第1話 十八歳になりました。
十二月十五日。
今日は、一ノ瀬リアの十八歳の誕生日。
「今日で十八歳かぁ……」
リアは鏡の前で、髪型を整える。
高校生活も、残すところあと三ヶ月。
春からは、一人暮らしを始めることになっている。
物心ついた頃から、ずっとこの児童養護施設で過ごしてきた。両親については、ほとんど何も覚えていない。
お世話になった施設を出るのは少し寂しいけれど、それ以上に憧れていた一人暮らしが楽しみだった。
自分の好きな時間に起きて、好きなものを食べて、好きなように過ごす。
そんな生活を想像するだけで、自然と頬が緩む。
身支度を終えたリアは、食堂へ向かった。
この施設で食事を作ってくれているのは、坂本千代という六十歳の女性だ。料理が上手で、いつも笑顔の千代を、リアは昔から慕っている。
「リアちゃん、おはよう。あと、お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます!」
千代の笑顔につられるように、リアも笑った。
「今日の夜はリアちゃんの好きなもの、用意してあるからね」
「本当ですか?」
リアの目が輝く。
「何だろう……楽しみ!」
リアにとって、千代の作る食事は昔から楽しみのひとつだった。
千代と他愛のない会話を楽しみながら朝食を食べ終えると、リアは席を立った。
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末さま。気をつけて行ってらっしゃい」
「それでは、行ってきます」
リアは笑顔で千代に手を振ると、食堂を後にした。
最寄り駅まで歩き、いつもの電車に乗る。
窓から流れる街並みをぼんやり眺めているうちに、あっという間に学校の最寄り駅へ到着した。
校門をくぐると、いつもと変わらない賑やかな朝の風景が広がっている。
友達の笑い声や部活動の掛け声が聞こえ、少しだけ足取りを軽くしながら教室へ向かった。
学校に着くと、親友の唯がリアのもとへ駆け寄ってきた。
「リア、お誕生日おめでとう! これプレゼント!」
「わぁ……! ありがとう!」
唯から手渡されたのは、可愛らしくラッピングされた小さな包みだった。
「開けていい?」
「もちろん!」
リアが包みを開けると、中から出てきたのは、今流行っているリップクリームだった。
「唯ちゃん! ありがとう。これ、ずっと気になってたやつ!」
リアは嬉しそうにリップクリームを眺める。
「大切に使うね」
「うん! リアに似合うと思って!」
リアはプレゼントを大事そうに鞄へしまった。
唯と笑い合っていると、そのあとも友達から次々とお祝いの言葉やプレゼントをもらった。
そして――
「一ノ瀬さん、お誕生日おめでとう。もしよかったら……これ、もらってほしいな」
声をかけてきたのは、同じクラスの長谷川晴人だった。
差し出されたプレゼントを見て、リアは目を輝かせる。
「えっ! いいの? ありがとう!」
「う、うん……!」
晴人は、少し顔を赤くしてうつむいた。
リアはそんな晴人をじっと見つめる。
「……晴人くん、顔赤いけど大丈夫?」
「えっ!?」
「熱でもある?」
「ち、違うよ!」
慌てる晴人を見て、リアは首を傾げた。
その様子を見ていた唯が、リアの耳元で小さく囁く。
「晴人くん、絶対リアに気があるよね」
「えぇ? まさか!」
「鈍感ね……。 あんなに顔を赤くして、プレゼント渡してたじゃん」
「でも、誕生日だからだよ?」
「いや、それだけじゃないと思うけど……」
唯が呆れたようにため息をつく。
こういうことは、今回が初めてではない。
その容姿と親しみやすい性格から、リアは男女問わず周囲から好かれていた。けれど、本人にはその自覚がまるでない。
リアは、もらったプレゼントを嬉しそうに眺めた。
「でも、嬉しいなぁ」
「……そういうところよ」
「え?」
「なんでもない」
唯は小さく首を振った。
リアは不思議そうに首を傾げる。
「……? 変なの」
そう呟きながら、リアはもう一度プレゼントを眺めた。
「そういえばリアって、高校卒業したら施設出るんだよね?」
「そうそう。あともう少しで一人暮らしだよ。たくさん遊びに来てね」
「もちろん! 毎週遊びに行く!」
唯は高校を卒業したら、大学へ進学することになっている。
「どんな部屋にするか、もう決めたの?」
「まだ探してるところ。でも、駅に近いところがいいかな」
「駅近、重要! あと私も遊びに行きやすいところがいい!」
「そこ?」
リアが笑うと、唯も楽しそうに笑った。
「リアは、卒業したら何するの?」
「んー……まだ決めてないんだ」
「えっ、そうなの?」
「うん。働きながら、やりたいことを探そうかなって」
リアは少し照れくさそうに笑った。
一人暮らしも、その先の未来も楽しみではある。
けれど、本当に一人でやっていけるのかと思うと、少しだけ不安もあった。
卒業まで、あと三ヶ月。
こうして唯とくだらない話をして笑える時間も、残りわずかだ。
「まあ、今はまだ考えなくてもいいか」
「え?」
「せっかくの高校生活なんだし、卒業まではいっぱい遊ばないと!」
リアが笑うと、唯も頷いた。
「それは賛成!」
二人は顔を見合わせて笑った。




