〈第三十八話 だから代わりに、私は「ありがとう」と答える〉
荷馬車が二台ほど通れる幅のある大きな橋が、ゆっくりと下りてきた。
「危ないので、もうすこし後ろにさがって下さい!!」
橋を管理している橋守りが、湖を覗き込でいる私たちを注意する。私たちは慌ててミレイの隣に移動した。
ーー洞窟ダンジョン、十階層。
五階層を出発してから五時間後、無事私たちは到着した。
時間は昼を少し回ったぐらい。少し、小腹がすいたかな。途中休憩を三度ほど挟んだから、お腹はそんなに空いていない。ミレイが用意してくれた、お茶と軽食は美味し過ぎた。だから、ついつい食べ過ぎた。タークチキンのサンドイッチは、皆お代わりをしたほどだ。
まさか、ダンジョン内で本格的なお茶と軽食をご馳走になるなんて、思いもしなかったよ。ミレイのリュックには、一体何が入ってるのか気になってたけど、お茶セットとはね……。さすが、メイド!
私たちだけだったら、普通にハムのサンドイッチか乾パン、もしくはクッキーかな。お茶も本格的なドリップコーヒーではなく、水筒にいれてたお茶だろうね。それが、普通。マジ贅沢だわ。ちょっとだけ、贅沢万歳!
数分後。橋が完全に下り、橋守りが安全を確認すると後ろを振り返る。「お待たせしました。どうぞ、お通り下さい」と、にこやかな笑みを浮かべ、橋を渡る許可をだした。
「てっきり、五階層と同じような場所だって思ってたけど、まるっきり違ったよね……」
皆で橋を渡りながら、私は独り言のように呟く。
五階層は森の中に村があった。
十階層も森の中に村があるのだが、その大地の周囲は水に囲まれていた。村に渡るには、橋を渡るしかない。そしてその橋を管理するのに、橋守りが常に待機していた。
何気に途中で足を止めると、湖を覗き込む。水はとても澄んでいて、魚が泳いでいるのが見えた。魔石の放つ光りを受けて、水面がキラキラと光っていた。空気も澄んでいて、緊張していた心を解きほぐす。
「ココ、落ちないようにね」
泳ぐ魚がどうしても気になるのだろう。ココは前のめりで水面を凝視している。
猫じゃないのに、猫らしい姿を、私は微笑みながら見詰めていた。小さくなったサス君の体を抱きながら。
平気そうにしているが、サス君が疲れているのは分かっていた。ずっと……結界を張り続けていてくれてたもんね。疲れて当たり前だ。小さな体を抱き締めながら、少しでも、サス君の助けになりたいと、私は切に思った。そのために、私は何が出来るんだろう。
『……我を頼ってもよいのだぞ』
ずっと黙っていたシュリナが、少し拗ねたような口調で私に提案してきた。
悩むぐらいなら、自分を使えーー
シュリナはそう言いたいのだ。自分の力を自由に使えと。
事実、シュリナは結界を張ることが出来る。
その実力は、サス君よりもはるかにレベルが高い。ホムロ山で広範囲に結界を張り巡らせたように。だけど私は、どうしてもシュリナには頼れなかった。
シュリナは五聖獣の役割を、必死で頑張っているからだ。
この世界を守るために。
不完全な状態の、他の五聖獣の力を補って、結界を維持し続けている。
その小さな体で必死で踏ん張っているのだ。
そんな状態のシュリナに、頼むことなんて出来ない。仲間なのに、頼まない。仲間だからこそ、頼めない。その事実が、シュリナの心にどんな影を落としているのか。その小さな胸にどんな思いを抱かせているのかーー
(私はシュリナに酷いことをしているのかもしれない)
時々、ふと……そう思う時がある。そしてその心の声も、シュリナに聞かれているのだ。
『ありがとう、シュリナ。大好き……』
「ごめんね」とは言えない。「出来ない」とも言えない。絶対に。だからその代わりに、私は「ありがとう」って答える。「大好き」の言葉を添えて。
『ーーなっ!! あれほど、恥じらいを持てと言っておるだろ!!』
直ぐに、シュリナの生活指導がはいる。
『誰にも言わないよ。私が大好きっていうのは、サス君とココ、そしてシュリナだけだよ。あっ! ジュンさんもかな』
『だとしてもだな!』
『大好き、シュリナ』
シュリナに怒られても、何度でも口にしよう。
シュリナの不安が、別の感情に覆われ、彩られるのなら。
怒られても、呆れられても構わない。大切な存在を守る。今の私は、はっきりいって力不足だ。ゴールドカードを持ってても。常に、皆に守られてる存在。そんなこと、嫌っていうほど認識してる。だからこそ、今出来ることをしようと思うんだ。
私は「大好き」という言葉で、シュリナの心に結界を張ろう。
『シュリナ、大好き』
『…………』
シュリナは等々黙り込んでしまった。私はそんなシュリナを見て微笑む。
(私の魔力が、少しでも皆に役にたてればいいんだけど……)
微笑みながら、私は心の中で呟く。
それが出来れば、サス君もシュリナも微力だろうけど、楽になれると思うから。今夜でも、ココに訊いてみよう。ココはとっても物知りだからね。
お待たせしました。
今回、少しムツキの胸の内を全面にだしてみました。
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




