第二夜 黄色のリボン
「……」
千夜が赤のリボンを見つけた数十分後―― 一夜はごく普通に兄の隣を歩いていた。目指す場所は、当然彼らの自宅である。
見慣れた住宅街に入り、ようやく慣れ親しんだわが家が見えた時、一夜はピタリと足を止めた。それに釣られた千夜も、一瞬遅れて足を止める。そして、様子がおかしい弟の顔を窺った。
「――どうしたの?」
「……」
千夜の問いかけに、一夜は何も返さなかった。ただじっと、自宅の脇に立っている小さな桜の木を見上げている。その桜の花は、もうほとんど散っていて、葉桜となっていた。
その青々とした葉に、ヒラヒラと風になびく"何か"があった。
「――あれって……リボン?」
「……」
千夜の思った通り、その"何か"は、リボンであった。それも、"黄色"の、である。
これには流石の千夜も首を傾げた。一日に二度も、本来あるはずもない場所で、見慣れない物を見かけたのだから、それは当然のことであった。
「あれ、取る?」
「……危ないから止めておけ」
「……うん」
一夜の忠告を、千夜は素直に受け入れた。しかし、その視線は依然として、そのリボンに向けられたままだ。
「今日は、ちょっと変だね」
「……」
一夜は兄の声を聞き流しながら、じっとそのリボンを見つめ続けていた。そして、心の中で呟いた。
――あれは、嫌な感じだ。
一夜の直感は、当たっていた。
***
「――まただ」
「また無くなってんのか?」
"青の青年"は、闇夜で視界を遮られながらも、目を凝らしてそれを確認した。"赤の青年"も同じように見上げたが、よく見えなかった。
「ここの家は――」
「"姫宮"だってよ。珍しい名字だな」
「……」
"赤と青の青年"は、ある住宅街の中の一軒家の前に立っていた。暗くてよく見えなかったが、白っぽい色の、ごく普通の一軒家である。そこはもう夜遅いからか、シャッターが降りていて、中の住人たちが起きているのか否かも分からない。
「どうする? "両方の"リボンが消えてるぞ」
「……おそらくは、この家の住人に"憑いて"る」
「……ふうん」
深刻そうな表情で、眉間に皺を寄せている"青の青年"とはこれまた対照的に、"赤の青年"は無関心そのものだった。
「……お前、やる気あんのか?」
"青の青年"は隣の青年を睨んだ。
「正直言って、あんまりないな」
"赤の青年"はやはりのんびりと構えている。
「――とにかく、明日出直すぞ」
「正確に言えば今日だけどな」
「うるさい」
この時の"青の青年"は、妙な胸騒ぎがしていた。今まで"視て"きたものとは、明らかに異質な不安感。そんなものを感じていたのだ。
ふと何気なく、隣の青年を横目で窺ってみたが、彼に変化は見られない。これは自分の思い過ごしなのか――。
「"姫宮"――」
彼の呟きは闇に溶け込み、消えていった――。




