1-25:探索者制度、発表
「本日、政府として『探索者制度』の基本方針を発表いたします」
九条恒一の声が、会見場に響く。
いつもより、報道陣の数が多い。
テレビカメラの放列。
海外メディアの姿も、これまで以上に目立った。
「まず、資格制度についてです」
スクリーンに資料が映し出される。
「内部への立ち入りを許可制とし、五段階のランクを設けます。第五級から第一級まで、実技と講習を経て段階的に昇格する仕組みです」
記者たちがペンを走らせる。
「第五級の取得には、身体検査及び基礎講習のみで対応可能です。上位級ほど、実地経験と試験が必要になります」
「素材の扱いについては」
「採取された素材は、原則として国が買い取ります。ただし、危険度・希少度が一定基準以下の素材については、探索者本人の申請により、研究機関または職人への譲渡を認めます」
この一文に、会場が小さくざわついた。
「配信活動についても、許可制とします。生命に関わる映像の公開制限、位置情報の秘匿義務などを定めます」
九条は、一拍置いた。
ここから先が、今日の本題だった。
「そして」
資料が切り替わる。
「近接武器の携行についてです」
会場の空気が、明確に変わった。
「調査の結果、内部生物の一部には、銃器による有効打が得にくい個体が確認されています。これを踏まえ、探索者資格保持者に限り、業務目的での刃物携行を特例として認めることといたします」
どよめきが広がる。
「ご質問をどうぞ」
真っ先に手が挙がった。
「NHKです。刃物の携行と申しますと、日本刀のようなものも対象になるのでしょうか」
「対象となり得ます。ただし、認定を受けた作業用途に限られ、通常の銃刀法とは別枠での運用となります」
記者がメモを取る手を止め、顔を上げる。
「総理、これは......廃刀令以来、初めての大きな転換ということになりますか」
九条は、少しだけ間を置いた。
その質問への答えは、実は昨夜のうちに、自分でも何度も考えたものだった。
「この国は、かつて刀を手放すことで近代化を進めました。今回は、逆です」
はっきりと言う。
「未知の脅威に立ち向かうため、必要な手段として、改めてその選択肢を取り戻す。そう捉えていただいて構いません」
会場が、しんと静まった。
「別の質問を」
「一般開放の時期については、いかがでしょうか」
「現時点で、明確な期日はお約束できません」
九条は、慎重に言葉を選ぶ。
「ですが、制度の骨格が固まった以上、次の段階へ向けた準備は着実に進んでいます」
「つまり、遠くない将来に、ということでしょうか」
「......そう受け取っていただいても、間違いではありません」
会見場が、これまでで一番大きくどよめいた。
会見は一時間半に及んだ。
終了後、控室に戻った九条は、深く息を吐いた。
「総理、お疲れさまでした」
「ああ」
ソファに腰を下ろす。
資料の束を見つめながら、思う。
(まさか、刀の話を、自分の口から発表する日が来るとはな)
あの分科会での議論から、ここまで来た。
早い。
早すぎるくらいだ。
だが、それだけ本気で取り組んできた証でもある。
スマホが震える。
孫からのメッセージだった。
『会見見たよ!!』
『刀持てるようになるとかヤバすぎる!!』
『じいちゃんが決めたんでしょ?』
九条は、小さく笑って返信を打つ。
『わしだけの手柄じゃない』
『みんなで決めたことだ』
『でも、じいちゃんが最初に言い出したんでしょ?』
図星だった。
答えず、代わりに窓の外を見る。
夕暮れの東京。
あの門の方角。
まだ、何も終わっていない。
むしろ、ここからが本番だ。
だが、確かな手応えがあった。
この国は、未知への向き合い方を、少しずつ見つけ始めている。
「......さて」
九条は、スマホをしまいながら呟いた。
「世界はこれを、どう見るかな」
その答えは、その日の夜のうちに、世界中から届くことになる。




