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すれ違う二人 ~とある双子と断罪者~  作者: 吹雪
第一章 一方的な始まり
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第三夜 視線

「――三八度二分……」

「完全に熱ですね。今日は休みなさい」



 翌日の早朝。千夜は発熱し、学校を休むことになった。


「一夜、今日は一人で登校しなさい。いつものように授業をサボることは許しませんよ」

「……」


 何事もなかったかのように、一夜にそう言ったのは、双子の母親――かぐやである。彼女は出勤の準備を済ませたスーツ姿で、千夜のベッドの傍らに正座していた。


「ええ……僕は一人なの……?」

「仕方がありません。急には休めませんから。貴方はもう高校生なのですから、一日くらい一人でも問題ないでしょう」


 弱々しく文句を言う千夜に、かぐやは平淡な声でたしなめた。実の息子に対する口調にしては、些か礼儀正し過ぎるようではあるが、彼女は誰に対しても敬語なのである。


「千夜、携帯は常に枕元に置いておきなさい。何かあったら電話するように。それから、水とタオルはここに置いておきます。ついでにおにぎりも握っておきましたから、お腹が空いたら食べなさい――他に欲しいものはありますか?」

「……ありません」


 テキパキと看病に必用なものを揃えたところで、かぐやは、ようやく立ち上がった。


「それでは、いってきます。お大事に、千夜」

「はーい……いってらっしゃーい……」


 背を向けた母に、千夜は力なく手を振って見送った。そしてすぐに、自分のベッドに腰かけている一夜に視線を移した。


「……一夜も……サボっちゃ駄目だよ……」

「……分かってる」


 今日もせめて半分はサボろう―― 一夜はそう心に誓った。


 

***



「……」


 一夜は家を出てすぐに、昨日見たあの黄色いリボンを、無意識に探した。そして玄関を出て右側にある、あの小さな桜の木を見上げて、一夜は小さく溜め息をついた。


 

 ――無くなってる。


 

 あのヒラヒラと風に揺れるリボンが無くなっていることに、一夜はなぜかホッとしていた。しかしそれでも、嫌な予感が消えることはなかった。


 

 ――どうせ風に飛ばされていっただけだ。


 

 ごく当たり前のことを自分に言い聞かせながら、一夜は門を抜け、バス停に向かって歩き出した。ところがすぐに、彼はその場に立ち止まった。


「……」


 背後から、鋭い視線を感じたからである。


 

 ――誰かに見られてる。



 一夜はその神経質な性格からか、人の視線に敏感な性質である。だからこそ、いち早くその視線に気付くことができたのだ。


 この視線の正体を探るべきか否か―― 一夜は一瞬思考した。しかし、すぐに何事もなかったかのように歩き出した。



「俺には関係ないことだ」


 

 全くそんなことはないのだが、一夜は自分のことには、意外に無頓着なのであった。

 


***



「……しつこい」


 一夜は思わず呟いた。


 もう少しで昼休みになる。ここになって――いや、高校にたどり着いたあたりから、一夜はいい加減煩わしいと思い始めていた。


 そもそも、教室の窓側最後尾の席に座っていても尚、視線が消えないというのは異常だ―― 一夜は心の中で舌打ちをした。


 

 ――視線の正体はクラスの連中か?



 そう考えたところで、すぐにその考えを打ち消した。教室内を見渡したところ、一夜に視線を向けている者など、誰一人としていない。そもそも、今は授業の真っ最中である。最後尾の席に座っている一夜に視線を向ける可能性があるのは、教師ぐらいなものであった。


 だとしたら、一体誰が一夜を見ているのか。


「……」


 よく考えてみても、結局答えは出なかった。



***



 一夜は、昼休みが終わるとすぐに早退した。念のため、担任教師の許可はとってある。早退理由は、病気の兄の看病とした。


「……」


 一夜は殺気立ちながら通学路を歩いているが、それは端から見ても異様な光景であった。


 そんな一夜を見つめる視線は、彼のすぐ後ろまで迫ってきていた。正確に言えば、一夜の後ろにある曲がり角に隠れているようだった。


「……いい加減にしろ」


 一夜の堪忍袋は、ついに切れた。自宅まであと二十メートル。帰り着く前に終わらせる―― 一夜はそう固く誓って、勢いよく後ろを振り返った。


「……誰だ、あんたは」


 視線の主は、もう隠れてはいなかった。



「――はじめまして。"姫宮"くん」



 第一印象は、"赤い奴"だった。髪も瞳も不自然なほどの赤色。もう春の半ばにさしかかっているというのに、真っ黒なロングコートに身を包んだその姿は、異様に浮いて見えた。


 その男は真っ直ぐに一夜を見据え、にっこりと愛想よく笑った。


「俺の名は紅蓮――」


 誰もいない住宅街の真ん中に、赤色の男と男子高校生二人が対峙している。端から見れば、それは異様な光景である。それでも二人は視線をそらさず、一方は笑いかけ、一方は睨みつける。


 これは奇妙な運命の取り合わせだと、二人は感じていた。



「――"赤の断罪者"だ」



 奇しくもその日は、十三日の金曜日だった。


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