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第5話 王都へ着きました。そして王宮へ

 しばらくすると、街が見えてきた。


「王都って、どんなところなんですか?」


 リアがそう尋ねると、ルシアスは少しだけ目を細めた。


「王都に行くのは初めてなのか?」


 その言葉に、リアは一瞬だけ言葉を詰まらせた。


 (……もちろん、初めてだ)


 リアが知っている世界には、この国も、王都も存在しない。


 けれど、今はまだ、自分がどうしてこの世界に来たのかすら分かっていない。


 だから今は、余計なことを考えるよりも、目の前の質問に答えることにした。


「はい。初めてです」


 リアは、そう答えた。

 

「王都は、この国の中心だ。王城があり、多くの人間が暮らしている」


「へぇ……」


「あとは商業も盛んですね」


 ノアが付け加える。


「珍しいものも多いですよ。リア殿が見たことのないものも、きっとあるでしょう」


「本当ですか!?」


 リアの目が輝く。


「どんなものがあるんですか?」


「それは着いてからのお楽しみですね」


「えーっ、教えてくださいよ」


「ふふっ。そんなに気になりますか?」


「気になります!」


 リアは即答した。


「だって、まだ何も分からないんですもん。せっかくなら、いろいろ見てみたいです」


「なるほど」


 ノアは楽しそうに笑った。


「では、王都に着いたら案内しましょうか?」


「本当ですか!?」


「ええ」


「ノアさん、優しい!」


 リアは、にっこりと微笑んだ。


「……そう言われると、案内するのが楽しみになってきますね」


 屈託なく笑うリアにつられるように、ノアの口元も自然と緩む。


 誰かを案内することを、こんなにも楽しみに思ったことがあっただろうか。


「?」


 リアは不思議そうに首を傾げた。


 その様子を見て、ノアは小さく笑った。


 二人の会話を、向かいに座っていたルシアスが静かに見ていた。


「ノア」


「はい?」


「あまり甘やかすな」


「殿下、案内するだけですよ」


「……そうか」


 ルシアスは短く答えた。


 リアは二人のやり取りを見て、首を傾げる。


(……なんだか、この二人って面白いな)


 少しだけ、緊張が和らいだ気がした。

 

 しばらくすると、馬車の速度がゆっくりと落ちていった。


「……?」


 リアは窓の外へ視線を向ける。


 先ほどまで続いていた街道とは違い、周囲には次第に人の姿が増えていた。


 行き交う人々。

 道沿いに並ぶ店。

 色とりどりの商品が並べられた露店。


 聞き慣れない言葉が飛び交い、活気のある声があちこちから聞こえてくる。


「わぁ……」


 思わず、リアの口から声が漏れた。


「ここが……王都?」


「ええ」


 ノアが答える。


「エルディア王国の中心地です」


 馬車は大通りを進んでいく。


 建物はどれも大きく、道も広い。


 たくさんの人が行き交っているのに、不思議と道は整然としていた。


「すごい……」


 リアは窓に近づき、夢中になって外を眺めていた。


 そんなリアを見て、ノアが小さく笑う。


「気に入りましたか?」


「はい! 見たことのないものばかりで……!」


「それなら、王宮はもっと驚かれるでしょうね」


「王宮……」


 リアが呟いた、そのとき。


 馬車が大きく曲がった。


 やがて、目の前に巨大な門が現れる。


 門の両脇には、武装した兵士たちが立っていた。


 馬車が近づくと、兵士たちは一斉に姿勢を正した。


 そして――


「殿下!」


 兵士たちが一斉に頭を下げた。


 リアは目を丸くする。


 馬車はそのまま門を通り抜け、王宮の敷地へと入っていった。


 王宮は、リアが想像していたよりもずっと大きかった。


 白い石造りの建物。


 高くそびえる塔。


 広大な庭園。


 まるで物語の中に出てくる城そのものだった。


「すごい……」


 リアが呟く。


 馬車が止まり、ノアが先に降りた。


「どうぞ」


 差し出された手を借りて、リアも馬車から降りる。


 その瞬間だった。


「殿下、お帰りなさいませ!」


 駆け寄ってきた数人の男たちが、ルシアスの前で頭を下げた。


「……報告は」


 ルシアスの声が、先ほどまでとは違っていた。


 冷たく、感情のない声。


「は、はい! それが……」


「言い訳は聞いていない」


 男がびくりと肩を震わせる。


 リアは思わず、ルシアスを見た。


「ですが、今回の件は予想外の事態でして……」


「予想外?」


 ルシアスが、ゆっくりと男を見下ろした。


「お前たちは、予想外の事態が起きたら何もしないのか?」


「……っ」


「結果を出せなかった理由を並べる暇があるなら、次にどうするかを考えろ」


 淡々とした口調だった。


 怒鳴っているわけではない。


 それなのに、その場の空気は一気に張り詰めた。


 男たちは顔を青ざめさせ、深く頭を下げる。


「……申し訳ございません」


「下がれ」


「はい!」


 男たちは慌ててその場を去っていった。


 リアは、しばらく何も言えなかった。


 すると、隣にいたノアがリアにそっと身を寄せる。


「……殿下は、周囲から『冷酷な王子』と呼ばれているんですよ」


「えっ……」


 リアは驚いて、ルシアスの背中を見る。


「冷酷……」


「はい。今のが、まさにそうです」


「なるほど……」


 リアは少しだけ考えたあと、ぽつりと呟いた。


「まぁ、王子様ですもんね」


「……え?」


「王子様って、やっぱり厳しいんですね」


 リアが妙に納得したように頷く。


「…………」


 ノアは、堪えるように口元を押さえた。


「……リア殿」


「はい?」


「ふっ……やっぱり面白い方ですね」


「え?」


 リアはきょとんと首を傾げる。


(……この子、思っていたより肝が据わっているな)


 ノアは小さく笑ったあと、前を歩くルシアスへ視線を戻した。


「殿下」


 ノアが、いつもの調子で声をかけた。


「リア殿をどうします?」


「……」


 ルシアスはリアへ視線を向けた。


 そして、ほんのわずかに眉を寄せる。


「まずは、事情を聞く」


 その言葉に、リアは背筋を伸ばした。


 王宮へ来たばかりなのに。


 いったい、これから何が始まるのだろう。


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