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オタク、刀に狂う  作者: Asansol ackey
第二章:スタンビート
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2-6:総理と、一振り

会場へ向かう車中、九条恒一は、珍しく落ち着かない気分でいた。


「総理、緊張されていますか」


秘書官が、からかうように言う。


「まさか」


否定はしたが、実際のところ、少し落ち着かなかった。


今日、初めて顔を合わせる青年がいる。


神崎錬司。


これまで、何度も資料の中で目にしてきた名前。


意見交換会での考察。


素材譲渡の申請書類。


そして、探索者ランキングの記録。


一本の線で繋がっていると気づいた時の驚きは、今もまだ胸に残っている。


会場に到着すると、既に有識者委員の四人が揃っていた。


「総理」


「ご苦労様です」


九十九蒼、東雲環、黒沢玲、南一颯。


この数ヶ月、共に制度の骨格を作り上げてきた仲間たちだった。


その輪の中に、見慣れない、若い青年の姿がある。


(あれが)


九条は、一目でそれと分かった。


配信で見た、アバターの向こうにいた本人。


「君が、神崎錬司くんか」


声をかけると、青年は勢いよく背筋を伸ばした。


「は、はい! 神崎錬司です!」


緊張しきった声。


その様子に、思わず頬が緩みそうになる。


総理大臣という立場に慣れていない相手の反応は、いつも新鮮だった。


「......ずっと、資料の中で君の名前を見てきた気がする」


率直に伝える。


「意見交換会。素材譲渡の申請書類。探索者ランキング。何度も、目にしていたんだ」


「......光栄です、総理」


深々と頭を下げる青年を見ながら、九条は、改めて実感していた。


国家という大きな制度を作りながら、その先に、こうして一人の人間の人生があることを。


自分たちが積み上げてきたものが、机上の空論ではなかったことを。


「その荷物は」


青年が抱えていた、細長い包みに目を留める。


「あ、これ......」


少し迷った様子の後、青年は、布に包んだそれを取り出した。


「最初に打った刀です。もしよければ、見ていただけますか」


「......ぜひ」


九条の胸が、静かに高鳴った。


布が解かれる。


現れたのは、一振りの日本刀だった。


照明を受けて、刃文が静かに輝く。


波打つ模様の合間に、かすかな青紫の光が揺れていた。


「......見事だな」


思わず、声が漏れた。


美術品としての美しさもさることながら、九条の胸を打ったのは、それとは別のものだった。


あの日。


廃刀令以来の転換だと、自ら会見で口にした日。


あの決断が、今、目の前で、確かな形になっている。


国家が定めた制度の先に、こうして一人の若者が、堂々と刀を抱えて立っている。


「触れても?」


「もちろんです」


差し出された柄を、そっと持つ。


思ったより、軽い。


だが、確かな重みが、手のひらに伝わってくる。


「この刀に使われている素材は」


「一層のごく浅い区画で見つけた鉱石と、玉鋼を折り返し鍛錬で馴染ませたものです」


青年は、目を輝かせながら説明を続けた。


精錬できない硬さ。


異物質同士でしか加工できない性質。


試行錯誤の末に辿り着いた鍛法。


その語り口には、専門家すら舌を巻くような、確かな知識と情熱があった。


「見事な仕事だ」


九条は、静かに刀を返した。


「これほどのものを、一人の探索者が、自らの手で生み出しているとはな」


「まだまだ、これが理想の一振りではないです。もっと、いいものが打てるはずだと思っています」


迷いのない声だった。


九条は、その言葉に、この国の未来の一端を見たような気がした。


制度は、道を整えるだけのものだ。


その道を、実際に歩き、何かを生み出すのは、こうした一人ひとりの情熱だった。


「これからも、励んでくれ」


「はい! ありがとうございます!」


九条は、青年から、少し離れた場所に立つ四人の有識者たちへ視線を移した。


誰もが、穏やかな表情でこの光景を見守っている。


(この国は)


九条は、静かに思う。


(案外、いい方向に進んでいるのかもしれんな)


窓の外、東京の空は、静かに晴れていた。


この日の懇談会は、予定を大幅に超え、三時間以上続くことになった。

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