↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/18

第16話 国王陛下に挨拶をしました。

 三人は書庫を出ると、王宮内の廊下を歩いていた。


 すると、奥からルシアスがこちらへ歩いてくるのが見えた。


「殿下、お疲れ様です」


 ノアがルシアスに声をかける。


「ああ。何かわかったことはあったか?」


「はい。アストリア王国について、少し気になることが」


 ノアが答える。


「魔法技術が非常に発達した国だったことや、アヴェリオス王国と友好関係にあったことは、殿下もご存じですよね」


「そうだな」


 ルシアスは頷いた。


 ノアは、わずかに眉を寄せる。

 

「実は、滅亡に至るまでの詳しい記録がほとんど残っていないんです」


「……ほとんど?」


 ルシアスの表情がわずかに変わった。


「はい」


 リアも頷く。


「近隣国から攻撃を受けたことや、その後エルディア王国が領土を併合したことは書かれていました。でも、戦争が始まってから何があったのかとか、王都がどうやって陥落したのかとか……そういう詳しいことは、ほとんど分かりませんでした」


「まるで、記録そのものが失われているようでしたねぇ」


 オスカーが口を挟む。


「これほど魔法技術の発達した国なら、もっと多くの資料が残っていてもおかしくないはずなんだけどね」


「……そうか」


 ルシアスは、しばらく黙っていた。


「アストリア王国の滅亡については、俺も詳しいことは知らない」


「殿下もですか?」


 ノアが驚いたように尋ねる。


「ああ。十一年前、俺はまだ九歳だったからな。当時、父上がアストリア王国への救援を決めたことは覚えているが、エルディア軍が到着した時には、すでに王都は壊滅していた」

 

「……」


 リアは黙ってルシアスの話を聞いていた。


「その後、残された民を保護するために、アストリア王国の領土を併合した」


 ルシアスの視線が、リアへ向く。


「それが、俺の知っていることだ」


「そうだったんですね……」


 リアは小さく呟いた。


「でも、やっぱり調べてみたいです」


 リアは、はっきりと答えた。


「アストリア王国がどうして滅びたのか。私がどうしてこの世界に来たのか。どうしてあの魔法陣を描けたのか……知りたいです」


「そうだな」


 ルシアスは短く答えた。


「アヴェリオス王国にも、何か手がかりがあるかもしれない」


「ですよね!」


 リアは期待に目を輝かせる。


 ノアは小さく頷くと、そっとルシアスへ歩み寄った。


「殿下。一つ、気になることがあります」


「……何だ」


 ノアは声を潜める。


「リア殿がこの世界へ来た日と、アストリア王国が滅びた日が一致しています」


「……」


 ルシアスの表情がわずかに変わる。


 ――リアがこの世界へ現れた日。


 そして、


『実は今日が誕生日で』


 あの時のリアの言葉が脳裏をよぎる。


「……そうか」


 ルシアスは小さく呟いた。


「まだ偶然という可能性もありますが……」


「いや」


 ルシアスは静かに首を振る。


「頭に入れておこう」


 その一言だけ返し、ルシアスは視線をリアへ向けた。


「おやおや、随分と楽しそうだねぇ」


 オスカーが、楽しそうに口を挟んだ。


「アヴェリオス王国に行くのかい?それなら僕も――」


「先生」


 ノアがすかさず遮る。


「まだ行くと決まったわけではありませんよ」


「おや、そうかい?」


 オスカーは残念そうに肩をすくめた。


「リアちゃんと一緒に行けると思ったのに」


「先生は、まず魔力のコントロールの指導でしょう」


「それも大事だけどねぇ」


 オスカーはリアを見る。


「明日から、僕と魔力の練習をするんだよ。楽しみにしていてね」


「はい!」


 リアは元気よく返事をした。


「ただ、その前に」


 ルシアスが口を開く。


「明日、父上に会ってもらう」


「……え?」


 リアの動きが止まった。


「父上……?」


「ああ」


「えっと……」


 リアの顔が、少しずつ引きつっていく。


「それって……王様、ですよね?」


「そうだ」


「……」


 リアは、固まった。


 王様!?


 まさか、こんなに早く会うことになるとは思っていなかった。


「この国に滞在する以上、挨拶は必要だ」


 ルシアスは淡々と告げる。


「明日の午前、時間を取ってある」


「は、はい……!」


 リアは慌てて返事をした。


 けれど。


 (どうしよう……!王様って、何を話せばいいの!?)


