも群れで行われる。獣型の魔物の中でも、知性が高い魔物だ。その中でも、リーダー格の魔狼は、ランクBであることも多く、一度ターゲットにされると逃れる可能性は非常に低い。
高台から見下ろす限り、魔狼も魔犬の姿は見えない。だが、確実にいるのは確かだ。
ミレイは厳しい顔をしている。私はチラッとその顔を見てから、視線を目の前の草原へと移す。草原から吹く風が心地良い。
(さて、どうする? とりあえず、魔物のいる方向が分かればいいんだけど……)
「シュリナ、魔物がいる方角分かる?」
シュリナの魔物感知能力は非常に高い。それに的確だ。それはホムロ村でも証明されている。
「ああ。それなら分かる。ーー上だ!!!!」
その声と同時に、上から数頭の魔物が襲ってきた。
魔物が襲ってくるのと、私たちが反射的に上を見上げるのと同時だった。
ーー魔狼だ!!!!
今まで何度も倒してきた魔犬とは、明らかに、体躯、そして姿も違っていた。
しかし魔狼が、私たちの上に着地することは出来なかった。サス君が張っていた結界に弾かれ、「ギャン!!」という悲鳴を上げ、高台から落ちる魔狼。残り一頭は、ダメージを深く受け、私たちから少し離れた場所に倒れ込む。
聖魔法を練り込んだ結界は、魔物にとって多大なるダメージを与えた。霊獣であるサス君ならではの結界だ。さすが、サス君。だからこそ、ダンジョンで緊張感なく私はいれる。
サス君が倒れ込む魔狼に【風牙】を叩き込んだ。
切り裂かれた魔狼は、一際大きな声で啼くと動かなくなった。
私たちを混乱させるために飛び込んで来た魔狼は、二頭。残りはまだ上にいる。
完全に動かなくなった魔狼から、視線を上に移す。一番高い場所にいると思ったが、違った。数メートル高い場所から、四頭の魔狼が牙を剥き、マズルに深い皺をよせ、今にも私たちに飛び掛かろうとしている。仲間の連携が強い魔物だ。怒りを必死に抑えているのが、分かった。おそらく、リーダーの魔狼が抑えているのだろう。
私たちと魔狼との睨み合いが続く。
目を離したら、その瞬間、魔狼は一気に襲ってくるだろう。
魔狼は十頭前後の群れを形成する。だとしたら、残りは八頭前後。リーダー格の魔狼を退けても、七頭前後だ。
ーーサス君の結界でも、至近距離から襲ってくる、全ての魔狼は防げないだろう。
睨み合いが続く中、四頭の魔狼のうち、真ん中の二頭に変化が見えた。牙を剥いているのは同じだけど……
二頭が脇による。
私でも分かった。存在感のある何かが近付いてくる。
おそらくそれがーー
群れのリーダーの魔狼だ。
姿を現した魔狼。その体躯は他の魔狼より一回りは大きい。その存在感も、他の魔狼を凌駕している。だが、シルバータイガーほどではない。
私は念のために【ステータス】で確認する。
やっぱり、思った通りランクBだった。特別なスキルもない。
ニヤリと、私はリーダー格の魔狼を見据えたまま笑う。すると、魔狼は踵を返して、その場を離れる。軽く唸った後、姿を見せていた四頭も、その場を渋々ながらついていく。
「……行ったようですね」
緊張していたのだろう。ミレイが大きく息を吐き出す。
「戻って来ないうちに、この場を離れた方がいいよね」
「そうだな」
シュリナが同意する。皆頷く。
そして私たちは、直ぐにその場を離れた。
お待たせしました。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




