第一夜 赤のリボン
「――あれ? これ、何だろう」
「……」
千夜は高校からの帰り道、バス停前のベンチに引っ掛かった、赤のリボンを見つけた。それは鮮やかな赤色であるということ以外、何の特徴もない普通のリボンだった。
それなのに、千夜はどういうわけか、そのリボンを手に取った。そんな兄を、一夜はただ見ているだけであった。
「ねえ、一夜。これって、落とし物なのかな?」
「……」
交番に届けるべきなのかと思案する千夜に、一夜は沈黙をもってして答えた。
「……放置すべき?」
「……」
一夜は頷いた。すると千夜は、いかにも残念そうな表情で、短く溜め息をついた。
「綺麗なリボンなのに、もったいない」
「……拾ったところで、どうしようもないだろう」
「それはそうだけどさ……」
ようやく声を出した一夜に従いながらも、千夜は不満げであった。滑らかな手触りのそれを名残惜しくも元に戻し、千夜は言った。
「このリボンを探してる人が、いるような気がするんだよね……何でだろ……」
「……」
一夜は何も応えなかった。
***
「――無くなってる」
「何がだ?」
千夜と一夜が、あの赤のリボンを見つけた日の夜。例のベンチの傍に、人影が二つ現れた。
「リボンが、無くなってる」
そう答えたのは、深い海の色を思わせるような、"青の青年"であった。しかし、どことなく幼く、中性的なその外見からは、まだ少年とも言えるかもしれない。
「リボンって……"あの"?」
そう再び尋ねたのは、燃え盛る炎を思わせるような、"赤の青年"であった。傍らの"青の青年"よりも背が高く、大人びて見える。そしてなぜか、"青の青年"に顔立ちが似ているようにも思われた。
「まずいな……探すぞ」
「そんなに急ぐことなのか?」
"青の青年"は焦っている様子であったが、彼とは対照的に、"赤の青年"はのんびりとしている様子であった。それが"青色の青年"を苛立たせた。
「のんびり構えてる余裕はないぞ。下手をうったら――死人が出る」
「……分かったよ。でも、探すのは夜が明けてからだ」
「ああ。いずれにせよ、"あいつ"は誰かに取り憑いている可能性が高いからな」
そう言って互いに同意し合ったところで、二人は踵を返した。
「次は"黄色のリボン"を見に行くぞ」
"赤と青"の二人は、闇の中へと消えていった――。