 リアの頭の中は、すでに明日のことでいっぱいになっていた。


 そのため、夕食もあまり喉を通らず、夜もなかなか眠れなかった。


 そして翌朝。


「リア様、おはようございます」


「……ん?もう朝?」


 リアは、ぼんやりと目を開けた。


 昨夜なかなか寝つけなかったせいか、少し寝不足気味だ。


「リア様、あまり眠れなかったのですか?」


 ナタリーが心配そうに声をかける。


「おはようございます、ナタリーさん」


 リアは上半身を起こしながら、苦笑した。


「今日、王様にご挨拶しなくちゃいけなくて……緊張して、あまり眠れなくて」


「あらまあ」


 ナタリーは、少し驚いたように目を見開いた。


「それは緊張してしまいますよね」


「ですよね!?」


 リアは、ぱっとナタリーを見る。


「何を話せばいいのかも分からないし、変なことを言ったらどうしようって……」


「大丈夫ですよ、リア様」


 ナタリーは、安心させるように微笑んだ。


「国王陛下は、とてもお優しい方ですから」


「本当ですか?」


「ええ。それに、リア様はいつも通りで大丈夫です」


「いつも通り……」


 リアは少し考える。


「でも、王様の前ですよ?」


「ふふっ」


 ナタリーは小さく笑った。


「では、無理に何か話そうとしなくても大丈夫です。ご挨拶をして、聞かれたことにお答えすればよろしいかと」


「なるほど……」


 リアは少しだけ肩の力を抜いた。


「それなら、なんとかできそうです」


「はい。きっと大丈夫ですよ」


 ナタリーはそう言うと、リアの着替えを用意し始めた。


 それでも、リアの緊張が完全になくなったわけではない。


(王様かぁ……)

 

 着替えを終え、髪を整えてもらうと、リアは鏡の前で自分の姿を確認した。


「……大丈夫かな」


「ええ、とてもお似合いですよ」


 ナタリーが微笑む。


「本当ですか?」


「はい。自信を持ってくださいませ」


 リアは胸の前で、ぎゅっと手を握った。


(よし……大丈夫。普通に挨拶すればいいだけ)


 そう自分に言い聞かせる。


 その時。


「リア」


 部屋の外から、聞き慣れた声が聞こえた。


「ルシアスさん?」


「迎えに来た」


「は、はい!」


 リアは慌てて立ち上がった。


 ナタリーに見送られながら部屋を出ると、そこにはいつもと変わらない様子のルシアスが立っていた。


「おはようございます、ルシアスさん」


「ああ。よく眠れたか?」


「……」


 リアは、一瞬黙った。


「……あまり」


「そうか」


 ルシアスはリアの顔を見つめる。


「緊張しているのか?」


「はい……」


 リアは正直に頷いた。


「王様に会うの、初めてなので」


「父上は怖くない」


「でも、王様ですよ?」


 リアが不安そうに見上げると、ルシアスはほんの少しだけ目を細めた。

 

 そして、口元にかすかな笑みを浮かべる。


「……そうだな」


「えっ」


「いや」


 ルシアスは踵を返す。


「行くぞ」


「はい!」


 リアは慌ててその後を追った。


 いよいよ、国王との対面だった。


 王族専用の応接室に案内され、中へ入る。


「父上、連れてきました」


 ルシアスが、部屋の奥にいる国王へ声をかけた。


「……ああ」


 国王は手にしていた書類から顔を上げた。


「は、初めまして。リアと申します」


 リアは慌てて頭を下げる。


「……」


 国王は、何も言わなかった。


 ただ、リアの顔をじっと見つめている。


 その視線は、リアを見ているようで――どこか別の誰かを見ているようにも思えた。


「……父上?」


 ルシアスが、不思議そうに声をかける。


「ああ……すまない」


 国王は、そこでようやく我に返ったように目を瞬かせた。


「少し、昔の知人に似ていると思ってな」


「え?」


 リアは顔を上げる。


「私が、ですか?」


「ああ」


 国王は、もう一度リアの顔を見つめた。


「……いや。気のせいかもしれん」


 そう言って、国王は穏やかに微笑んだ。


「よく来たな、リア」


「は、はい!」


 リアは緊張したまま、もう一度頭を下げた。


「王宮での暮らしには慣れたか?」


「えっと……皆さん、とてもよくしてくださって……!」


「そうか。それならよかった」


 国王が穏やかに笑う。


 その後、いくつか言葉を交わし、リアは国王のもとを辞した。


 部屋を出た瞬間。


(……終わったぁぁぁ……!)


 リアは心の中で大きく息を吐いた。


 緊張したけど、優しそうな方でよかった……


 リアは、ほっと胸を撫で下ろした。


 それに、ルシアスさんと少し似ていた気がする。


 そんなことを考えながら、リアは小さく微笑んだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます!

続きが気になりましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです☺️

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。